思いもよらないの恋

好きになったらあかんの恋の安田と梓先生のスピンオフ長編です
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よつげ @Eight_os

1 こんなことを言ったら大抵嘘だと言われるのだけど 大人になるまで恋なんてほとんど経験がなかった。 小学校の頃は特に好きな人が出来ず 中高は一貫の女子校で育って 大学は音大だからみんなピリピリしてて。 …だから今、私に襲いかかっている『失恋』の感情に戸惑っている。 #エイトで妄想

2019-10-16 23:37:53
よつげ @Eight_os

2 「はぁ〜…」 年度が変わって。 大倉先生の彼女と思われるあの子は二年生になった。 そして私はと言えば そんな彼女と仲睦まじいであろう大倉先生の顔を見る度に あの日の醜態を思い出すようで 昼休みは毎日のごとくこの音楽準備室に逃げて来ている。 狭いスペース。 #エイトで妄想

2019-10-16 23:37:54
よつげ @Eight_os

3 たくさんの楽器。 私にとってはこの上なく落ち着く場所。 こんな逃げているような毎日もそう悪いものでもないらしく、仕事の進みで言えば前よりも良くなった。 そう、大倉先生のことなんて考えてる暇はない。 大倉先生のことなんて………… はぁ〜〜〜〜〜 #エイトで妄想

2019-10-16 23:37:54
よつげ @Eight_os

4 特大の溜息を吐いたその時。 ガチャッ 「ひえっ」 突然ドアが開いて、顔を覗かせたのは 「あ、梓せんせ。こんちわーっす」 金髪で小柄な男の子。 確か…安田くん。 そう言えば、この子は藤木さんと同学年で、付き合ってると噂されるくらいには仲も良かったはずだ。 #エイトで妄想

2019-10-16 23:37:55
よつげ @Eight_os

5 「え、梓せんせって、いっつもここにおるん?一人で?」 う。痛いとこを突かれる。 とはいえ。教師が生徒に対して感情的にキレるのもあまりよろしくはない。 「仕事あるからねー、安田くんは何でここに?」 「んー…暇やったから」 気のない感じで答えられる。 #エイトで妄想

2019-10-16 23:37:55
よつげ @Eight_os

6 暇だけが理由なら帰ってほしいなぁ…なんて。 正直言って、この子は読めなくて、掴みどころなくて。何となく苦手だ。 そんな願いも他所に安田くんは机を挟んだ私の向かい側に座って頬杖を突く。 「…それ昼飯?一人飯?虚しない?」 傍らに開けられた弁当を見て笑う安田くん。 #エイトで妄想

2019-10-16 23:37:56
よつげ @Eight_os

7 ちなみに節約のため弁当は自作。 そりゃ私だって…好きな人のために手作りしてあげたいよ。いつかは。 「…いいでしょ別に」 少しだけ声に棘が出てしまう。 しまった、と思い安田くんをちらっと見ると驚いたような顔をしてて 目が合うとにっと笑った。 #エイトで妄想

2019-10-16 23:37:56
よつげ @Eight_os

8 「そっかぁ。職員室いるとおーくらと会ってまうからか」 「………えっと、安田くん、次の授業は?」 何とか帰そうとそう言ってみる。 「あーせや、行かな…」 安田くんはゆっくりとした動作で立ち上がると、またゆっくりとドアに向かった。 助かった…。 「あ、せやったら」 #エイトで妄想

2019-10-16 23:37:56
よつげ @Eight_os

9 安田くんが唐突に振り返って私はびくっと驚く。 そんな私を気にもとめず安田くんは続けた。 「明日、一緒に飯食お!」 「うん…え、ここで?」 「ここで!」 ちょ、ちょっと待ったーー!! ここは、唯一私が一人になって落ち着けるオアシスなんだよ! それを…それを… #エイトで妄想

2019-10-16 23:37:57
よつげ @Eight_os

10 しかしその後放たれた安田くんの衝撃的な一言に私は屈服した。 「やってさ、 昼休みくらい他人と関わらな 人間腐るで?」 腐る……(愕然) 「…腐りたくはないなぁ」 「やろ?やから明日、俺ここ来るから!待っとってな!」 「…うん…………」 …やだなぁ、もう面倒臭い。 #エイトで妄想 pic.twitter.com/2DSkmKFNR4

2019-10-16 23:37:58
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よつげ @Eight_os

11 かくして、次の日。 「ちわーっす!」 安田くんはやってきた。 「ほんとに来たんだ…」 「何それぇw 約束したやん?」 正直来ないで欲しかった。 だったら逃げればいいんだろうけど、職員室や屋上は大して効果がない。 「今日も手作り?」 「うん」 #エイトで妄想

2019-10-17 21:01:46
よつげ @Eight_os

12 ええなぁ、と言いつつ安田くんは手元のビニール袋を開ける。 「俺はふつーに購買の唐揚げ弁当」 「あー」 節約の他にもう一つ、お弁当の理由。 購買は安いけどカロリーが高い。 昨日と同じように安田くんは机の向かい側に腰掛ける。 「いただきますっ!」 #エイトで妄想

2019-10-17 21:01:47
よつげ @Eight_os

13 意外。そういうのちゃんと言うんだ。 食べ始めた安田くんを差し置いて私はノートパソコンをカタカタ。 「…?梓せんせ食わへんの?」 「食べるよ?仕事しながら」 「そんなんあかんやん零すて」 「そこまで不器用じゃないし、それに」 言い訳しようとしたところを #エイトで妄想

2019-10-17 21:01:48
よつげ @Eight_os

14 バンッ! 身を乗り出した安田くんに勢いよくノートパソコンを閉じられ妨げられる。 安田くんはニコッと笑うと 「そんな片手間に食べたらお弁当が可哀想やで?」 ダメだ、目が笑ってない。 渋々と私は箸を取り出す。 「そぉそ、腹が減ったら戦も仕事も出来ひんからな」 #エイトで妄想

2019-10-17 21:01:49
よつげ @Eight_os

15 今は食べるための時間!と安田くんは食事に戻る。 「…いただきます」 安田くんに触発されるようにしっかりそう言ってから食べ始める。 「…お味はどうですかー」 「普通かな」 「あは、そうなん?」 安田くんは笑うと少しだけ目を泳がせて 「…何かちょーだい」 #エイトで妄想

2019-10-17 21:01:49
よつげ @Eight_os

16 その言葉に思わずぷっと噴き出す。 何だかんだ言っても高校生だなぁ、可愛い。 「じゃあー…これ」 「お!卵焼きー!」 「好き?」 「それなりにw」 一口食べて「うまー!」と言う。 そういうところは何だか無邪気な子どもだ。 あっという間に卵焼きは安田くんのお腹の中。 #エイトで妄想

2019-10-17 21:01:50
よつげ @Eight_os

17 「ありがとぉ、ごちそうさまでした♪」 「ふふ、お粗末様でした」 安田くんの嬉しそうな笑顔に私も笑顔が零れた。 …何だろう、こんな風に心から笑ったの、久しぶりな気がするな。 安田くんはまた唐揚げ弁当をつつきだす。 「梓先生がここにおるん、大倉と気まずいから?」 #エイトで妄想

2019-10-17 21:01:55
よつげ @Eight_os

18 その言葉に、本当にそうだと言うか言うまいか悩んで無言を貫く。 でも、安田くんには通じてしまったらしい。 「そっかぁ」 あー、この声のトーン。 あの日…失恋した日、駅で会った時と同じだ。 思い出して虚しくなりそうな瞬間に 言葉は落ちてきた。 「なら、一緒やね」 #エイトで妄想

2019-10-17 21:01:56
よつげ @Eight_os

19 「え?」 心の中にあまりに簡単に入り込んできたその言葉に思わず顔を上げると 安田くんは俯いて寂しそうに笑っていた。 「俺も失恋した」 …彼の隣にいつもいた彼女は、大倉先生のものになった。 何と言っていいか悩んでいると 「あっでも俺は気まずいとかとちゃうで?」 #エイトで妄想

2019-10-17 21:01:56
よつげ @Eight_os

20 空気を察して安田くんが言う。 「クラス離れてもーたからさ、元々行きづらいねん 毎日行くのはしつこいし」 「そうなんだ」 そっか。 安田くんすごいな。 私だったら、失恋した相手と、そんな風に仲良くなんてできない。 「…いいね、何か」 そう言うと #エイトで妄想

2019-10-17 21:01:57
よつげ @Eight_os

21 安田くんはまたニコッと笑う。 「俺の場合はそれなり時間ときっかけがあったから 焦らんでもええけど、梓せんせもきっとそのうちそうなるで?」 その言葉と共に キーンコーンカーンコーン… チャイムが鳴った。 「早っ じゃあ俺授業やから行くな!ごちそうさま!」 #エイトで妄想

2019-10-17 21:01:57
よつげ @Eight_os

22 安田くんは立ち上がる。 「あっ、また来てもええ?」 「う、うん。毎日じゃなければ…」 言っちゃった。 反射的にそう言っちゃったよ。 「わかったー!」 安田くんはそのまま音楽準備室を駆けて出ていった。 一瞬嬉しそうな横顔が見えた。 「…本当に早かったなぁ」 #エイトで妄想

2019-10-17 21:01:58
よつげ @Eight_os

23 嫌だなぁって思ってたはずなのに 心の中は何となく軽くなっていて 不思議な心持ちがした。 これが安田くんという人間の凄さ、ということなのだろうか。 (…高校生なのにねw) 口元が綻んだのを誰にともなく誤魔化すように、お弁当の蓋を閉める。 (…次はいつ来るかな) #エイトで妄想 pic.twitter.com/hk1t3F3rlW

2019-10-17 21:02:04
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よつげ @Eight_os

24 初めて一緒にお昼を食べたのが火曜日 その次に来たのは木曜日だった。 その日は私が質問攻めにされる日だった。 「梓せんせは何で先生になったん?」 「んー…元々は教職目指してたわけじゃなかったな ピアノやってこうとしてて、実力が伸びなくて。流れというか」 #エイトで妄想

2019-10-18 22:02:22
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