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2011年6月4日

ライトノベル作家・扇智史のつぶやき掌編「あのバカの長き不在」

関連: ライトノベル作家・扇智史の掌編「リペア」 http://togetter.com/li/123117
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バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

二足歩行兵器が地面を踏み鳴らして駆け回り、多脚兵器の砲声が空を震わせる、そんな、静寂の意味すら変わる学院の日常ではあるが、今日の昼休みは本当に静か、と言っていいだろう。理由ははっきりしている。あのバカがいないおかげだ。

2011-06-04 00:17:40
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

テーブルに定食のトレイを置き、箸置きから塗り箸を取って、静かに味噌汁を口に入れる。半ば冷めて具の少ない味噌汁にも慣れたもので、わたしは椀を置くと、ご飯に箸をつける。何事もなく、白米を口に入れられる。喧噪の中心から離れ、わたしはひとり、その平和に満足する。

2011-06-03 23:30:12
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

何かと言えば噛みついてきて、かまってやればよけいにちょっかいを出してきて、放っておいても騒ぎを起こす。あいつのせいで、わたしのおだやかな昼食もしばしば中断させられる。今日はそれがないと分かりきっているんだから、心静かなものだ。

2011-06-03 23:32:02
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

あいつが入院して三日目。まあ、この学院の生徒にはつきものだ。練習機を一機スクラップ寸前にしておいて、本人の治療はたった三日、つまり明日には授業に復帰できるらしい。練習機の安全機構を褒めるべきか、あいつの頑丈さに呆れるべきか。

2011-06-03 23:33:50
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

どうせ殺したって死にそうにないし、本人も入院なんて体の良い骨休めくらいに思ってるんだろう。そう考えると、幾分か腹が立ってくる。休みたいわけじゃないが、自分がへとへとになってる時に誰かがさぼってテレビでも見てるかと思うと、非常に胸くそ悪い。

2011-06-03 23:35:01
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

ぱさぱさのキャベツに箸を伸ばした時、「ここ、いいか?」という声に、顔を上げる。わたしが許しを出すより早く、目の前の椅子に座るのは、高く結わえた長い黒髪、四六時中険しい顔つき――

2011-06-03 23:36:18
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「珍しいじゃんか、どうしたんだよ」わたしは不機嫌を隠さずに訊く。目の前の黒髪はそれを意に介するでもなく、特盛りの丼をどかんとテーブルに置き、「話し相手がいなくてな。お前に泣きつくなんぞ末期だが、やむを得ん」「何だよ、ぼっち飯か? ほかに友達いないのかよ」「やかましい」

2011-06-03 23:37:42
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「図星か、さみしい奴だな」「やかましいと言ってるだろ」律儀に両手を合わせ、髪をかき上げつつ親子丼をかっ込み始める。……初めて会った時から思っているのだが、どうもこいつは時代錯誤というか、キャラ立てが突飛だ。剣術の家で、貴族の指南役の下で育ったとか、出来過ぎもいいところだ。

2011-06-03 23:39:03
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

そこへもってきて、この和装向けすぎて制服がまったく似合わない髪型、狙ってるとしか思えない。本人に言ったことはないが、他の誰に言っても否定される。この学院の連中はどいつもこいつもファンタジーか近世時代劇の住人なのかもしれない、と思うこともある。もっと未来に生きたい。

2011-06-03 23:40:28
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「そもそも、お前もひとりだろうが」あっという間に丼の三割ぐらいを飲み込んだ彼女が文句をつけてくる。「六人席を占領するな、もったいない」「別に、座りたきゃ座りゃいいのさ、お前みたいに」皮肉で言ったつもりだが、彼女は本気で取ったようだった。ため息をつき、

2011-06-03 23:42:03
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「そのつもりなら、もっと周囲に気を配ればいいものを」「やーだよ、愛想振りまいたってしょうがねえだろ」「その自由な態度で人が寄り付くと本気で思ってるなら、おめでたいこと極まりない」「いるじゃん、ここにおめでたい奴。後一人か二人知ってるぜ」

2011-06-03 23:43:32
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「……二人とも、今はいないがな」片方があいつのことで、もう片方は学院を去った。その四人がひと組で同期のエース格として語られるが、四人が仲良しこよしだったことはない。少なくとも、わたしと他の三人はまったく相容れなかった。

2011-06-03 23:45:10
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

トラブルメーカーのあのバカと、目の前の偏屈な剣術バカ、それからあいつに輪をかけて騒がしかった情報狂。騒がしい同士は変に馬があってたようだし、体力バカ二人は仲良く訓練してるらしい。で、わたしはあのバカが心底大嫌いで、向こうも同じだ。嫌いなくせに絡んでくるから、始末に負えない。

2011-06-03 23:46:55
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「お前こそ他に友達はいないのか?」問う彼女の丼は、残り四割になっている。豚のような食事の速度に呆れつつ、「いらんよ、馴れ合いの相手なんぞ」「そんな態度だから誰も近寄らないんだろうが」「それでいいっつってんの」「……そうか」またため息か。別に強がってるわけではないんだがな。

2011-06-03 23:48:08
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

ちやほやしてくる提灯持ちをはね除け、嫉妬に駆られた下衆を追い払い、温情めかして話しかける鼻持ちならない間抜けを完膚無きまでに叩きのめし、とやって三年とちょっと。ようやく周りに誰もいなくなって、むしろせいせいしてるくらいだ。

2011-06-03 23:49:28
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

それでも尚わたしにまとわりついてこようとするあいつもこいつも、救いようのない大バカなんだろう。唯一ほかの連中と異なる点があるとすれば、追い払う労力がきわめて多大になりそうなことで、結果として、近づかせておく方がましだと思っている。

2011-06-03 23:51:05
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「それより、一口くれないか。ちょっと分けるから」いきなりそう言って、彼女が箸を伸ばしてくる。「お断り」と左手で手の甲をはたいてやった。目を見開いているのが、愉快だ。「何だよ、叩かれたくらいでなよなよ泣き崩れるタマじゃねえだろ?」

2011-06-03 23:52:15
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「……避けられなかった。ふがいない」口惜しそうな彼女。甘く見られたものだ。「はっ」わたしは彼女の狙っていたカツを口に放り込み、無造作にかみ砕く。「――調子に乗ってんなよ、ばーか。あいつと違って、わたしはお情けなんぞ見せねえし、簡単に自分のもの掏らせるほどチョロくねえ」

2011-06-03 23:53:51
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「単にけちくさいだけだろう」「そだよ、正当な対価がありゃあ交換しないでもないぜ」「何が望みだ?」「次の模擬戦の白星一つでどうだ?」「ふざけるな」切れるのは分かりきってたので、拳の一撃は簡単に躱せた。生真面目で冗談が通じないから、からかい甲斐はある。

2011-06-03 23:55:10
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「あいつなら、素直に交換してくれたろうな」未練がましいつぶやきに、わたしは歯を見せて笑う。「んで、もらった分の倍ぐらい持ってくんだろ、あの食い意地だからな」「その食い意地のおかげで、お前も生き残ったんじゃなかったのか?」太い眉の下の目が、にやりと笑みの弧を描く。

2011-06-03 23:56:38
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

思い出したくない話を自分から振ってしまった形だ。まったく……わたしも調子が狂っているらしい。「ちいと事実誤認があるんだよ、その話は。確かにあいつの食い気がなきゃ、わたしも死んでたかもしらんが……最悪、あいつに食われるかもしれんところだったんだぞ」

2011-06-03 23:58:13
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

雪山での遭難なら、殺人でも緊急避難が成立しかねない。”いよいよとなったら、あたしはあんたを殺すかもしれないよ。そんで、あんたの肉を食ってでも生き延びる”あいつは、吹雪に閉ざされた氷点下の洞窟で、わたしの目を真っ直ぐ見すえて、平然と言い切った。

2011-06-03 23:59:43
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

わたしのその時の返事はこうだ。”お前の血肉になるなんて死んだってお断りだし、わたしはお前の血の一滴でも体に入れたかあないんだよ。んな選択を迫られんよう、せいぜい二人で生き延びようぜ”ぶっちゃけ殺し合いにでもなるかと思ったが、あいつは凍りつきかけたすごい顔で笑ったもんだった。

2011-06-04 00:01:05
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

結局、わたしたちは生還し、あいつは”あたしの食い意地のおかげで生き延びた”と吹聴した。あの言葉がわたしの体温を上げてくれたわけだからあながち間違ってはいないのだが、皆が言うほどお気楽な笑い話ではない。

2011-06-04 00:02:38
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

とはいえ、その辺を話すと長くなるし、わたしとあいつの人品まで疑われかねない――いかに戦争を前提にした学院の生徒とはいえ、死を間近に共有したもの同士でなければ理解しかねる、そんな言葉ってのはあるものだ。

2011-06-04 00:04:02
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