ア㊙️イさんのお尻と学ぶ奴隷貿易(全16回)
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目次
奴隷貿易のメカニズム
(1)奴隷の “供給”と天気:歴史的気象情報を用いた実証分析
(2)コロンブスのトウモロコシ:農業生産性と奴隷貿易
(3)銃と奴隷のサイクル:大西洋奴隷貿易の時系列分析
(4)英国王立アフリカ会社:アフリカの王様達と通行料ビジネス
(5)マラリア特需:北米大陸における黒人奴隷の需給メカニズム
(6)怒涛の再分析&再分析:奴隷船の過積載と死亡率の関係
(7)タダ乗りと奴隷:船上での奴隷の反乱
奴隷貿易の影響:アメリカ編
(8)戦う理由:南北戦争における奴隷所有と従軍
(9)遺制としての奴隷制:現代アメリカにおける人種意識
(10)奴隷と不平等:現代アメリカにおける経済格差と教育格差
奴隷貿易の影響:アフリカ編
(11)奴隷貿易法の帰結:奴隷貿易の廃止と紛争
(12)奴隷貿易と貧困:奴隷の歴史とアフリカ諸国における経済成長
(13)不信社会:奴隷貿易と他者への信頼
(14) 奴隷・内戦・資源:奴隷貿易が現代の紛争にもたらす長期的影響
(15)奴隷とエイズ:婚姻制度から考える奴隷貿易の長期的影響
(16)歴史的トラウマと魔術:奴隷貿易が現代の魔術信仰に与える影響
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個別のまとめ
奴隷の “供給”と天気:歴史的気象情報を用いた実証分析
16世紀から19世紀末までの間、世界中に向けて売り飛ばされたアフリカ奴隷の数はおよそ1200万人以上と言われているのだ。こうした大西洋奴隷貿易における奴隷の「供給」の背後にどのような要因があったのか、19世紀アフリカ諸国の気象データを用いて分析した研究があるのだ。 (1/17) pic.twitter.com/IullVb1uUg
2019-09-12 22:24:23大航海時代以後、ヨーロッパ諸国は主に新大陸での労働力としてアフリカの人々を奴隷として「買い付け」に行っていたんだけど、奴隷市場における奴隷の供給は常に一定だった訳ではないのだ。この論文は、奴隷の供給具合はアフリカの経済状況を反映していた、と考えているのだ。 (2/17) pic.twitter.com/xFYgBgEk9L
2019-09-12 22:24:51いわゆる「奴隷狩り」は主にアフリカの部族間で行われ、敵対する部族を襲撃して奴隷を得たり、食い扶持を減らしかつ利益を得るため、あるいは借金の形として子供を売り払うというのが「一般的」な奴隷の供給形態だったのだ。じゃあその背後にあるメカニズムはどのようなものだったのか? (3/17) pic.twitter.com/vQZ3A23lDg
2019-09-12 22:25:30奴隷を「売る/供給する側」の動機を考える時に重要になるのが、その機会費用なのだ。当時のアフリカ諸国の人々の生活を支えていたのが農業であることを考えると、「人を奴隷にする」ことと「農業をする」こと、そのどちらが儲かるかを比較考量していたと考えられのだ。 (4/17) pic.twitter.com/mXRdURt8yD
2019-09-12 22:26:13例えばもし不作の時期が続けば、農業に人を駆り出すよりも奴隷狩りに人を動員して奴隷を手に入れたり、家族の中で「過剰な」労働力を奴隷として売っぱらった方が得なのだ(その逆もまたしかりなのだ)。 (5/17) pic.twitter.com/1lYIwJv4Dx
2019-09-12 22:27:00つまり、農業を行うにあたって不利な状況(=干ばつ、洪水、異常低温/高温)に陥れば、海外に輸出される奴隷が増えるはず、という予測が導かれるのだ。 ということで実証なのだ!この研究では、1801-1866年までにアフリカから輸出された奴隷の数と気象データを用いて統計分析を行ったのだ。 (6/17)
2019-09-12 22:28:22奴隷貿易のデータは、当時の史料等から算出されたアフリカの各貿易港(123港)からの輸出数を用いたのだ。1801-66年の間に、一港につき毎年平均して約410人の奴隷が輸出されていたのだ。イギリスが奴隷貿易を廃止(1807年)した後もその他のヨーロッパ諸国はしばらく奴隷貿易を続けていたのだ。 (7/17) pic.twitter.com/a6F9viZQmN
2019-09-12 22:29:22この123の貿易港の位置を特定し、地図上にプロットすると図のようになるのだ(青点が貿易港)。ここに、港が存在した地域の同時期における気象情報の推計値(ここでは年間雨量と平均気温)を組み合わせれば、気象条件が奴隷の輸出に与える影響を分析することができるのだ。 (8/17) pic.twitter.com/5leGcWOBxn
2019-09-12 22:29:42気温に関しては歴史的に遡ってもかなり正確な値がわかるみたいなんだけど、雨量は何mmとまでは分からないのだ。この研究が用いたのは7段階(「飢饉を引き起こす程の干ばつ」〜「大雨」)で測定した雨量の指標なのだ。 (9/17)
2019-09-12 22:30:08統計分析の結果、雨量が増加した地域の港では奴隷の輸出量が減少すること(=逆に干ばつが起こると輸出量は増える)がわかったのだ。ただし、雨は降りすぎてもやっぱりダメみたいで、実際に洪水が起こると奴隷の輸出量は増加していたのだ。 (10/17)
2019-09-12 22:30:42似たような結果は気温でも得られているのだ。気温は高すぎても低すぎても奴隷の輸出量が増えていたのだ。 これらは、農業に適した気象条件から逸脱すると奴隷の輸出が盛んになる、という先に述べた予測に合致した結果であると考えられるのだ。 (11/17) pic.twitter.com/A2WYBnCpQ0
2019-09-12 22:31:17この研究ではさらにメカニズムの分析もしているのだ。まず検討しているのは部族間紛争についてなのだ。自分たちとは異なる部族と紛争を行うことで、「敵」を奴隷に出来るチャンスが増すのだ。じゃあその部族間紛争は気象条件によって影響を受けていたのか? (12/17)
2019-09-12 22:31:34先の分析と同期間に各港の近隣(250km以内)で発生した部族間紛争(対ヨーロッパ諸国の紛争は除く)のデータを用いた分析によれば、降雨量が増えるほど紛争が発生する確率が低下していたことがわかったのだ。ちゃんと農作物が育つなら戦うより農業をした方がマシと考えていた、ということなのだ。 (13/17)
2019-09-12 22:32:58更にこうした「外からの奴隷の供給」だけでなく、「内部からの奴隷の供給」、つまり家族を奴隷として売る行動にも注目しているのだ。 干ばつが続いて今日を生き延びることにも苦労する状況が続いた時、もし家族の誰かを売り払えば生き延びられるとしたら、誰が売られるか?子供たちなのだ。 (14/17)
2019-09-12 22:33:41各港から輸出された奴隷の子供の比率を用い、最初のものと同様の枠組みで分析した結果、雨量が減少すると子供の奴隷の比率が増加することがわかったのだ。 経済的な苦境に直面した時、家族内で最も脆弱な立場にある子供たちが優先して売り払われていたことをこの分析は示唆しているのだ。 (15/17)
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