母マウスに3億7000万 Bq/Lのトリチウム水を与えた動物実験の論文の珍解釈

思いがけず1年前のまとめ「染色体異常を生じるトリチウム=三重水素の濃度ってどれくらい?」https://togetter.com/li/1262704 の続編を作るはめになりました。 発端の日本語論文は無料で読めます。 斉藤眞弘, 石田政弘. トリチウムの代謝と線量評価 - ヒトのモデル系としてのマウス新生児に取り込まれたトリチウムの代謝と各臓器における蓄積線量の評価 - 保健物理 1985; 20: 167-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps1966/20/2/20_2_167/_pdf/-char/ja
29

発端

Kontan_Bigcat @Kontan_Bigcat

メモ)3億7000万 Bq/L の H-3水を母マウスに与えた論文(1985年)を、例の人たちが解釈したらしい。 twitter.com/shinchann2008/…

2019-09-26 12:16:09
しんちゃん @shinchann2008

「妊娠した母マウスにほ乳開始からトリチウム水を与え、乳児マウスに間接的に母乳を通して乳児マウスにトリチウムを内部被ばくさせたところ、ほ乳開始30週目では、トリチウムは脾臓、腸、心臓、肝臓よりも、脳に10倍以上多く蓄積する。肺の3倍、腎臓の5倍も多く脳に蓄積する」radiationexposuresociety.com/archives/11719 pic.twitter.com/KJVhDmcSed

2019-09-25 06:32:41

この2018年の論文で紹介されている動物実験でマウスに飲ませた水のトリチウム濃度(*)は最小が0.01 MBq/L = 1万 Bq/L(WHOの飲料水ガイダンスレベルに対応)、最大が20 MBq/L = 2000万 Bq/Lでした。本まとめの発端となった論文の実験で使われた濃度の1/10以下です。
*:ここではトリチウム水=HTOすなわち水素原子のうち1個をトリチウム=三重水素の原子で置き換えた水と、有機結合型トリチウムの両方を検討。有機結合型トリチウム源として水素原子の一部をトリチウム=三重水素の原子で置き換えた3種類のアミノ酸(タンパク質の部品)を使用。

@GOFLNN さんと@F1_ABS さんが検算してくださいました

相双のゴーフ・レン @GOFLNN

体重比2400倍っつっといて 25gのマウスに37万Bq/mLと 60kgのヒトに15.4万Bq/Lが一緒って 計算雑過ぎね? 濃度激減してんじゃん

2019-09-26 16:47:05

マウスに飲ませた水の中のトリチウム濃度の単位はBq/mLですから、ヒトに飲ませる水の中のトリチウム濃度(こちらはBq/L単位)と単位を揃えて比較するためには1000倍しなければなりません。すなわち3億7000万 Bq/Lとなります。
仮にマウスとヒトがそれぞれの水を同じ体積だけ飲んだとすると、体重がマウスの2400倍あるヒトがマウスの1/2400量のトリチウムを取り込んだことになりますから、ヒトの単位体重あたりのトリチウム量はマウスの1/(2400 x 2400)=1/5,760,000 ということになります。

相双のゴーフ・レン @GOFLNN

マウスに投与した分より減ってるじゃん 人間てマウスより弱いんか

2019-09-26 17:01:56
相双のゴーフ・レン @GOFLNN

2400倍重い人間に1/2400に薄めて同じなわけないだろ 同じ濃度のまま2400倍にするべきじゃないのか 25g:37万Bq/mL=60kg:8億8800万Bq/L じゃね?

2019-09-26 17:12:09

マウスに飲ませた水の中のトリチウム濃度は
37万 Bq/mL = 3億7000万 Bq/Lですから、これを2400倍すれば8億8800万 Bq/mL = 8880億 Bq/Lとなります。

F1ABS @F1_ABS

@GOFLNN 認知バイアスの証拠ですね。 XX発見器として、あのまま放置でよろしいかと思います。

2019-09-26 17:30:36
相双のゴーフ・レン @GOFLNN

俺も間違ってんな 同じ濃度なら8億8800万Bq/2.4Lか これで3.7億Bq/L

2019-09-26 18:24:50
F1ABS @F1_ABS

@GOFLNN 体重当たりの飲水量って劇的には変わらないので、小さな動物は飲む量も少ないんですね。 マウスだと一日数mL、ヒトは2千数百mLと1000倍くらい。 総量で考えればよいのに、何故か濃度を体重比で割ってしまっているから、奇妙な話になってしまって。 排水基準と比べれば、5000倍濃い水を与えています。

2019-09-26 19:36:47
F1ABS @F1_ABS

@GOFLNN あ、約6000倍370 kBq/mL、慢性投与だとマウスが短命になるような線量ですから~ atomica.jaea.go.jp/data/detail/da… 表4 pic.twitter.com/CNweVkKIOu

2019-09-26 20:03:26
拡大
リンク atomica.jaea.go.jp トリチウムの生物影響 (09-02-02-20) - ATOMICA - 13 users 142
  1. @F1_ABS さんのご指摘の通り、実際には体重の違いだけでなく1日に飲む水の体積の違いも考慮しなければなりません
    体重25 gのマウスがトリチウム濃度3億7000万 Bq/Lの水を4 mL(*)飲んだ場合、飲んだトリチウムの総量は
    37000万 Bq/L x 0.004 L = 148万 Bq
    体重60 kgのヒトがトリチウム濃度15.4万 Bq/Lの水を2.4 L飲んだ場合、飲んだトリチウムの総量は
    15.4万 Bq/L x 2.4 L =36.96万 Bq ≃ 37万 Bq
    ここからあえて体重1 kgあたりのトリチウム量を求めると
    マウス:148万 /0.025 Bq/kg =5,920万 Bq/kg
    ヒト:37万 /60 Bq/kg = 0.62 万 Bq/kg
    *:マウスの1日水分摂取量については、体重100 gあたり約15 mLという資料をみつけました。
    https://archive.is/20120803201438/http://www.lvma.org/mouse.html
    ここから計算すると、体重25 gの場合1日に4 mL弱を飲むことになります。

ここで体重60 kgのヒトが2.4 L飲んだ時に体重1 kgあたりの存在量がマウスと同じになるトリチウム水の濃度を求めると
5,920万 Bq/kg x 60 kg/2.4 L = 148000万 Bq/L
ヒトの体重はマウスの2400倍ですが、1日に飲む水の体積はマウスの2400/4 = 600倍に相当します。従って、ヒトの体重1 kgあたりのトリチウム存在量をマウスと同じにするには、マウスの4倍濃度のトリチウム水を飲ませる必要があります。

  1. 1年前に作ったこちらのまとめ
    https://togetter.com/li/1262704
    でもご説明したとおり、海洋への排出が認められるトリチウム濃度の上限は6万 Bq/Lです。また
    WHOの飲料水水質ガイドライン第4版(日本語版)
    https://www.niph.go.jp/soshiki/suido/WHO_GDWQ_4th_jp.html
    (緊急時に適用されるものではないことがp.7に明記されています)のp.216の表9.2によれば、トリチウムのガイダンスレベル(入っている飲料水を1年間飲み続けたことにより生じる内部被曝の許容限度を0.1 mSvとして算出した放射性物質濃度。1日あたりの飲料水摂取量を2 L/日と想定。ガイドラインp.210-211)は10,000 Bq/L(厳密に計算すると7,610 Bq/L)とされています。これはセシウム137とセシウム134のガイダンスレベルが10 Bq/Lと決められているのと比べると少なくとも3桁大きいわけですが、その理由は体内に取り込んだ放射性物質量(単位はBq=ベクレル)を被ばく線量(単位はSv=シーベルト)に換算するのに使われる線量変換係数の値がざっと3桁小さいからです。
    線量変換係数(Sv/Bq)
    トリチウム(物理的半減期12.32年):1.8x10^-11
    セシウム137(物理的半減期30.16年):1.3x10^-8
    セシウム134(物理的半減期2.06年):1.9x10^-8
  1. ここでトリチウムの排出基準濃度=6万 Bq/L、飲料水ガイダンスレベルの濃度=1万 Bq/L、今回の論文でマウスに飲ませた水の中のトリチウム濃度=37000万 Bq/Lがそれぞれヒト培養細胞の染色体異常頻度に影響を及ぼす濃度と比較してどの程度違うか比べてみてください。
nao @parasite2006

twitter.com/parasite2006/s… 元北海道がんセンター西尾正道氏meti.go.jp/earthquake/nuc… が振りかざしている切り取られた朝日新聞記事(1974年10月8日付)が取り上げた学会発表が、1978年に英語査読論文として公表されています(続く)sciencedirect.com/science/articl…

2018-09-04 13:46:22
nao @parasite2006

8月31日東京「処理水の取扱いに係る説明・公聴会」で元北海道がんセンター西尾正道氏(meti.go.jp/earthquake/nuc… )が途中で切り取った朝日新聞記事写真を元に「動物実験、74年度。3万7千ベクレルで染色体異常。放医研。6万㏃を流そうとしている」と盛大に計算違い。正しくはtwitter.com/i/moments/1035…

2018-09-02 07:01:48
nao @parasite2006

(続き)まずは実験結果の一覧が表1。1974年10月8日付朝日新聞記事に対応するのは赤枠の部分。「トリチウム水の濃度が1ccあたり0.01μCi以下では染色体異常が見つかった細胞の頻度は普通(4-5%)と変わりなく、それ以上5μCiまでは染色体異常の頻度はゆるやかに上昇」(続く) pic.twitter.com/VqH5usKKVP

2018-09-04 13:56:29
拡大
nao @parasite2006

(続き)「5μCi以上では急上昇になり10μCiでは18%、100μCiでは95%以上の細胞に染色体異常が見つかった(引用者注:数字は培養液1ccあたりのトリチウム=三重水素の量)」実際にはトリチウム水に加えて[3H]チミジン(DNAの構成部品となる有機化合物)の影響も検討(続く)pic.twitter.com/VqH5usKKVP

2018-09-05 13:26:00
拡大
nao @parasite2006

(続き)表1の結果をグラフにまとめたものがこちらの図2(縦軸横軸とも対数目盛なので注意)。縦軸の染色体異常頻度の値はトリチウムなしの対照(コントロール)の値との差なので表1より小さくなります。トリチウム水のグラフは下の曲線。横軸のトリチウム濃度5μCi/ccは19000万Bq/Lに相当。(続く) pic.twitter.com/1qANEE5H4O

2018-09-05 13:35:31
拡大
nao @parasite2006

(続き)そして朝日新聞記事が「(染色体異常の頻度が)普通(引用者注:トリチウムなしの場合の意味か?)と変わらない」と書いたトリチウム濃度0.01μCi/ccは0.01x10^-6x3.7x10^10 Bq/cc=3.7x10^2 Bq/cc=3.7x10^5 Bq/L=37万Bq/Lに相当。(続く)pic.twitter.com/1qANEE5H4O

2018-09-05 13:43:59
拡大
1 ・・ 4 次へ