ヨロシサン・エクスプレス #3
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「ヤモト＝サン、ネオサイタマなのか！？」皿に山盛りのアイスをよそって歩いてきたザックが、テーブルの会話を耳に挟んで驚いた。「わたし達もそうですよ」と、コトブキ。「マジかよ！」ザックは目を輝かせる。「超スゲエんだろ。サイバネ手術とかネオン看板とか。スゴイタカイビル、高いんだろ」 1
2019-10-11 21:56:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「高いですよ」コトブキは頷いた。「でも、わたし、自分の足で行った事がないですね」「俺も行ってみてェなあ！後、この……このアベ一休」ザックは擦り切れたTシャツを引っ張って一同に見せた。「ネオサイタマの昔のパンクバンドなんだぜ。俺はインターネットしてたから、メチャ詳しいぜ！」 2
2019-10-11 21:59:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「まあ！音楽なんですね。今度聴いてみます」「そうだよ！サガサマ＝サンはネオサイタマ、どうなんだよ」「ええまあ、社用で行ったり来たり、ある程度馴染んでいますね」「なんだよ。ネオサイタマ行ったことないの、俺だけかよォ」「今いる場所を気にしろ」マスラダはカツレツにナイフを入れる。 3
2019-10-11 22:06:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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彼はザックを見た。「このシンカンセンは東海岸、ニューヨークまで行く。どこまで行くか、どこで降りるか、決めたか。ザック」「……ええと……」少年は答えに詰まった。「俺は、クールな文明国なら、どこでも良いさ」「おれはネザーキョウに戻る。北だ」マスラダは言った。「だから、考えておけよ」 4
2019-10-11 22:10:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「……」ザックは俯き、山盛りのアイスを食べ始めた。「ネザーキョウに行くのですか？」サガサマが驚いた。初耳だったのだ。コトブキは頷く。「はい。わたしとマスラダ＝サンは、そこに目的地があります」「なんと。ニューヨークのウキハシ・ポータルを使われるのかと」「色々あるのです」 5
2019-10-11 22:16:49
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「ネザーキョウ」の言葉を耳にしたとき、ヤモトの表情が微かに動いた。マスラダはそれを一瞥したが、特に問わなかった。遅れて来たマスラダとヤモトが食事を終えると、一同は部屋へ戻った。テーブルを離れる際、ヤモトは逆方向を見た。奥の車両はSSクラス客室。あちらに行くには上位の権限が必要だ。6
2019-10-11 22:24:11
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バンクーバーをある程度離れ、安全を確保すると、ヨロシンカンセンは速度を落とした。観光列車なのだ。なだらかな丘陵地帯は平和なものだった。文明消失者が武装して襲ってくることもない。外敵殲滅と線路修復をこなすレールライン巡回ヨロシアーミーにあえて挑む者は少ないのだ。 7
2019-10-11 22:31:04
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「何にもないな」ゆっくりと過ぎゆく湖や山々をぼんやりと眺め、ザックは呟いた。オレンジ色の暮色。『この静かで美しい世界……守りたい。ヨロシサン・インターナショナルの願いです。ヨロシサンは様々なエコ活動、生態系の最適化に取り組んでいます。いつでもヨロシサン』観光ガイドマイコ音声。 8
2019-10-11 22:37:10
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『列車はもうすぐロッキー山脈のトンネル地帯に差し掛かります。皆さん、お疲れではありませんか？ヨロシンカンセン搭乗者の貴方がたには選ばれしカチグミの充実感を常に提供したい。ヨロシサン・インターナショナルの願いです。広く快適な寝台。レストランでは安全な食事と栄養素』9
2019-10-11 22:41:17
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ゴウ。窓の外が闇に包まれ、気圧が変化した。「トンネルはヒマなので、皆さん寝ましょうね。わたしはアラーム機能があります。冗談ですが」「ははは、私は本当にアラーム機能あります！腕のサイバネにね」サガサマがコトブキの言葉を受けてサラリマン・ジョークを飛ばした。一同は顔を見合わせた。 10
2019-10-11 22:45:58
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ゴウ。ゴウ。ゴウ。「耳が嫌だな」ザックが気にした。「気圧です」と、コトブキ。既にマスラダは寝台で寝ている。「ふあ……トンネル区間がちょうど夜になっているように調整されている筈ですよ」サガサマは欠伸した。彼は何らかの日報を机のUNIXでまとめる作業を続けていた。「寝るのが吉です」 11
2019-10-11 22:50:13
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ザックは諦め、自分の寝台に入り込んだ。長い間寝返りを打っていたが、やがて寝息を立て始めた。コトブキもウキヨの睡眠に入る。……ゴウ。ゴウ。ゴウ。サガサマは作業を続けていたが、じきに机に突っ伏して、そのまま眠った。UNIXが自動ロックされ、アブストラクトなスクリーンセーバーが映る。12
2019-10-11 22:53:35
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……ゴウ。ゴウ。ゴウ。ゴウ。スクリーンセーバーの光を受け、ひとり佇むヤモトの横顔が様々な色に移り変わる。彼女は部屋を出て行こうとして、立ち止まり、客室を振り返った。「……」たっぷり１分、警戒めいて見渡した後、彼女は音もなく出ていった。 13
2019-10-11 22:56:55
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……「なッ……貴様！」……「イヤーッ！」「グワーッ！」「おのれ！社敵か？侮るなよ、この私はヨロシサンのニンジャ……」……「イヤーッ！」「グワーッ！」……「イヤーッ！」「アバーッ！」……「アバッ……ア、ア……」「フフフフ」……「ヤメロ……やめ、」「イヤーッ！」「サヨナラ！」…… 15
2019-10-11 23:04:17
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朝になった。サガサマが言ったように、深夜から明け方にかけて、ヨロシンカンセンは速度を調整してトンネルを通過し、美しい自然と明るい陽光の中で、客達はゆっくりと目覚める……筈であった。「ア、アイエエエエ！？」悲鳴があがったのはSS客室車両！たちまちエマージェントな空気が伝搬する！ 17
2019-10-11 23:12:44
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鉄道警備隊が車内を忙しく行き来し、やり取りする。何が起こったか、すぐに知れ渡った。殺人だ！SS客室を利用していたヨロシサン・エージェントとマネージャーの男が、惨たらしく殺されていたのである！「アッ！」ザックは息を呑む。彼は騒ぎを嗅ぎつけ、冒険心からSSエリアに忍び込んでいた。 18
2019-10-11 23:17:52
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「お坊ちゃん！ご自身の部屋にお戻りを！」客室乗務員がザックに気づき、慌てて抱え上げた。「ヤメロー！」「全く何をやってる！」他のSS野次馬客が集まってきた。「殺人だと！？」「オイ、そんなことより、殺された奴はSS客室を使ってたヨロシサンの社員ッて本当か？」「なんだと！」「不祥！」 19
2019-10-11 23:20:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「お客様！これはですね……エート、ヨロシサン社員であっても警備上の問題から客室を利用することが……」「ウソつけッコラー！」「とにかく危険なのでご自身の部屋にお戻りを……アッ！」ザックはSS野次馬客がクレームをつけはじめた隙をついて乗務員を振り払い、S車両に駆け戻った。 20
2019-10-11 23:23:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「ハア、ハア……危なかったぜ！」荒い息を吐き、ベンダーからオレンジジュースをコップに入れるザックに、S食堂利用客が恐る恐る尋ねた。「ぼうや、まさか、向こう側に行ったのかい？なにか物騒な事が起きたような感じだが……」「殺人だよ！床に血がドバッと！」「アイエエエエ！？」 21
2019-10-11 23:26:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「マジでヤベエ殺られ方だよ！だって……」「ドーモ、すみません！ウチの子が。夢見がちなのです」サガサマがザックの口を押さえ、テーブルに連れ戻した。「ザック君！無茶はいけませんし、車内にパニックを生じるのも賢くありませんよ！」「ゴメンだけど、マジなんだ……」小声で答えるザック。 22
2019-10-11 23:29:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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彼らは食卓で顔を近づけた。「何があった」マスラダが尋ねる。「ええと……ヤベエんだ、アニキ。夜のうちに、一個奥の車両のSS客室で、人が殺されたぜ。まだ片付いてなかった。俺もばっちり目撃できたけどさ、血とかマジすごかった。頭を割られて死んでた……死んだのは二人らしくて」「らしい？」 23
2019-10-11 23:32:28