エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~5世代目・後編1~
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前回の話
以下本編
黒の渡り手オズロウ、マーリの息子 盲目の船長 総攻め匂い嗅ぎマン #えるどれ pic.twitter.com/qRP7k9w0dI
2019-10-19 22:18:05白鳥の船首飾りを持つ小さな帆船「旭あけ丸」は海岸に沿ってぐんぐんと南へ下っていた。帆は順風を孕み、甲板には黄玉の額飾りをした半妖精の美丈夫と、東夷の褐色の肌に尖り耳をした種族の定かならぬ長躯の若者。 だが帆が縮み、船足が急に鈍る。 風読みが、岬に蟠る影を認めたからだ。
2019-10-14 21:36:45「船長。前方に邪(よこしま)なるものの気配を感じます」 「もっかい言うて」 「邪なるものです。以前にも感じた気配」 「そこやのうて」 「?船長、ですか」 「ええわー…船長…船長!!ワテ!船長になったんや!」
2019-10-14 21:38:29オズロウとロンドウは巧みに綱を操りながら、おしゃべりに興じる。 風と水を魔法によって飼い慣らすエルフならではの舐めプである。 「岬からはなるたけ遠ざかりましょう」 「待った!あそこの浜につけてーな!ワテ見てくる!」 「どうしてですか」 「知り合いの気がしよる」
2019-10-14 21:40:11荒波に突き出した岩場の端にいたのは、古の戦装束をまとう蒼ざめた王だった。骨ばった手には一掴みの土を持っている。 「船を得たか。影の国の世継ぎ」 「せや!もっともっと大きい、海の果てまで行ける船ほしーけど、でも旭あけ丸もええ船やで!」 「…約束を覚えているか」 「覚えとるで!」
2019-10-14 21:42:19「まだ気持ちは変わらぬか」 オズロウはまっすぐ、死せるもののふに腕を差し伸べる。 「塚人のおにーはん。ええにおいの、ええ男やな。ワテの船に乗ってかん?」 「乗るとしよう。我が土を船底に」 「合点承知や」
2019-10-14 21:44:36水に浮き、水の入らぬドワーフの小箱に湿って饐えた匂いのする土を詰め、しっかりと錠をおろして、銀の鍵を亡者に渡す。 「おにーはんのもんや」 「黒の乗り手は皆変わっている。お前はさしずめ黒の渡り手。かの黒の歌い手に似て、何ものにも囚われぬ風の如き性」 「むちゃ囚われんで!ええ男には!」
2019-10-14 21:47:55土気色の顔の上に、不吉な影が通り過ぎたように暗み、また明るんだ。 どうやら笑いに近いものらしい。 「生あるうちであれば、西方人の王として、光の軍勢の将として賛辞を受け入れたであろう。だが今の我は闇の軍勢の手先」 「どっちにしろええ男や!」
2019-10-14 21:50:44「我に戦の指南を求めた死人占い師、歌を求めた呪歌の匠…盲目の船長(ふなおさ)は何を求める」 「んー…夜の見張りとか?」 「引き受けよう。だが我が気配は並のものには恐れと怯えをもたらす」 「ええて。夜は怖いもんや。せや。ワテはおにーはんをなんて呼べばええの?」
2019-10-14 21:53:42イケメン乗組員二人目獲得である。 イケメン。 確かに塚人がイケメンかどうか議論のあるところと思う。 一つ言っておくと、カゲノツキは生前は南北統一王朝の君主として美貌と勇猛で名高い男だった。親族の裏切りによって惨死し、忠義の家臣によって淋しき森の塚の主となったが。
2019-10-14 21:57:56あちこちの屍(かばね)の傷みは、ドワーフ七大悪人の一人、屍金接ぎによって補いがつき、生前の面立ちをかただとった薄く軽く錆びぬ鋼の面ももらっている。武具も埋葬時の意匠を残しつつ、打ち直してあり、ヨゴシを入れて年代を演出しているものの実際はピカピカ。
2019-10-14 22:00:06ブランニューアンデッド。 カゲノツキは恐らく亡者としては最高にイケている。 が、同乗することになった光の軍勢の将ロンドーは苦る。 「あれは魔性です」 「せやけど、もとは光の軍勢の一員やったって」 「…偉大な王だったかもしれませんが…今は闇に堕ちた身」 「なかようしたって!」
2019-10-14 22:01:55かくて旭あき丸は夜になると、なにやら寒々として湿った霧のごときものがまといつくようになった。 怖すぎる。日のないあいだだけ幽霊船。 しかも夜更かし船長が話し込む。 「カゲノツキはんは、どないな男が好き」 「我が盾となる丈高く力強き騎士を…あまた求めた日々もあった」
2019-10-14 22:04:28死んだ女の指が示す南の方位をたどりながら、死んだ男の口が語る過去と未来について言葉を交わす。 「明日は波が高い。北北東の風、のち北東北の風。雨はゆくてにかかるが、すぐ抜けるであろう。後は陽射しが強く膚を焼く。甲板の作業には注意が求められよう。幸運の色はお前にはかかわりない故省く」
2019-10-14 22:07:24順風が旭あけ丸を南へ南へと運ぶ。 時折、秘密の入り江に入り、すでにあまり手入れするものもなくなたった、エルフの補給所で水を得てまた出発する。 「海賊にどうやって会うつもりです」 「千の帆の都へいくんや。でも場所はラヴェインの歌にも出てきよらん…まず南の人の街で噂を集めんと」
2019-10-14 22:12:16南にはいくつも栄えている港がある。 かつて黄金王ファラゾエアが築き、無理矢理に周りの民を移住させた都市だが、今は南寇の手に渡り、交易の拠点になっている。 もう海賊ばかりでなく、みずから商い船を廻すのが赤銅の肌をした船乗りのならいだ。影の国を通じ東夷とのあいだに取引がある。
2019-10-14 22:14:39とはいえ、さすがに妖精の船が港に入ってくると恐懼の漣が波止場に広がり、刺青を入れた諸肌脱ぎの男や女が、曲刀や弩を手に詰め掛けてくるが、甲板で手を振る若者の、東夷らしい暗い膚を見て緊張が和らぐ。
2019-10-14 22:16:36「警邏の艇はなぜ見逃した」 「ものすごい船足で、それに何だか明け方ごろまではぼんやり霧がかかったようで、いると解らなかったんで」 「とにかくあのやたら若い船長に話を聞け。敵か味方か」
2019-10-14 22:17:48盲目の船長(ふなおさ)は南方人に囲まれても泰然としている。 左右にはからくり細工の召使と、半妖精の風読み。甲板にはおぼろな亡者の影。どう考えても尋常ではないが。 「オズロウ!オズロウだろ!」 人波を掻き分けて小柄な青年が飛び出してくる。ドワーフだ。
2019-10-14 22:19:42