「変身依存症」に関する魔法少女への取材

魔法少女は変身の際に快感を感じるというが、近年、その快感が過剰に引き起こされているとして「変身依存症」に陥る少女が増えているという。我々はその真相を追った。
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@akuochiken

魔法少女が変身する時は快感を感じているというのが通説であるが、これは魔法少女へと変身する敷居を下げ、また戦闘への恐怖を快感で麻痺させているためと言われている。しかし近年、これらの快感が過剰に引き起こされているとして「変身依存症」に陥る少女が増えている。我々はその真相を追った。

2019-09-17 19:42:49
@akuochiken

1人目の魔法少女は魔法少女歴6ヶ月、変身方法は魔法のステッキに願いを掛けて変身するタイプ。期間も変身タイプもごく普通の魔法少女だ。そんな彼女も、最近不安に思っていることがあるという。 「私、このステッキが手元から消えたらどうなるんだろうって、思うんです」 彼女はそう語った。

2019-09-17 22:35:37
@akuochiken

確かに、ステッキがなければ変身できないのだから、いざ変身となった時に変身できなければ人々を救うことができない。魔法少女が常に魔法のステッキを肌身離さず持ち歩くことは課題であろう。 「いえ、そうじゃないんです……私、このステッキがないと満足できなくて……」 どういうことだろうか?

2019-09-17 22:38:14
@akuochiken

「私は半年前までは何の力もない普通の少女だったんです。それが魔法少女になって……みんなを救えることがすごい快感だったです。私を感謝の眼差しで見られることが快感だったんです。それが、いつの間にか魔法少女の姿でいることが快感になって……我慢できなくて家でも変身してるんですよ」

2019-09-17 22:51:24
@akuochiken

彼女は遠い目をして続けた。 「ある日、家から帰ってきて私はそのステッキを傘立てに置き忘れてしまったんです。私の部屋に入って、さぁ、今日も変身しようと思ったらどこにもステッキがなくて……寂しい思いをしました。切ない思いをしました。だって、ここはぐっしょり濡れ始めていたのに……」

2019-09-17 22:54:35
@akuochiken

彼女は太ももに手を当てて、視線を下部へと向けていた。 「両親にも気付かれずにステッキも回収できたのですが、その時気付いたんです。私はこのステッキを手放せない、魔法少女に変身し続けないと自分が保てない体になったんだって」 そう締めた彼女の表情は、どこか安らいでいるように見えた。

2019-09-17 22:57:59
@akuochiken

2人目の魔法少女は魔法少女歴3年、変身方法は変身デバイスを身体に装着するタイプ。いわゆる戦士として訓練を受けてきたエリート魔法少女である。 「変身依存症、ですか」 ファミレスでテーブル越しに腰掛ける彼女は、幼いながらも大人を威圧するような視線を向け、寸分の隙もない所作を示していた。

2019-09-17 23:03:12
@akuochiken

「確かに仰るように、変身とは肉体的に負担が掛かるものですから、それを緩和するような仕組みはあります。でもそれはなにか薬物投与により身体を汚染しているのではなく、あくまで心の持ちようと信じています。変身の負荷に抗う術が、快感と錯覚することである仲間ももちろんいるでしょう」

2019-09-17 23:07:36
@akuochiken

つまり変身時に感じる感覚は人によって違う? 「表向きの公表では、ですね。でも私の仲間たちは、全て快感を感じていると思います。きっとこの変身デバイスに洗脳されている。そうでなければ、自分の体が侵されていく苦痛、敵と戦う恐怖に抗って変身なんてできませんから」

2019-09-17 23:15:04
@akuochiken

彼女は胸元からカードサイズの端末を取り出して眺め始めた。 「変身依存症の話でしたね。私は、まだ、ですが、仲間の中にはこのデバイスを握っただけで興奮する者もいるそうです。それが戦闘に対する高揚なのか、それとも……いえ、私は仲間を、そして組織を信じたいです」 私もそうです、と伝えた。

2019-09-17 23:19:34
@akuochiken

「そうだ、取材なのにネタを持って帰れなくてお困りでしょう。特別にあなたに私の変身シーンをお見せしますよ」 彼女はその端末を手首をスナップさせて私の方へ向けたが、私は丁重に断った。 端末越しに見えた彼女の表情が、先程までの冷静な雰囲気が消え、今にも蕩けそうに崩れていたためだ。

2019-09-17 23:25:36
@akuochiken

3人目の魔法少女は魔法少女歴15年の大ベテラン。パートナーの魔法生物にコネクトし、魔力を受け取って変身する、今では希少な変身方法である。 「ババァ、ですって?」 言ってない言ってないと首も手もブンブンと横に振った。 「変身依存症の話ですよね。まぁ、そういう魔法少女は未熟といいますか」

2019-09-17 23:35:22
@akuochiken

彼女は嘲り笑うように、ふふっと息をした。 「私達魔法少女がなぜ変身して戦うと思います?」 それは聞きたいな。 「それは変身することが快感だからですよ」 おっ、人の話を聞いていないな? 「変身なんて未知の感覚を乗り越えるのは快感しかありません。だから魔法少女は快感の塊なんです」

2019-09-17 23:48:55
@akuochiken

彼女は手をろくろを回す形にして答えた。 「自分の体が戦闘用に作り変わっていく程よい痛み、肌に吸い付くようにコスチュームが展開されていく爽快感、適度な肌の露出と、その美しい姿をみんなに見られるという快感。そんな姿で敵を撃墜するんですからもう絶頂してしまいますよ」

2019-09-17 23:56:10
@akuochiken

ちなみに変身頻度はどれくらいか尋ねた。 「年に2、3回って感じかな」 それは確かに変身依存症とは関係なさそうだ。 「いや、もちろん無関係ではないかと。現に、もう何年も前に植え付けられたこの変身の快感は、今でも思い出されるように染み付いてますから。当時の私が抗えるはずがないです」

2019-09-18 00:07:51
@akuochiken

彼女は指を絡ませ合うようにして両手を組み直した。 「でも私は、その快感に勝る幸せの感覚を手に入れてしまったので。それに、もう私は必要に迫られて叩く必要もなくなったし、後輩の魔法少女もたくさん育ったし」 彼女の左手の薬指には指輪がはまっていた。 これ以上彼女に聞くことはないだろう。

2019-09-18 00:13:02
@akuochiken

さらなる魔法少女を求めて上空へ飛び立った我々だったが、謎の魔法少女からスターライトブレイカーを食らって海に墜落したためにこれ以上の取材は中止となった。

2019-09-18 00:19:03