あいちトリエンナーレ検証委員会、何故そこに三浦瑠麗がいる?

放火脅迫を受けて非公開となり、その後文化庁が補助金交付の対象外とすることを決めた「あいちトリエンナーレ」 数々のコントロバーシアルな決定があった、ジャーナリスト津田大介氏監督による愛知の国際芸術祭の検証委員会に、 政治学者である三浦瑠麗氏が参加。 続きを読む
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三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

あいちトリエンナーレを観てきました。時間がなくて、話題の展示もほとんど見ることができず、今は閉鎖されている「表現の不自由展~その後」だけ専門のキュレーターの方にガイドしていただき、鑑賞してきました。

2019-09-26 10:15:35
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

実際に見た感想では、いくつかの配置や説明、そもそもの作品の取り合わせによる配慮不足が目立ちました。初めに遭遇する大浦氏の作品は、版画自体は穏やかであっさりとしたものです。しかし、富山県の美術館で排除されたこれらの版画とは異なって、新作の映像を用いた作品に関しては非常に饒舌でした。

2019-09-26 10:17:15
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

氏のウェットな世界観が、鑑賞者に説明なしに黙って見ることを要請します。映像の中には、天皇の写真がコラージュされた版画を次々に焼くシーンが挿入され、その他のシーンでは兵が散っていった戦争に関する音声や、従軍看護婦が現代によみがえった設定での映像とともに、作者の世界観が綴られます。

2019-09-26 10:18:34
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

大浦氏の一連の作品を支える抗議的な作品群、天皇家の存在感や日本社会における空気を表現した作品がそれに続きます。すぐ次に出てくるのが、慰安婦合意に抗議した千葉の朝鮮学校の学生の作品です。これはポップでかわいらしい絵で、定着してしまった少女像とは違った独自の世界観で絵を描いています。

2019-09-26 10:20:11
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

この作品は、公金支出された朝鮮学校の地域交流事業で出展され、解説が物議を醸しました。これに対し千葉市の熊谷市長は、助成金50万円を引き上げたとのこと。実は、大浦氏の映像作品のインパクトなしにこのポップな絵だけを見ていれば、千葉市の対応に関する議論が提起される余地はあったと思います。

2019-09-26 10:22:23
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

しかし、実際問題としてこの絵は話題になりませんでした。他にも、巨大な展示スペースを占めている高崎の朝鮮人労働者強制連行の碑を模したアートや、旭日旗を思わせる放射線状の後光的デザインを使用した作品、列車アートなどが所狭しと展示されています。けれどもやはりこの部屋で目を引くのは二点、

2019-09-26 10:24:05
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

いわゆる戦前回帰の危険を訴えた「日本人の墓」のアートと、そしてその向こうにすぐ見える少女像です。大浦作品によって、説明不足なままに天皇に対する愛憎のようなウェットな世界観を見せられた鑑賞者は、十分他の作品を消化することなしに、この「墓」アートと少女像に直面することになります。

2019-09-26 10:24:52
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

感情のジェットコースターのように、情を掻き立てる表現と、「日本人の墓」のように鑑賞者に分断線を引く表現に晒されたうえで、鑑賞者は少女像に共感してみることを提案されるのです。ここでいう分断線を引く行為とは「目覚めた者」と「愚か者」、「知者」と「愚者」を分けようとする行為を指します。

2019-09-26 10:25:52
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

一見、この「墓」の芸術作品は倫理的なように見えます。しかし、この分断線が引かれていることで、まず「あちら側」にいる人間が参加しにくくなり、次にそのような態度をもつ作者の見解は必ずしも明白に真実とは言えないため、却って反感を呼び起こしがちです。

2019-09-26 10:27:02
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

そもそも、何をもってして「目覚めた自分」と「目覚めていない大衆」を分けているのか。アートに使われた多数の新聞記事の報じた法改正や議論の中身を、この作者は果たして理解できているのか。様々な疑問が浮かびます。

2019-09-26 10:27:38
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

芸術を鑑賞するという行為は、アーティストや場をしきるキュレーターと、一般の鑑賞者の間に大きな壁を創り出します。このヒエラルキー関係は、「時間」や「コスト」をかけて会場にたどり着き、並び、犠牲を払ってたどり着いた人びとが、好まない芸術や見解に対して不快さを感じうる主要な原因です。

2019-09-26 10:28:35
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

苦労して出掛け、並び、なのに質の低いと思われるものに出会った、その表現はさっぱり共感できないものであるか、あるいは作者が自らの無謬性と正義を主張しているものにしか見えない、となれば、脅迫行為は論外にしても、人びとの怒りが集まるのは至極当然の流れだったでしょう。

2019-09-26 10:29:23
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

大衆的な民主主義の時代においては、一番の権力者は民衆です。彼らに全く受け入れられない「アート展」には持続可能性がありません。公共の場を借りた展示が、多くの人の学習意欲を満たし、十分に教育的で説明的であってほしい、という需要に応えるものになっていくことが求められている結果です。

2019-09-26 10:32:18
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

公金を注いだ企画や会場であればなおさら、こうしたことが重視されます。大衆の時代においては、見たくないものに対する圧力も、権力というよりは一般社会から生じるのであって、まさに「大衆とアートとの関係」こそが問題となってくるのです。

2019-09-26 10:32:46
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

時代感を考えると、「表現の不自由展」実行委員会が踏まえた方が良い点がいくつかあったと思います。一つは、女性や人種などの問題における自己検閲や苦情電話、不買運動をどう捉えるかという点。89年にローリングKというバーボンウイスキー広告が女性団体の抗議によって撤回された件がありました。

2019-09-26 10:34:07
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

浜辺に横たわっている女性の写真が、少しはだけた上着の奥にブラジャーなどがのぞいており、砂で汚れていたことからレイプされた女性を連想させるとして、女性差別だという抗議が行われたのです。私から見るとそうは見えないのですが、抗議の背景には、

2019-09-26 10:34:50
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

女性に対する性的欲望、あるいは気の強い女に言い寄る男たち、といったモチーフ自体が嫌悪された経緯があります。抗議電話を掛けた人権派は、よく「こっちとあっちをごっちゃにするな」と主張します。あっちはヘイトスピーチであり、こっちは慰安婦の可愛そうな少女像に共感を呼びかけただけだ、と。

2019-09-26 10:35:42
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

しかし、性をめぐる問題などでは、ヘイトスピーチに引っかからない「人間の欲望」を表したものであるだけで、撤去され抗議されてきたのは事実です。次に見落とされていた点は、大衆による圧力と権力による圧力を峻別する態度です。

2019-09-26 10:36:21
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

実際にあいちトリエンナーレが悩まされたのは一般大衆による苦情電話であり、名も知れぬ個人の総体が本企画展を問題視したというのが本件の本質です。であるのに、会場に置かれた「表現の不自由展」実行委員会作成の表現の自由の規制に関する年表は、2001年の政府による表現への介入から始まっており、

2019-09-26 10:37:31
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

ざっと見渡しただけでも、芸術とはまるで言えない望月記者(東京新聞)の官房長官会見での質問制限など、政治的な対立構図がふんだんに盛り込まれています。年表を見た鑑賞者は、彼らがどのような世界観に立っているのがよくわかったと思います。

2019-09-26 10:38:14
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

それが彼らの視野の限界であり「表現の不自由展」のような大々的テーマに取り組むうえでは価値観の偏りが否めません。安全が確保された暁には展示を再開し、ボイコット中のアーティストも含めて復活するのはありでしょう。しかし、今のままの見せ方では、人々の共感を広める結果にはならないでしょう。

2019-09-26 10:39:52
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

慰安婦問題一つとっても、女性の管理売春や戦場での性問題を現代的な問題として捉え、もっとグローバルな価値観で見せ、共感を広げるやり方はありえたと思います。例えば、ニコンの展示室で出展を取りやめさせられそうになった元慰安婦の日常写真の連作シリーズは、なかなか見ごたえがあるものでした。

2019-09-26 10:40:25
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

しかし、すべての議論は日韓問題がもめる中で少女像を国内に配置した表現の不自由展実行委員会や芸術監督を「ふてぶてしい」と解釈した抗議の声に打ち消されてしまいました。この問題を改めて振り返って思うことは、「キュレーターは扱うテーマに愛を持っていなければいけない」ということです。

2019-09-26 10:42:08
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

女性への性暴力や性的搾取を扱うにしてはぞんざいで、ウェットな音楽が聞こえるごった煮の中で人々の共感をむしろ遠ざけたというのが私の偽らざる意見です。せっかくMeTooで僅かに広がりかけた共感に、この展示は再び砂をかけてしまいました。「売春婦!」という罵声が飛ぶ社会に共感の広がりはない。

2019-09-26 10:47:08
三浦瑠麗 Lully MIURA @lullymiura

もちろん砂をかける権利は誰にでもあります。怒りも理解はできる。しかし、その怒りの運動の中に、一人一人の被害者の顔や実像は埋没していきます。元慰安婦の高齢女性の日常写真は話題にはならなかった。性暴力被害者に寄り添うつもりがかえって声を奪ってしまう暴力に繋がることがままあります。

2019-09-26 10:50:34
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