作品が生まれ、死に、そして甦るということ~J.S.バッハ、シンデレラ、そして初音ミク

拙記事「僕たちは、初音ミクに救われた 誕生12年『機械の声』がつなぐもの」を記事の裏側の主題からみて、作品の生と死、そして復活を支える人のつながりについて、つれづれに投稿したものをまとめました。情報を補完してくださった歌らんさん、古月さんに厚くお礼申し上げます。バッハ・シンデレラ・初音ミクとは、話が大きいですが、データと論理の流れとしては一貫していると思っています。
ボーカロイド シンデレラ 初音ミク メトカーフの法則 ボカロ バッハ スヴィーテン男爵 ニコニコ動画
99
リンク withnews.jp 83 users 217 僕たちは、初音ミクに救われた 誕生12年「機械の声」がつないだもの - withnews(ウィズニュース) 今年誕生12周年を迎える初音ミク。彼女たちボーカロイドの歌う歌は、見知らぬ人同士をつなぎ、ときにその心を支えてきた。彼女たちの歌に救われて歩んできた若者たちの半生を聞いた。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
メトカーフの法則は、ヒット作家なりヒット作品なり、文化全般にも当てはまる残酷なもので、それでもなお、例えばバッハの価値を伝え続けたスヴィーテン男爵のような「たった一人の心底からの共感者」を得た作家・作品は、甦る可能性を持つ。それが文化というものが秘める真の夢だと思っている。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
文化作品におけるメトカーフの法則の無残さ・残酷さ、つまり、「売れるものしか生き残れない」という現実を、私がデータに基づいて具体的に実感したのは2007年春。それは朝日新聞beで1ページの大型記事にし、別途 論文もウェブ上に無料公開した。 この無慈悲さは、息をのむ。 thinkcopyright.org/tanji-book.pdf
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
作品がどれほどまでに残酷に淘汰されるか、詳細は論文に書いたとおりながら、ひと目でわかるのがこの二つのグラフ。ほとんどの作品は、世に出たとしても、たいていはそのまま忘れられる──刺激的な表現をすれば「死ぬ」。 pic.twitter.com/Z0EMMULJ0Y
拡大
拡大
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
作品の発表が文化産業(レコード会社や出版社など)を経由するしかなかった時代には、デビュー前にさらに関門があった。営利企業である以上、売れることが見込めないとデビューさせることは難しい。これも刺激的に言えば「足切り」。スカウトの目にかなわなければ、作品を世に出すことすらできない。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
インターネットは黎明期からそのルールを徐々に変えてきた。今から見ればはるかに貧弱な初期のホームページでも、例えば文章作品を、その後、mp3などのアップロード/ダウンロードが可能になると、音楽作品も公開し、ファンを獲得する作家も現れた。とはいえ100ダウンロード程度で大ヒットという世界。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
この残酷なデータを算出して(たぶん同種のデータを出しているのは世界でも3人程度のはず)、文化という豊かな言葉と裏腹の無慈悲さに戦慄した2007年という同じ年、前提のいくつかを大きく変える現象が起きた。同年初めのニコニコ動画正式開始、そして8月31日の初音ミクの登場。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
ちなみにニコ動の開始は2006年末が正しいのではないかという声もあると思いますが、「2007年初めとしていただいてOKです」というドワンゴ広報さんからの確認をいただいています。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
初音ミクの登場と、ニコニコ動画のサービス開始時期が逆転していたら、この(個人的に奇跡と思っている)現象は起きなかったと思う。ニコニコ動画→初音ミクという登場順だったから、しかも間に8カ月程度というかなり適度な準備期間があったから、この”奇跡”は現実になった。
歌らん(平凡な一般人) @weekly_utaran
@tanji_y 時期、でいうともう一つあって、ニコニコ動画初期から歌ってみたが隆盛となりニコニコ動画で流行った音楽は歌われる前提となっていたことでボカロ=機械合成音の声質が苦手な人へのアプローチができそこからボカロ原曲に親しみボカロの声質になれることが出来たということ
歌らん(平凡な一般人) @weekly_utaran
@tanji_y そして、全く別アプローチとして、2005年にTHE IDOLM@STERがスタートしていて、ニコニコ動画で「ニコマス」の文化が花開きはじめていたこと。「P」という単語に代表されるように初期のボカロがアイマスの文化に大きな影響を受けているのは明らかです。
歌らん(平凡な一般人) @weekly_utaran
@tanji_y たぶんこれらが初音ミクの登場よりあとだったとしてもおそらくこうはならなかったと思います。時期の奇跡は本当に大きいですね。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
メトカーフの法則などと並んで、個人的に真理と感じているもうひとつの法則が次。 「量的変化は質的変化を引き起こす」 ニコニコ動画と初音ミクの起こした変化は、こまごまとした質的変化以上に、圧倒的に量的なものだった。量的変化は、地殻変動レベルの質的変化を引き起こす。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
初音ミクとニコニコ動画が起こした変化のごく一部を挙げれば、 (1)デビューや作品発表のための障壁(前述の「足切り」含む)がほぼゼロになった (2)ボーカル作品の制作・発表コストが劇的に低減した (3)n次創作の制作・発表が著作権的にほぼ「白」になった(PCRなどの後押し)
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
(4)作品を通じて、ジャンルを越えたクリエイター同士のネットワークが、自然発生的に、かつ大量に生まれた(2008年2月のMMD無料公開後さらに大幅加速) (5)作り手と聴き手の直接のネットワークも同様 (6)100ダウンロード程度ならヒットだった従来の音楽作品の聴取規模が3〜4桁レベルで上がった
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
(7)そうしたも要素の複合的結果として、文化作品の伝播にかかわる本質的な原点回帰が起きた。人は、愛する作品を単に語るだけでなく、自分なりのリスペクトを込めて再構成し、再び他の人に伝えることが許された。「シンデレラ」の類話が世界で千近く存在するのと同根の現象が、現代に再現された。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
(8)しかも「シンデレラ」類話などが生まれた口頭伝承の時代には不可能だったこと、つまり「原典」が確認できる一方で、そうした派生作品が同時に存在できた。当初、誰も振り向かなかった作品でも、無上の価値を見出す誰かが情熱を込めた二次創作をすることで、存在を知らしめることができた。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
「初音ミクの奇跡」という情緒的表現を、客観的文言で説明すれば以上のようになる(これでも一部)。 「初音ミク現象」という呼び名にはこうした裏付けがある。歌声合成エンジン、コメント機能付き動画サイト、キャラクターつきソフトウェア──それら個々の要素が止揚された結果としての「奇跡」。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
私が、さまざまなVOCALOIDやUTAUほかの歌声合成ソフト、およびキャラクターを、初音ミクに代表させて語るのは、そういう意味もあります。 それまでの作品制作や発表、作品生存に宿命的に課せられたさまざまなルールを根本から変え、ないしは揺さぶった。このルールチェンジをしたのは彼女のみ。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
複数のレコード会社や音楽業界の関係者に普通に聞いた話。 「アマチュアバンドなどをスカウトする際、ほとんどの場合、仕事は辞めてもらう必要がある。だがデビューから3枚程度アルバムを出して売れなければ、契約は更新できない」 かつて作品を世に出すとは、人生を賭けた決断と隣り合わせだった。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
初音ミク現象に注目していたレコード会社の人はこう続けた。 「初音ミクの登場で、クリエイターのチャンスは本当に広がったと思いますよ。我々にしても、人生を賭ける決断を迫るのは、どうしてもためらいがある」 別の人は「我々としても、賭けを避ける判断材料が増えた」と現金に語った。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
そのうえで、「忘れられる作品」「注目されない作家」がなお生まれるのは、これはもはや「文化作品は根源的にそういう宿命的性格を持っている」という原点を確認するしかない。それでもなお、(7)(8)に書いたような原理により、その危険は従来に比べてはるかに低減されている。この図を再掲。 pic.twitter.com/vtxu6zzCZG
拡大
拡大
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
2007年初めの2カ月半ほど、亡き著作者たちの名前一つ一つを国会図書館データベースに入力しては、その無残な「死滅ぶり」に、時に肌粟立つ思いをしながらまとめた実データが、このリンクのエクセル表です。一人一人が実在の人物、そして圧倒的多数が忘れられた著作者たち。 dropbox.com/s/9givjdcuwzby…
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
こうしたデータを実際に算出した者として、デジタルコンテンツや文化作品に抱く恐怖に近い危惧は、ある日、痕跡程度しか残さずこの世から消えてしまうものが多数あること。 ソシャゲなどは典型的。ほぼ完全にかき消える。再評価の材料すら残されていない。グーテンベルク以前に戻っている。
丹治吉順 a.k.a. 朝P @tanji_y
自分が初音ミクとニコニコ動画に感じた初期衝動のようなものは、こうした「デビューや作品生存の無慈悲な現実」に影響されていると今も思う。 2008年2月に朝日新聞に書いた最初の記事で登場してもらったのは、専門学校生・夏樹くらさん、プロのサウンドクリエイターOPAさん、そしてワンカップP。
残りを読む(14)

コメント

ぱめやめ屋 @ut00dd 10日前
僕はボカロやその派生作品ばかり聞いて育って大人になったけど、その趣味をバカにされたりして、恥ずかしく思うことが少なからずありました。 でもこの記事を見て、ずっと好きでいて良かったなって思えました。
風のSILK @PSO_SILK 10日前
「知らない作品を評価はできない」。常々言ってるけど、かつての作品たちは「会社」という壁を乗り越えることができずに数多くが人目に触れること無く消えていった。(質の担保という意味でそれを悪と呼ぶつもりはない)けれどそれ以上に今問題なのは「同じ理由で過去の名作が人目に触れないよう抹殺されていく」という事実。「金にならないなら売りもしない」で十数年塩漬けにされたら人々から忘れ去られてしまう。
ネットで通りすがるブラジル人 @ntbxp 3日前
ゲームにおいてはアーカイブ(割れ)の行為すら違法だからな・・・物理も劣化して消えるしかない・・・ソシャゲなんてソースコード無しじゃ無理ゲー。
ネットで通りすがるブラジル人 @ntbxp 3日前
作ってる会社にとってゲームが時間が立つに連れて消えるのは本望だと思う。
ログインして広告を非表示にする
ログインして広告を非表示にする