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前回の話

まとめ エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~4世代目・後編~ やってやったぜ。 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。 8354 pv 24

以下本編

帽子男 @alkali_acid
昔々、東のかなた、鬼や竜や住む影の国に、オズロウという少年がいた。 暗い膚に尖った耳、神像の如く整った造作。 盲目ではあったが、目明きよりも活発でやんちゃだった。
骨は歌う @ln7LXH4gUYJCHRI
オズロウ。しあさってお休みだからもちっとしっかり描きたいにょろ pic.twitter.com/n3lCi4Un7z
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帽子男 @alkali_acid
友は小鬼に戦鬼、巨鬼に魔狼、蝙蝠に竜に大蜘蛛。 荒くれ南の海賊に、暴れものの東の蛮族。 父は闇の軍勢の総大将。黒の鍛え手マーリ。
帽子男 @alkali_acid
あちこちから影の国を訪れる、さすらいの民とも交わった。 さすらいの民は蛮族から発した褐色の肌の人々で、影の国の技を少しずつ学び、歌舞音曲に鋳掛けや薬売り、占いの技をよくした。 いずれも光の諸王を崇める西方諸国では鼻つまみもの。
帽子男 @alkali_acid
だが東に暮らし、闇の女王の遺風を慕うもののあいだでは、たいして気にもされていない。 オズロウや鬼に人に小人に妖精に、ありとあらゆる言葉をちゃんぽんで覚え、妙な喋り方を身に着けた。ゴブリン語が出たかと思えばエルフ語が、次はドワーフ語が、東夷に南寇の言葉が続き、西方語に落ち着く。
帽子男 @alkali_acid
少年だけが使う独特でいい加減な訛りのある喋りで、しかし周りと意思を疎通するのに苦労した覚えはない。 「てけとーでええんや。ワテ気にせん」 これだ。
帽子男 @alkali_acid
オズロウは影の国中を遊び場にした。曽祖父のナシールのように。 蝙蝠に乗って空を飛んで風邪感じ、小鬼について地下の迷路を歩き、巨鬼の肩に乗って夜の谷で岩投げ合戦に加わり、魔狼の血なまぐさい狩りの匂いを嗅ぎ音を聞き、殺したての生の肉も味わった。夜馬の裸の背にまたがって遠乗りもした。
帽子男 @alkali_acid
だが一番の気に入りは、父のマーリが魔法の蒼玉を掲げて作り出した淡水の内海、地底の海から湧き上がってまた沈んでいく水の中で泳ぎ戯れること。 「たのしいなあ…ほんまに水ちゅうのたのしいもんやなあ…ぱちゃぱちゃして…ぴちゃぴちゃして…ワテすきや」
帽子男 @alkali_acid
ゴブリンもオーガもトロールもぞっとして近づかなかったが、影の国に遠来の品を持って訪れる南寇の中には一緒に泳いでくれるものもいた。 「坊は難で水んなかでそんなに迷わず進める。目も見えんのに」 「ワテ、なんもかも音でわかる」 「ほー」 「はなもええで!おっちゃん辛いもん食うたな!」
帽子男 @alkali_acid
父はあまり息子の世話を焼かなかった。 無論立って歩けるようになるまでは、影の国の太守の慣例として、ずっと帯に入れて胸に抱き、襁褓(むつき)を換え、あやしつけ、添い寝をし、魔狼の乳をやったものだが。 あちこちちょこまか走り回るようになると、距離を置いた。
帽子男 @alkali_acid
「おとーはん。なんでワテと遊んでくれへんの」 「予は忙しいのだ」 「ほんま?」 「まことだ」 「ほな、一生のおねがい。お船がほしいんよ」 「船のおもちゃならやったばかりではないか」 「ほんまもんのお船。ね。一生のおねがい」 「そなたは一生の願いを何度するのだ」 「こんどだけ!」
帽子男 @alkali_acid
櫂で漕ぐ小舟をひとつ設えた。 「いやや!帆のはれるやつ!」 「さきにそう言わぬか」 「おとーはんのケチ!」 「予は船作りは専門ではないのだ」 「おとーはんのいじわる!」 「意地悪ではない…予を困らせるな」
帽子男 @alkali_acid
かくの如くマーリがやんわり遠ざけようとしても、オズロウはいつも工房にやってくる。びしょ濡れですっぽんぽんで裸足のままぺたぺたと工房に入って来て、あちこちに雫を落とす。 「おとーはん。おさかなつりいこ」 「それより水から上がったらちゃんと身を拭くのだ」 「あれやってえな!」
帽子男 @alkali_acid
傴僂の男親は仕方なく紅玉の指輪を掲げる。熱の波が子供を乾かしてゆく。 「あーきもちえーなー」 「服を着るのだぞ」 「どーせまた水はいる。でもな。あんな。その前に、おとーはんだっこ」 「予は手を離せぬ」 「だっこ。一生のお願い」 「…またか」
帽子男 @alkali_acid
息子は父の左右大きさの異なる手のうち、左の剛腕にしがみついで持ち上げてもらうのが好きだった。 「あーおとーはんのてーおっきーな」 「そなたもすぐ大きくなる」 「おとーはんみたいになるんかな」 「そなたは左右つりあいのとれた体つきになる」 「つまらんなー」
帽子男 @alkali_acid
くんくんと童児は青年の肩をかぐ。 「におうか」 「てつとー、すすと…すみとーあと、うわぐすりのにおい」 「そなたは鼻がよい」 「おとーはんおさかなつりは?」 「それより仙女のもとへ行かぬか」 「いく!ワテ、仙女はんのお庭好きや。ええにおいがぎょーさんする」
帽子男 @alkali_acid
緑の庭は色とりどりの花が咲き、形もさまざまな果が実る。 だが盲目のオズロウにとっては、匂いや味こそが喜びだ。 「あーこれ雪嶺華や。ワテ覚えとる」 「さすがだなオズロウ」 花園の女主は、蝙蝠の柄の入った玻璃の盃から蜜酒をすすりつつ褒める。
帽子男 @alkali_acid
「ここの花とか香り草とか香り木のにおい、ワテ皆覚えてしもた」 「賢い子よ」 「ほんでな。南の船のりはな。海のむこう、もっともっとええにおいの香のもとぎょうさんあるて言うとったで」 「香料か。暑い地でとれるという」 「ええなー。ワテ行きたいなー。世界中のええにおい知りたいわ」
帽子男 @alkali_acid
つやつやした手触りの器から甘く薫り高い菓子を食べ、快い薬草湯を飲み、さんざん話し込む。 「おとーはん!おうたききたい」 思いつくままにそう口にする子供に、周りはすぐ応じる。 青年は左の腕を真銀の義手につけかえ、黄金の竪琴を手に取る。 乙女は立ち上がって、ゆるやかに呼吸する。
帽子男 @alkali_acid
「…ナクハイアルは弾かぬのだな」 「あれは父上のもの」 短く言葉を交わしてから、暗い膚をしたいびつな男の伴奏で、明るい肌をしたすぐな女の独唱が響く。 黒犬を連れた楽士の歌。 はるか西の海辺から東の影の国まで旅した一人と一匹の歌。
帽子男 @alkali_acid
「…えーなー…ワテもラヴェインみたいにお船に乗りたいわ」 うっとりとオズロウはひとりごちる。 「お前はラヴェインの歌がお気に入りのようだな」 「バンダの歌もナシールの歌もええけど、ラヴェインの歌が一番や!せやけどワテ、お船に乗るならひとのやなくて自分のがえーなー」
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