アルカさんの片道勇者☆オンライン!~アフター!~
ーー弓引く娘は人々の祈りを矢に変えて ーーすべての力を引き絞り 龍へと放つ ーーひとすじの光は 黒き闇なる深淵の龍へ 導かれるように突き刺さった ーー瞬間 響く苦悶の声 滅び去る龍の巨体 ーーその一矢へすべての力を込めた娘は それを見届け倒れ伏す
2019-10-17 21:56:58「……彼女は命と引き換えに この世界を脅かす巨悪を打ち倒したのでありましたーー」 竪琴を爪弾く吟遊詩人の歌と酔客の歓声を背に、眼帯をした美しい耳長族の女が呟く。 「えっやだ怖い。いつの間に死んでおったのだお前?」 「いやそれこっちが聞きたいんですけど???」
2019-10-17 21:59:39「あ、おじさーんエールと焼鳥おかわりくださーい!!」 身を寄せてきながらシリアス顔で聞いてくる耳長女を肘で制しながら、ネコミミ装備の黒髪ヒューマンレンジャーオンナ。 そう、お久しぶりのアルカさんである。約二年ぶりだやったね……えっ嘘二年?? 時が流れるのは早いぜ。
2019-10-17 22:00:49ということはつまり隣の耳長女はマオ。例によってペットのくせになまいきだ。 今二人はワイワイガヤガヤ騒がしい、とある街のとある酒場で酒を飲んでいる。世界を救ってからは特に使命も何もない、気ままな旅暮らしの日々である。 「あいよーお姉さん、焼鳥何にする? お任せでいいかい?」
2019-10-17 22:03:06「あーっとね、ネギマとつくねタレで二本ずつとー、とりかわっ。をー、塩で三本っ。お願いしまーす」 「あアルカずるい私も追加だ。こっちもエールおかわりとー、ハツぼんじり一本ずつ砂肝レバー三本ずつ。全部タレで」 「あいよー」
2019-10-17 22:04:21「……マオ、あんたどんだけ内臓食うんです……?」 「ばッかものォ、元魔王がハラワタ啄まんでどうするんだ」 けっと吐き捨てるマオには謎のこだわりがあるらしかった。 「あ、いたいたアルカさーん。とついでにマオ」 「お、リィドくん。遅かったですね」 「ついでとは何だこのモヤシ」
2019-10-17 22:05:12「うるさいぞマオのくせに」 「そうですよマオのくせに」 「我が我であることを指摘する、それ自体が悪口になる……だと……!?」 「まぁこの人はほっといてこっちに座るといいですよ」 ショックを受けているマオをスルーし椅子を引いてやるアルカ。 「へへ、ありがとうアルカさん」
2019-10-17 22:07:32「遅かったから先に頼んじゃってますけど……何かあったんです?」 「うん、なんかお祭りがあるらしくってさ、宿が中々見つからなくて」 「おや、そうでしたか。しかし納得です、それでこうまで騒がしいワケですねぇ」 リィドを労いながらしたり顔で頷くアルカ。
2019-10-17 22:08:44「あれ? お姉ちゃんたち、祭りに合わせて来たんじゃないのかい?」 するといいタイミングで店主のおっちゃん(ムキムキでパツパツ)が肉と酒を持ってやってきた。 「いやはやコレがまったくの偶然でして。何のお祭りなんですか?」 「まっ、ひとことで言えば平和になった記念……みたいな?」
2019-10-17 22:13:09店主が肩をすくめながら言う。あんたも把握してないんかーい。 「勇者様が世界を救って一年だ。街の活気も戻ってきたし、ここらで一発大騒ぎしようぜ……ってなぁ」 「ははぁなるほど……」 「ふむ、道理で先から英雄譚を紡ぐ詩人ばかりなわけだ」 いつの間にか復活してきたマオが訳知り顔をする。
2019-10-17 22:15:21先ほどこの店の中で歌っていたのも祭りに乗じたうちの一人なのだろう。 「そういえばさっきの宿屋でも歌ってる人いたよ。……あ、ぼくも注文いいですか?」 「おうよ、たっぷり食ってきな!」 おっちゃんに声をかけるリィドを尻目に、運ばれてきたエールをぐびりぐびり。
2019-10-17 22:17:21もうひとつは駈け付け一杯とばかりにリィドに押しやる。注文を終えたリィドが礼を言って渡されたエールをぐびりとやって、顔を赤くした。リィドはあまり酒が強くはないが好きなのだった。 「ありがとアルカさん。……ぷはー、」 「ぷっはぁー」
2019-10-17 22:18:45二人で並んで喉を潤す。しみじみ。 「あ゛ー、『この一杯のために生きてるー』って、昔はわからなかったけど今なら少しわかる気がしますねぇ」 「ひと仕事終えたあとのエールはウマい! というヤツであるな。なるほどよいものだ。ところでアルカよ我のエールどこかな???」
2019-10-17 22:20:21ンン〜? と首を傾げる金髪眼帯耳長女に、 「さぁ? 知らないうちに飲んでいたのでは?」 などとすっとぼけるアルカ。 「足りなかったらもう一杯頼めばいいでしょう」 「……まぁそれも道理か! 店主、もう一杯エールだ!!」 追加のエールを頼んで焼き鳥をパクつく女ふたり。ふたりは仲良し。
2019-10-17 22:22:07それをどことなく羨ましそうに眺めながら、リィドは口を開いた。 「ええとねー、それで宿のことで相談しておかなきゃならないことなんだけど」 「何だ犬公。あっわかった! 祭りで十分に部屋が取れなかったというところだな? ワラ山で寝るコツも体得してきたところだ、馬小屋でも我慢してやろう」
2019-10-17 22:26:00やれやれ仕方ない、と肩をすくめなから恩着せがましくマオが言う。 「何でそんなこと自慢してるんです? マオはおかしなヒトですね、いや元からか、知ってました」 「馬小屋で寝たいなら勝手にしなよ。それならそれでちょうどいいし。……部屋は一応、取れたんだけど」
2019-10-17 22:29:49リィドはそこで一度言葉を切り、深くため息を付きながら続けた。 「二人部屋が一つと、一人部屋が一つで」 「何だそれならいいではないか、何を相談する必要がある?? 男女別で構うまい」 ずずず、と不貞腐れたようにエールをすすりながらマオ。それはエールの飲み方じゃないやめろ。
2019-10-17 22:32:00「だっダメだろ! お前なんかとアルカさんを二人っきりにしておけるかよ!!」 ばん! と勢い込んでマオにかみつくリィド。わんわん。 「最近アルカさんを見る目に邪な物が混じっているじゃないか……僕は気づいてるんだからな……」 「むー? 我はアルカのペットだしー。よくわからんなぁー?」
2019-10-17 22:34:01ジト目を向けられたマオはどこ吹く風という感じで、エールを持つ手と逆の腕でアルカの肩を抱いた。 「なぁアルカ、我と一緒でいいよなー。よもやこのヘタレもやしと同室がいいとは言うまい」 「なっ! ヘタレもやしはないだろ非常識マオ! アルカさん、そいつと同じ部屋はやめといたほうがいいよっ」
2019-10-17 22:37:14「それならいっそっ、ぼ、ぼぼぼぼっ……くっが……っ!」 顔を真っ赤なしながらリィドがゴニョゴニョ。しっかりしろ、はっきり言わないと鈍感系には聞こえないぞ!! 「……さっきから聞いていれば二人ともぴいひゃらうるさいですねぇ」 はぁ、とため息をつくとアルカはマオを押しのけた。
2019-10-17 22:38:39「ああん、いけずー」 「何言ってんだコイツ。……ともかく、私が一人部屋もらいますからそれでいいでしょう」 「「!!?」」 「アルカ! ペットには責任を持て!! 我と一緒のへーやーにーしーてー!!」 魔王パワーてま狐耳を生やしながらギャンギャン喚くマオ。力の使い方を間違っている……!
2019-10-17 22:43:14「もう元魔王のプライドとか全捨てですね……信頼できるリィドくんに見てもらうのですから十分責任はとってます」 「そうじゃなくて! 我のような美女と同じ部屋でリィドが耐えられると思うのか!!? 襲われちゃう! 我襲われちゃう!!」 「ハハハ嫌だなマオってば冗談がうまいや」
2019-10-17 22:46:06いやん、としなを作って体をくねらせるマオに、リィドは真顔で言った。 「そうですよマオ、あなたがリィドくんを襲うのならともかく逆はちょっとないと思います」 アルカも真顔で言った。 「リィドくん、二人部屋に押し込んでおいてナンですけど、気をつけてくださいね」
2019-10-17 22:50:32「わかったよアルカさん、何かあったら大きい声出すから助けてね……!」 「えぇ、その時は必ず」 「ちょおっとぉ! 我そんな!? そんな扱いか我は!!? おかしくない、ねえおかしくない!??」 ひしと手を握りながら真顔で頷き合う二人に、やや涙目になりながらマオがすがりつく。
2019-10-17 22:54:13それをいじり倒しながら、料理に舌鼓を打ち、手頃な酒で喉を潤す。それほど上等な品ではないが、仲間と一緒に食べるなら、それが最高の調味料になった。 ーー世界を救った一党の、これがいつもの光景である。
2019-10-17 22:59:02