煉獄槙寿郎の妾の話

煉獄槙寿郎の妾になろうと煉獄家に押し掛けてきた女の一生。
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人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

「私は妻にも母にもなる気はありません。ただ妾として、あなたのお父様の側に侍るお許しをいただきたいのです」って昔煉獄槇寿郎に命を救われた転生者が三度目の正直として煉獄杏寿郎の救済を目指す煉獄槇寿郎夢(爛れたプラトニック恋愛夢)が読みたいです。

2019-11-03 19:17:05
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

「私がお慕いしているのは、瑠火様を愛しておられる槇寿郎様です」って言い切って何となく使用人ポジのようなところに収まって家のことをやるし、懐いてくる千寿郎に「私は妾です。懐いていただけるのは嬉しいですが、そこはお間違えのないように」って言い聞かせたりする。

2019-11-03 19:47:41
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

このネタのオチの女主が死ぬシーンの話めちゃくちゃ聞いてほしいんだけど聞いてもらうためにちゃんと語ろうな井上さん。全力の妾ムーブさせような。 twitter.com/ikami68/status…

2019-11-04 19:02:38
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

いやこれマジで美しいだけの地獄だよ。しかも地獄を振りまいて死んでいくタイプの身勝手なやつ。無限列車で死にかけている煉獄さんに膝枕して槇寿郎さんの親心を語りながらただ一度の転生特典を使って杏寿郎を救済する。杏寿郎が涙とばかり思っていた雫は不自然な粘度を持って彼の羽織を赤く染めた。

2019-11-04 19:08:24
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

死んでいくから痛みが鈍っているだけだと思ってた杏寿郎はね、それが死に依るものではなく生へ向かっているからだと途中で気付くんですよね。夢現で母の面影を重ねたいた女主の笑みが朝日に照らされる様をはっきりと認識して、その口元や甘えた腹から溢れるように血が溢れているのを理解する。

2019-11-04 19:14:16
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

「あ…あぁ…ッ!」ズタズタに裂け、微かに呼吸することすら難しかった肺から零れた吐息は、嘆きとなって吐き出された。潰れた左目がぐるりと回りはっきりと彼女の顔を見詰めさせた。駄目だ、と叫んだ。駄目だ。駄目だ。だって貴女は。貴女が本当に救いたいのは。「……よ、しぃ……の、す」ごぽり。

2019-11-04 19:33:47
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

塊となり吐き出された血が杏寿郎の額で弾け、その髪を赤く染めた。それでも彼女の笑みは一辺たりとも崩れなかった。血と死臭にまみれた言葉で途切れ途切れに彼女は語る。よろしい、のです。これで、まちがいではないのです。わたしはもう、にどもまちがえたのだから。ようやく、ただしくあれたのです。

2019-11-04 19:46:53
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

この世界に生まれ、前世の記憶を取り戻した時。彼女はたった一つ確信を抱いた。「私は、誰かの“代わり”になれる」それは比喩などではなく、文字通り誰かの“命の代わり”という意味だった。しかしいくら可能だとしても、誰かの為に自身の命を擲つなどそうそうできることではない。ちょっとした危険で

2019-11-04 19:56:01
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

当たり前に怯える弱い自分が、自分よりも他人を優先できるなんて思っていなかった。――二度、間違えるまでは。一度目は、姉だった。きっとこの世界であれば珍しくもない話だ。幸せの絶頂で、鬼に食われて死ぬ。きっと誰かの理由として消費される程度の、よくある話だった。姉は、鬼の腹に綺麗に納まった

2019-11-04 20:13:51
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

彼女は、それをずっと側で眺めていた。恐らく食いでや好みの問題でしか無かったのだろう。恐れに膝を屈して動けなくなった彼女へ、わざわざ鬼が爪を走らせることは無かった。彼女の目の前で食われている姉は、決して。彼女に「助けて」とは言わなかった。手を、伸ばしもしなかった。絶叫を上げ

2019-11-04 23:10:11
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

泣き叫んでもなお、自らの幸福を惜しむことなく。妹に、代わりになれとは言わなかった。姉を貪り終えた鬼は、駆けつけた鬼殺隊にあっけなく首を刎ねられた。本当に、あっさり。もしかしたら彼女にも出来るんじゃないかって勘違いをしそうなくらいに。あっさり、死んだ。姉だった肉片を頬にこびりつけて

2019-11-04 23:16:48
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

座り込む彼女を、鬼殺隊の剣士は力強い腕で抱き締めた。血の匂いに混じって、炭の燻るような匂いがする。温かな家族の匂いをまとったその剣士は、彼女の額を胸元に押し付けて、そうして、言った。「すまない。だが、君だけでも生きていて良かった」君だけでも。君だけでも、ときた。こんな、姉の

2019-11-05 19:20:21
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

“代わり”にもなれなかったいきものの命を、彼は惜しんでくれるというのだろうか。そこで彼女はようやく、泣く、ということを思い出した。姉が目の前で食われても泣かなかったのに、自分の命を惜しまれた嬉しさで泣いてしまった。こんなこと、間違いだ。そうだ私は間違ったのだ。それが、一度目だった。

2019-11-05 22:06:07
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

――二度目は、彼の妻だった。語るまでもない話だろう。私は、彼の妻の命が絶えることを知っていて。私は、それを読み逃したのだ。白黒の幕が垂れた部屋で眠る彼の妻は、前評判通りたいそう美しかった。世話になったからと、我儘を言って連れてきてもらったその場所で、彼は彼の妻よりも真っ白な顔色を

2019-11-05 23:22:38
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

して座っていた。喪主が出来たのか、と思うのは彼女がこれからを知っていたからだ。色を無くした顔に、泣き腫らした目元の朱は毒々しい程によく映えた。痛ましい、と思うことすら烏滸がましい。また、彼女は“代わり”になれなかった。また、出来ることをやりそこねた。喪主の前に進み出て深く深く下げた

2019-11-06 18:44:27
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

頭は、もう二度と上げられないんじゃないかというくらいに重かった。ぐす、と末子が鼻を啜る音が聞こえる。上目で見た長子の膝では、悲しみを堪えた拳が力の加減が分からず震えている。胸が潰れそう、という表現がよくよく身に沁みた。胸に詰まる罪悪感が、涙すらも押さえ付けていた。焼香の、毒気を

2019-11-06 19:01:04
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

含んだ煙が辺りを包んでいる。温かな炭の匂いは、抹香の香りで塗り潰された。もうしわけ、ありません。唇だけで呟いた。もうしわけ、ありません。わたしはまた、まちがえました。せっかくおしんでいただいたのに、わたしはまた、“かわり”になれませんでした。――それが、二度目のことだった。

2019-11-06 19:16:22
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

だからこれは、彼女にとって三度目の正直だった。三度目。二度間違えた彼女の、三度目の、罪滅ぼし。なりふり構わ彼の家まで押し掛けて、ずっとその時を待っていた。もう何も失わないように。もう何も、欠けることなどないように。ただ、それだけを願って。妾、と嘯いたのは内に秘めた願望だ。最愛を

2019-11-06 19:40:30
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

持つ彼に愛されたかった、と思わなかったといえば嘘になる。万分の、億分の一の可能性を無聊の慰めにしていたのだ。――でも、今。願った通りに彼の息子を救うことが出来た彼女の胸に去来するのは、ひどく清々しい達成感だった。ああ、と。登る朝日の美しさに知らず笑みが溢れていた。暖かい。彼の息子は

2019-11-06 19:54:50
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

暖かな陽だまりのような温度でもって彼女の冷えた膝を暖めていた。口の中の血に噎せながら、彼女の胸に縋り付く。何が起こっているのか何にも分からないくせに、必死にやめろやめろと叫んで彼女を押し留めようとしている。ふふ、ともう動かぬ唇の代わりに心で笑った。自分でもちょっと引くくらい、

2019-11-06 20:07:48
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

得意気な笑い声だった。あの人、ではないけれど。あの人の大事な大事な、家族の匂いのする人。初めて出会ったあの時のように、血と、炭の燻る匂いに包まれて。確かな温もりに浸って。そうして、彼女は満足そうに目を閉じた。満足そうに、誰かの“代わり”となれたことを、誇りにした。

2019-11-06 20:10:51
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

彼女の遺体と共に帰路についた杏寿郎を迎えた父と弟は、取り乱しながらも、まるで何もかも知っていたようだった。嘘だ、と。最悪な正夢を目にしたような顔をしていた。広間に敷いた布団に寝かされた彼女の体には一片の傷すらなく。あれだけ溢れた血を拭ってしまえばただ眠るように死んでいた。

2019-11-06 20:16:17
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

呆然と座り込む杏寿郎に差し出されたのは、柔らかな桜色の一筆箋だった。「長らくの我儘を聞いて頂き、ありがとうございました。貴方様のご家族を、必ずお帰し致します」美しい、手だった。何の迷いも無いような、流れるような筆跡だった。それを見れば、いつから、と問うことさえ愚問のように感じた。

2019-11-06 20:24:29
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

彼女が行った反魂は、鬼喰いのそれだと結論付けられた。鬼の血を、どこかで取り込んだのだろうと。彼女は知っていたのだろう。知っていたから、あんなことをしたのだろう。調べを求めようとした胡蝶に先んじて、杏寿郎は地に伏してその身柄の引取を願い出た。傷一つ無い彼女の身に、どんな理由であれ

2019-11-06 21:09:15
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

これ以上の傷を許せなかったからだった。鬼狩りの、その上柱として有るまじき我儘だと理解はしていた。冷静になれ、と叱咤する己もいた。しかし無理だった。彼女の亡骸の前で、まるで母を亡くしたあの頃のように座り込む父の背中を見て、これ以上、無理だと思った。額を地に付け、頭を上げようとしない

2019-11-06 21:27:32