映画「シャイニング」レビュー 「キューブリックが目指した恐怖の性質」

映画「シャイニング」のレビューツイートのまとめです
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

#ドクタースリープ」のための予習、映画版「#シャイニング」再観賞。 本ツイートでは映画版と原作の「恐怖の性質」の違いについて呟いてみようと思う。 原作・テレビ版の感想は↓ #映画批評 twitter.com/3mt84zj7jLIgWl…

2019-11-25 19:54:39
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

ドクタースリープを見に行くために前作「シャイニング」の原作→キング総指揮のテレビ版を観賞。 テレビ版の存在は昔から聞いていたが、観賞する機会がなかったので丁度よかった。 テレビ版はほぼ原作に忠実なので、原作の感想と併記する。 #ドクタースリープ

2019-11-24 20:25:05
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

原作と映画版の最大の違いは「恐怖の描き方」だろう。 キューブリックの「シャインニング」が画期的だったのは、「説明的な表現を一切廃してまるで生きている人間かのように死者を描いた」ことではないかと思う。

2019-11-25 19:54:39
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

原作では、ダニーの持つ「かがやき(超能力)」や、ホテルに憑りついた亡者達の害意がはっきりと描かれている。超常的な感応力の高いダニーを通して幽霊がどんどん力を付け、ジャックをそそのかしていく様が描かれている。

2019-11-25 19:54:40
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

一方映画版は、ダニーやハロランが超能力を持っていることは何となくわかるが、どういう作用をしているかがよくわからない。 原作では「ホテルの血塗られた歴史」が鍵となり、過去に様々な悲劇があり、その亡者達が悪さをしようとしてることがわかるが、

2019-11-25 19:54:40
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

映画版の怪異は、前管理人のグレイディに殺された二人の娘くらいしか具体的な出自はわからない。 終盤にウェンディが見る「着ぐるみと男」は、原作を読んでいれば正体がわかる(恐らく両刀使いだったという初代管理人ダーヴェントとハリーという男)

2019-11-25 19:54:40
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

原作ではダニーの予知能力や第六感の冴えがはっきりと描かれ、両親もそのことを認識する。原作及びテレビ版の「トニー」は、はっきり人の形を模して出現する。 映画版では「トニー」はダニーの指人形で、ダニーが声色を変えて別人格のように話すだけ。

2019-11-25 19:54:40
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

映画版のシナリオは原作を換骨奪胎し大筋は同じで再構築されているが、とにかく説明的な描写がほとんどない。 原作では家族を愛する優しい父親ジャックが狂気に陥っていく要因として「アルコール依存症」「秘めた凶暴性」「ダニーへの過去の虐待」がはっきり提示されている。

2019-11-25 19:54:41
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

つまりどういうことかというと、原作では「過去にこういうがあって、こういう条件を満たすとヤバいですよ!」という「ルール」が、丁寧に提示されているのである。 「幽霊が力を持つ」「ジャックが酒を飲む」「ホテルの過去の関係者が出てくる」といった「禁則事項」がはっきりわかるのだ。

2019-11-25 19:54:41
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

対して映画版は、ジャックのバックボーンはほとんどわからず、ホテルの陰惨な過去もほとんど明かされない。 「何かよくわからない不気味なものに巻き込まれていく」という構造を取っているのである。

2019-11-25 19:54:41
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

テレビ版を見て特に感じたが、シャイニングという作品は割とベタな「幽霊屋敷もの」だ。そのまま映像化していればあそこまで本格的な映像派ホラーにはなっていなかっただろう。 テレビ版の「トニー」はただの眼鏡をかけた青年で、宙に浮くといったわかりやすい人外表現で登場する。

2019-11-25 19:54:42
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

ところが映画版の死者達は、わかりやすい「人外表現」はなく、生者との区別が全くつけられず、ただそこに生きてるかのように「現れる」 グレイディの双子の娘は「ただそこに佇んでいるだけ」である。

2019-11-25 19:54:42
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

本作の演出を語る上で欠かせないのがカメラワークである。 本作のカメラワークは登場人物の移動にピッタリ張り付いたステディカムによる撮影や、登場人物の注視を表現するズームイン、ズームアウト、異常事態を表現する高速パンといった表現が散見される。

2019-11-25 19:54:42
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

シャイニングの演出は、とことん「登場人物の視点」に寄り添われている。バットを振り回してジャックを撃退しようとするウェンディと追い回すジャックのシーンが顕著で、ほぼ二人の主観のような印象でねっとりとカメラが追随する。

2019-11-25 19:54:42
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

キューブリックは本作で、原作のわかりやすい「幽霊記号」「禁則事項」といった恐怖表現を避け、『空間本来が持つ不気味さ』を表現しようと考えたのではないかと思う。

2019-11-25 19:54:43
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

「誰も居ないホテル」というのがまず不気味だ。 明かりは灯され客室が沢山あり本来は人が沢山潜んでいるであろうホテルに「誰も居ない」 その「誰も居ない(のに建物の性質的に他者の存在を感じずにはいられない)」廊下を、ダニーの低い視点でカメラが追う。

2019-11-25 19:54:43
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

わざとらしく強調しなくても観客は「角を曲がった先に誰かいるんじゃ?!」といった想像をどうしてもしてしまう。 ただっ広い空間の隅々に不気味な存在感を覚えてしまうのだ。

2019-11-25 19:54:43
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

これを補強するように、実際に「角を曲がった先に双子が待ち受ける」シーンや、ハロランが惨殺されるシーンでは「立ち並んだ柱の陰からジャックが飛び出してくる」という「死角からの急な襲撃」の演出が見られる。

2019-11-25 19:54:43
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

この映画では、生きている人間達に全く生気が通っていない。「生きてそこに居る」という感覚がとにかく希薄なのだ。家族三人は全然会話しないし、共同生活をしている感じが全くない。 ホームドラマの側面も湛えていた原作と比べるとその「希薄さ」は歴然だ。

2019-11-25 19:54:44
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

逆に、ジャックとバーテンダー、ジャックとグレイディの会話等は非常にねちっこく長い。生者と死者の演出がまるで反対になっている。 本作では「鏡」が随所に見受けられ、印象的な演出が施されている。鏡に映った寝起きのジャックにカメラがズームインし、虚像をまるで実像のように見せるシーンがある

2019-11-25 19:54:44
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

他にもぼうっとしたジャックがダニーを呼びつけるシーンでもわざと「鏡に映ったジャック」に視線がいくように構図が作られている。 これはすなわち「実態と虚像の実存転回」を表現しているのだろう。原作では幽霊達がダニーの高い媒介力を通して力をつけていく様子が描かれていたが、

2019-11-25 19:54:44
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

キューブリックは本作で、テキストに頼らない実に映像的なアプローチでそれを表現してみせた。それが本作の「恐怖の性質」なのである。 原作にあった因果や説明を廃することで観客の想像力を刺激し、直接的な恐怖を与えるのではなく観客の脳内で加速度的に広がっていく恐怖感を演出した。

2019-11-25 19:54:44
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

但しこれには弊害もあった。本作はとにかく話が分かりづらい。 原作は「ダニーの高い感応力のせいでホテルの亡者達が力をつけていく」「ホテルの幽霊達はダニーの力を取り込もうとしている」「ジャックは幽霊達にそそのかされて凶行に走る」といったことがはっきりと描かれているが

2019-11-25 19:54:45
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

映画版ではダニーの能力もジャックのそそのかしも非常に曖昧にしか描かれていないので因果関係がよくわからない。 ラストの「写真の中のジャック」も、昔見た時は『どういうこと??ジャックは昔居た人だったの??』という解釈をしたことを覚えている。 (原作的には、幽霊達に取り込まれたということ)

2019-11-25 19:54:45
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

ちなみに原作を大幅に換骨奪胎した本作だが、実は構成のペースは忠実だったりする。 本編約120分のうち第一幕は23分頃(四分の一ほど)までで「ホテルに住むまで」で、これは原作では上巻の半分が費やされているので、下巻を合わせると四分の一ということになる。

2019-11-25 19:54:45