【ドルフロ】夜に焔の命を焼べる【黙示班】

櫨染忌憚🚂OtG東4イ08b @D9A62E_SS

416「新しい人形が2体。2体……？」 指揮「疑うね～」 416「この支部に？　2体も？　今度は何？　どんな過去持ちなの？　もうUMP45みたいなのは要らないのよおなかいっぱいだわ」 指揮「いや普通だよ」 416「普通なのが2体もうちに来る訳ないでしょう」 指揮「ですよね。まあカラクリがあるんですよ」

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416「カラクリって言ってる時点で」 指揮「最後まで聞いてみてよ。まず1体はハンドガンです。彼女は異動なので来月頭に来る予定です」 416「ふぅん。異動。また異動」 指揮「UMPを警戒し過ぎだよ」 416「それで？　もう1体は」 指揮「僕が買い取りました」 416「え？」 指揮「それしかなかったので」

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指揮「マシンガンが欲しくてさ」 416「ネゲヴがいるじゃない」 指揮「彼女は僕の管轄下ではないからね。積極的に手伝ってはくれてるけど、やっぱり僕の命令に逐次従ってくれる人形がいた方が良い。で、別の支部で解体処分になろうとした人形がいたので買い取りました」 416「何故異動ではなく？」

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指揮「破棄だから。I.O.P.の在庫として計上されない予定だからだよ。異動って事になると破棄じゃなくなるから書面上ややこしくなるので」 416「それで貴方の私有財産にしてしまえば書面上大きな違いはないと言う事？」 指揮「はい。こっちが買うって言ったらもー足下見られるのなんのって」

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指揮「どうせ破棄する癖に。酷い値段だったものだから『じゃあ出荷状態の初期段階じゃなく誓約状態で』って話を付けたのでそうなりました」 416「待って。じゃあ最初からスティグマ済み？」 指揮「性能上がるし、完全に僕の私有財産になるし……」 416「そういう事じゃない、そういう事じゃないわ！」

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416「順序というものがあるでしょう、順序が！」 指揮「えー何、指輪の件で怒ってるの？　そんな形式を君が大切にするとはね」 416「ふん。私は完璧なメンタルモデルを搭載しているの。これくらいで怒るものですか」 指揮「それは誇らしい事だ。という事でそのマシンガンが明日来る予定です」

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416「その解体だか破棄だかの処分を受けるに相当する理由はなんなの？　どうせそれでこっちに来るんでしょう」 指揮「コミュニケーションに難を抱えていてね」 416「もういい……もういいわよそういうのは……WAとUMPで充分なのよそういうのは……」 指揮「や、あの。そちらと違って物理的な理由だよ」

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指揮「そちらと違って、って言って良いのかな……わっちゃんはともかくとしてもUMPは全然難を抱えてないと僕個人は思っているけど……」 416（WAについてそれなりの認識はあったのか……） 指揮「何その視線は」 416「いいえ。物理的な理由って？」 指揮「声が出ないんだよ」

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指揮「構音処理系統に不備があってね。喋れなくはなかったらしいけど喋ろうとすると演算リソースを全部そこに注ぎ込む事になって何もできなくなったそうだ。だから声帯モジュールを引っこ抜いたらしい。で、喋れない。その機能がない」 416「どうやって戦うのよ」 指揮「手は打ってありますよ」

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416「それにしたって買い取る程のもの？」 指揮「まあね。でも、うちに必要なスキルを彼女は持っていたからさ。そこを大きく加味しての判断ですね。見てもらった方が判るだろうし、残りの説明は本人に会って直接ね。あ、資料はこれです。スペックとかはそれ読んでおいて」 416「了解」

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そうして、その奇妙な経緯のマシンガンがやってきた。 416「ネゲヴの倍はあるんじゃない？」 ヴ「失礼ねー。私そんなにチビじゃないんだけど」 416「どうしているの」 ヴ「えー。同じ銃種だもの、気になるでしょ？　それに、カルカノの為の子なんでしょ？」 416「え？」 ヴ「え？　違った？」

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ヴ「なんにせよ、彼女を置いてけぼりにしてこっちばっかり話すべきじゃないわ。これからはチームメイトでしょう？　声が出ないだけで、私の声は届くわよね。私はネゲヴ。訳あってこの支部の正式なメンバーとは言いがたいんだけど、よろしくね」 416「HK416よ。ここの副官を務めているわ」

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新入りがぺこぺこと頭を下げる。その身長と背負うマシンガンの存在感に威圧されそうになるが、その内面は随分穏やか、というよりは、弱々しいものであるらしかった。 416「貴女の名前は……88式。間違いない？」 88「……！」こくこく 416「これやっぱり不便ね……」

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指揮「そう言ってあげないで。彼女も萎縮してる」 416「来るのが遅い」 指揮「ごめんね。調整に時間がかかって」 ヴ「ふむ。見た所、そのイヤホンが何か関係しているのかしら？」 指揮「正解。彼女の電脳から送られるデータを電子音声化して流してくれるイヤホンだよ。とりあえず一個しかなくて」

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416「成程ね。そのうちそれを量産して、作戦中のチームに付けさせる、と」 指揮「そうなります。要は声を出す事ができないだけで、何を言うべきかという演算は彼女も問題なくできるから、言おうと思った事だけを流してくれるし。概ね稼働に問題はなさそうだ」 88「……」 指揮「あー」 416「何よ」

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指揮「そうだよね、まあ、君からすれば、全然理解不能だろうし……」 ヴ「『どうしてこんな自分を引き取るだけでなく誓約まで？　普通誓約って指揮官と人形の間に何らかの信頼関係が発生してからでは？』的な話をしていると見た」 指揮「天才か？」 416「なんで判るのよ」 ヴ「天才なので」

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ヴ「そうして私は更に天才なので判っちゃったわねー。彼女の両脚は見たところ義足でしょ？　外骨格の補助もあるし。カルカノの整備に必要って事ね」 指揮「どうして君は戦闘以外の一切が終わってるのに戦闘に関する事は一瞬で判るんだ？」 ヴ「前半は余計でしょ傷付くわよ私だって」

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指揮「とにかく、追々きちんと説明するね、88式。あまり身構えないで。僕は色々な要素を加味してそれが適正であろうと判断し君を買い取った。君と良好な関係を築きたいと思っているけれど、指揮官と戦術人形の範囲を逸脱するような事はひとつも求めない。ようこそ、我が支部へ」

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88式は謂わば荷物であった。うどの大木という言葉がある。その存在を知った時、まさに自分がこれに当てはまると思っては、どうしてこんな的確に自分を責めるような言葉が存在するのだろうと恨めしくもなった。喋れない戦術人形など、存在価値がある筈もなかった。戦闘はチーム戦なのだから。

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製造ランクは5、それに見合ったスペックにはちょっとだけ自信がある。力持ちながら細かい作業も得意だし、体力や忍耐力ではなかなか負けないと思う。しかしそもそもMGとは短期決戦を望まれる存在だ。だのに彼女の高いスペックのほとんどは、長期戦で輝くように設定されていた。使い道が限られている。

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いや、スペックの事を差し置いても、更に声があったとしても、それでも人形達の輪には到底入っていけないような気もしていた。誰かと話す事よりも、誰かと一緒にいるよりも、工房でひっそりと機械弄りをする方が絶対幸せなのだ。ひとりでいる方がずっと楽だ。ずっと、ずっと楽しい。