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ツイートまとめ エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~4世代目・中編~ もういいぜ。やってやるよ。やってやるよ。 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。 8757 pv 18

以下本編

帽子男 @alkali_acid
利き腕を断たれた七人の小人と一匹の怪物は、一応の手当を受けたあと、真銀を掘るための深い鉱道に送られた。 ドワーフの男女は肘から先、人間ともエルフともつかぬ若者は肩から先を失った。山の下の王はさほどに八番目の罪人を恐れた。
帽子男 @alkali_acid
ならばいっそ首を落とすべきではあったかもしれない。 だがしなかった。命まで奪うほどの怯えを抱いていると、己に対しても他に対しても認められなかった。 だからこそ、相手が影の国の世継ぎを名乗ろうと、岩山の宮殿の主に刃向かうものは変わらず仕置きすると、そうしろしめそうとしたのだ。
帽子男 @alkali_acid
マーリは高熱を発し、闇の底を独り這った。 そのまま死ぬに任せよと、密かに監督には達しが出ていた。 「腹を空かせた小鬼や、狂った罪人が襲って殺すのはよい。だが我が家来の手で直に死を与えてはならぬ。あの怪物は自ら受けるとほざいた厳しい罰に耐えかね命を落とした。そうなるよう計らえ」
帽子男 @alkali_acid
まったき闇において命綱であると同時に逃亡を防ぐ仕組みでもある細鎖は腰に巻かれたまま。裸も同然の恰好で黒の鍛え手は切羽に転がり、弱弱しくもがいた。 「ちち…うえ…ちちうえ…あつい…さむい…ちちうえ…おうたを…うたって…」 瀕死の若者は子供がえりしたようにままやいた。
帽子男 @alkali_acid
応えるように、懐かしい、かそけき歌が耳元で聞こえた。 左肩から広がるほとぼりは、ゆっくりと引いていった。 かわって腹の底に穴が開いたような心地がとってかわった。 マーリはすすり泣いた。 ずっと左右大きさの異なる腕を疎んでいた。 だが失って初めてどれほど大切だったかを弁えた。
帽子男 @alkali_acid
ずっと醜い姿を隠すまったき闇に焦がれていた。 だが入ってみて、決して願ったものではないと解った。 暗黒は重たくマーリを圧し潰そうとした。 呼吸すらもままならぬ淀み。そよとも動かぬような冷えた空気。 「こわい…ちちうえ…よは…こわい…」 まったき闇は魂を削り取り、ひしぐ。
帽子男 @alkali_acid
不意に目の前にあわい明りが点る。 モシークが告げていた闇に燃える焔だろうか。 いいやもっと優しい。 「ああ…そなた…そこに」 白い蝙蝠。
帽子男 @alkali_acid
「…いてくれたのか…予の友よ…そなたに…名をくれていなかった…くれれば…そなたを失うのに…耐えられぬ気がして…我等の時の流れは異なる故に…友よ…なれど予はもう長くない…先に逝くのは予か…ならばせめて名を…ヒカリノカゼ…」 飛獣の輝きが強まった。 「マーリ様」
帽子男 @alkali_acid
翼ある相棒は確かに答えた。深みのある女の声で、エルフの言葉で。 まったき闇の作り上げた幻か。だが構わなかった。 「…ヒカリノカゼ…そなたはヒカリノカゼだ…それでよいか」 「はいマーリ様」 「予が…死ぬまで…そばにいてくれるか」 「私はあなたに仕える婢(はしため)。ずっとおそばに」
帽子男 @alkali_acid
ヒカリノカゼは歌い続け、時には翼でいびつな、しかし逞しい主の肌をさすった。淡く燃えながら。 「あなたはここでは死にませぬ。きっと地上へ戻ります。お父上の待つもとへ帰ります」 「…父上…ああ…なぜわかる…」 「私はただの蝙蝠ではありません。あなたの父上が屍に別の魂を吹き込んだ魔性」
帽子男 @alkali_acid
「魔性…だがそなたは清らかだ…冬の晴れた天にかかる星の光のごとく」 「魔性にございます…はじめは狂った小人がいつもそばにおり、今は地底に影の国とは異なる闇がわだかまり、こうしてお話するのも難しゅうございましたが…血をいただき、名をいただき、やっと」 「そなたの声は…快い」
帽子男 @alkali_acid
一人と一匹はまったき闇の中で語らった。 「これまでマーリ様の修行のようすを、きれぎれに影の国へ伝えておりました」 「予が腕を失ったこともか」 「…いいえ。まだ。ですが伝えれば必ずお父上は助けにおいでになります」 「伝えてはならぬ」 きっぱりと若者は述べた。獣はそっと寄り添う。
帽子男 @alkali_acid
「お父上の歌ならば、岩山の宮殿を覆すこともできましょう」 「予が招いた災いだ。王の許しなく山の下に入り込み、技を盗んだ」 「王の弟が認めたこと」 「それでも予が招いたのだ。父上を巻き込めぬ…父上の歌を怒りや憎しみに染めたくない」 「腕を失ったマーリ様を見れば、避けられませぬ」
帽子男 @alkali_acid
左肩の虚ろを感じ、黒の鍛え手はあえいだ。 「腕…腕は…」 「腕はまだ朽ちておりません」 白い蝙蝠の抑えた声はしかし奥底に悲痛をわずかに覗かせていた。 「そうなのか」 「かつて上のエルフにも起きたためしのないことですが。マーリ様の腕はまだ生きています。王は恐れ水晶の棺に封じました」
帽子男 @alkali_acid
「ならば…予は腕を取り戻そう。いや、自らも作り出そう。工夫して。失っても替えがきくよう。幾本なりと」 マーリは告げた。そうして立ち上がった。 「まずモシークを…ほかのものを…七人の小人を見つける。囚われたゴブリンも…助け出す。山の下の王国に戻り、硝子磨きに会わねば」
帽子男 @alkali_acid
傴僂の若者は身を縛る鎖を腰から胴の中ほどまで引き上げた。 「ヒカリノカゼ。予は死なぬと決めた。だがこれより先は厳しく惨いことも多く起きる気がする。そなたの優しい心が痛むならば…」 「おそばにおります」 「ならば。止めるな」 曲がった背を坑道の折れ目、岩の角の尖った部分にぶつける。
帽子男 @alkali_acid
繰り返し。皮が裂け、肉が破れ血が噴く。 だが真銀(まことのぎん)の骨が岩と鋼の鎖を挟み、断ち切る。 「マーリ様!」 「だいじない」 黒の鍛え手は耐えた。我慢強い気質だった。 蝙蝠は傷口を翼でおおって舌で舐めた。
帽子男 @alkali_acid
一人と一匹は坑道をさまよった。 山の下の王国の監督は、囚人の跛足から支えの筒を奪い取っていたので、歩くのは以前よりゆっくりだった。 「マーリ様。もっとやすみながら進んでください」 「まことは予の足はもうあの道具は要らなかった。骨もしっかりしている。だがあれが好きだった」
帽子男 @alkali_acid
強がり半ばでそう答えながら、マーリは痛む足を強いて探索を続けた。 隠れ蓑はなくなっていたが、まったき闇では、そばをゆく蝙蝠が光るのをやめれば身を潜めるのはたやすい。番兵と監督はもっと上方の砦に一か所に集まって篝から離れない。
帽子男 @alkali_acid
もし反乱が起きれば、さらに高くにある鋼鉄の門が閉じ、明かりも水も食べ物も断つだけだ。 無慈悲だが完璧に思える牢獄の片隅で、不意にマーリは立ち止まった。 「闇のはらからよ」 四方からとびかかろうとしていた小さな群が止まる。 「…何故、めしうどがめしうどを襲おうとする」
帽子男 @alkali_acid
「肉だ…血のしたたる肉…お前の肉をよこせ…背骨の髄をすすらせろ」 ゴブリンだ。マーリはかぶりを振った。 「予の背骨の髄はすすれぬ」 「食える!俺たちは岩掘りの固い肉を食った。仲間のゴブリンの肉も食った。どうしてお前が食えない」 「予の骨は真銀。歯が折れる」 「でたらめだ!」
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コメント

地鉄 @thierengt 2019年10月8日
奴隷エルフが神性そのままに益々調教されていく様に草
スゥ。ニャオロン(似鳥龍オルニトミムス) @_2weet_sue 2019年10月9日
そっか。マーリはサウロンと違って一つの指輪を拵えないって先代編の最後で書かれてたから安心してたけど https://twitter.com/_2weet_sue/status/1179407757595889664?s=21 ひとつの指輪は物語の初めから暗黒甲冑としてあったンだね。でもマーリも好きになったよ。あと狂った小人の「狂った」っていうのは偏執狂的な意味だったのね。モシークは初登場から好きだったけど6大悪人みんな好きw技術って素晴らしいね。