久保田万太郎『さんうてい夜話』（春泥社）と小村雪岱をめぐって

Fragment兎影館｜白座 @Fantas_magorie

春泥社版の久保田万太郎『さんうてい夜話』も、函の青い木版画や検印の鳥などあきらかに小村雪岱が関わっているのに、装幀の表記はないのだった（函の背のゴシック書体を雪岱が選んだとは思えないけれど）。 小村雪岱の装幀の仕事の全貌については、きっと真田幸治さんがまとめてくださるはず。 pic.twitter.com/ptBmcfjtv4

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東雅夫┃O.Z.N.（おばけずきネットワーク） @obakezukinw

先日の柳川貴代さんのツイートに教えられて、そそくさと取り寄せた久保田万太郎『さんうてい夜話』。なるほど、この絶妙な色合いは、紛うことなき雪岱ブルー。昭和１２年という時局の重圧が、鏡花劇の上演におけるキャラ設定の改変にまで及んでいたことが窺える記載なども。後ほど会場に持参します。 pic.twitter.com/UcNAnDANu8

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真田幸治｜『江戸役者』(小村雪岱・邦枝完二)発売中 @sanadakobundo

ＴＬを少し賑わしている？久保田万太郎の『さんうてい夜話』(春泥社)と小村雪岱の関わりについてですがこれから書いて説明したいと思います。 twitter.com/Fantas_magorie…

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01)立て込んでいて説明が遅れてしまいました。結論から書くと、久保田万太郎の『さんうてい夜話』は小村雪岱による装幀ではなく、内田誠が手がけた可能性が高い判断しております。 まずは『さんうてい夜話』、その著者久保田万太郎と雪岱の関係について説明したいと思います。 pic.twitter.com/d9YJm8iOlw

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02)『さんうてい夜話』は雪岱も深く関わっている春泥社から昭和12年5月25日に刊行されました。東京日日新聞にて昭和10年8月から昭和12年3月まで「傘雨亭夜話」として連載されたものをまとめたものです。「傘雨」は万太郎の俳号です。

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03)泉鏡花を中心とした会合、九九九(きゅうきゅうきゅう)会を通しても雪岱は万太郎と交際があり、またその著書の装幀を多く手がけています。初期の装幀本には『路』(千章館、大正4)、『下町情話』(千章館、大正4)、『薄雪双紙』(鈴木書店、大正5)、『駒形より』(平和出版社、大正5)などがあります。 pic.twitter.com/IAwKHf6BQ2

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04)なぜ雪岱による装幀ではないと判断できたのか。それは『さんうてい夜話』の版元、春泥社の俳誌「春泥」の誌面を精査することで明らかにしました。「春泥」は万太郎や大場白水郎、内田誠を同人として、雪岱による表紙を掲げて昭和5年3月に創刊され、第89号が刊行された昭和12年12月まで続きました。 pic.twitter.com/L5b1Ro3ow0

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05)「春泥」全89冊のうち、雪岱は七種の絵で63冊の表紙を手がけ、雪岱文字によるタイトルロゴも多くの号で採用されています。また昭和八年からは雪岱も同人として名前を並べるようになり、雪岱と「春泥」の関係は名実相伴うものになりました。 pic.twitter.com/W8eF1Rn957

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06)雪岱は春泥同人及び関係者の著書の装幀を度々手がけています。諸事情によりすべては書けませんが春泥社にしぼっただけでも、増田龍雨『龍雨句集』(昭和5)、大場白水郎『春泥研究会句抄』(昭和6)、伊藤鷗二『鷗二句集』(昭和10)、大場白水郎『縷紅抄』(昭和10)などがあります。 pic.twitter.com/aNIKIXb8YC

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07)『さんうてい夜話』の検印紙は雪岱による意匠のものです。奥付の二頁後の無地の頁に検印紙のみが貼られています。この雪岱による検印紙については平田雅樹氏が「雪岱の装丁本　第二回　鏡花周辺と大正文学」(「人魚通信」第1号、人魚書房、2004年)で指摘しています。 pic.twitter.com/EgqaxVKRjq

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08)その春泥社から刊行された『さんうてい夜話』を雪岱による装幀とみなすにはあまりにも環境が整っていますが、その「春泥」に掲載された新刊広告に注目してみてみると風向きが変わってきます。第84号(昭和12年7月)には『さんうてい夜話』の一頁広告が掲載されています。

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09)造本についての記述を引用します。「優雅をり紙型／本文　上質紙　九ポイント　二四六頁／装幀　局紙　銀紙に著者の麗筆を凹版にて印刷／美しきこと浅瀬にほのみゆる小貝に似たり／函張　藍流し　手刷木版」。タイトルが万太郎自身によることは書かれていますが、装幀者表記はありません。 pic.twitter.com/vp5LkLfzaI

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10)仮に雪岱による装幀であった場合、親しい同人仲間である雪岱の名前を出さないのは違和感を感じます。しかも、同じ号には大場白水郎の『続白水郎句集』(俳書堂)と、伊藤鷗二『鷗二句集』(春泥社)の新刊時の広告が再度掲載されており、どちらも装幀者である雪岱の名前が表記されているのですから。 pic.twitter.com/AIs3gK2Q37

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11)そこで「春泥」誌面で同人や読者の交流の場といった側面もあった「いろいろ」という企画頁に目を向けてみたいと思います。同人の山田薫子が第86号（昭和12年9月)で『さんうてい夜話』を取り上げていますが雪岱の名前はありません。そこで少しさかのぼってみると第83号でも取り上げられていました。

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12)引用します。「さんうてい夜話。久保氏の随筆がいよいよ春泥社版として発行されました。一切は内田氏によつて出来た美本でありまず。」(原文ママ)。おそらく同人、槇金一による文章でしょう。当然この「内田氏」は「春泥」同人であり、明治製菓の宣伝部門で部長を務めていた内田誠を指しています。

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13)となると、この「一切」の範囲がどこまでを指すのかが問題になります。企画、制作、そして装幀もはいるのか？　装幀を改めて見てみれば、函は上部からの「藍流し」、函背には金の箔押しでタイトルと著者名、本冊の表と背には万太郎の筆によるタイトル(背には著者名も)と実にシンプルな装幀です。 pic.twitter.com/kjzgU7Rj26

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14)この装幀ならば、日本画出身の雪岱のようなテクニックや装幀の経験も不要であり、趣味のいい人物が印刷経験のある関係者に助言を貰いながら指示をすれば作りあげることができるでしょう。とすれば、内田誠が装幀者であっても決して違和感はありません。

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15)よって、広告や「いろいろ」でも装幀者について言及がないことを考えれば、万太郎の『さんうてい夜話』の装幀は雪岱ではなく内田誠による装幀である可能性が高いと結論づけました。広告に装幀者表記がないのは、雪岱のような装幀の専門家ではない内田が黒子としてその名前を伏せたと考えています。

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一言だけ添えておくと、決して揚げ足を取りたいわけではなく、小村雪岱についての客観的な事実に迫りたいというだけです。柳川さんや東さんのツイートは影響があるかと思いますし、それに対してこういう意見もあるんだよということをTwitter上で残しておきたいと思いました。ご容赦ください。

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ツイートに使用した小村雪岱関連の画像はすべて個人的に所蔵する本と雑誌をスキャンしたものです。

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補1)ちなみに『さんうてい夜話』の検印紙は「春泥」の表紙もしくは裏表紙で使用された絵から取り出されたものです。第80号(3月)までは表紙左上に配されていますが、第81号(4月)以降は裏表紙中央に移動しています。『さんうてい夜話』の5月刊行に合わせて移動させた可能性もあるかもしれません。 pic.twitter.com/5crDULw2AB

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