『ジョーカー』をアウトサイダー文学の歴史から辿り考察しよう

ただの映画好きが呟いて見ました。 好みに合えば幸いです。
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惣流・ドルフ・ラングレン弐号機 @YZNlfuMP8Vbaaoj

結果的に売春宿に居た家出少女を救出した英雄として世間に取りざたされ、トラヴィスの承認欲求は満たされる事となる 基本トラヴィスの心理描写は劇中説明される事は無く、観ている観客はトラヴィスの行動が不可解なものと映る。 だが『無差別殺人の精神分析』と照らし合わせて見ると実に合理的だ。 pic.twitter.com/g1UxsYQh6h

2019-12-20 03:04:26
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この「承認欲求」というワードは古典アウトサイダー文学の主人公達にはあまり見られなかった近代的な感覚でもある。 だがアウトサイダー映画に於いてはしばしば散見される心理描写だ。 ジョーカーでも重要な要素になってくる。 次はそのジョーカーのもう1つの元ネタ映画を照らし合わせてみよう。

2019-12-20 03:18:28
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この『#キング・オブ・コメディ』の主人公ルパート・パプキンという男は自己顕示欲の塊の様な男だ。 トラヴィスより遥かに強い自己愛と、その傲慢なまでの自信によって自らの存在を裏打ちしようとしている。 ここまでくると自己性愛パーソナリティ障害のレベルだ。 そして極度の妄想癖まである。 pic.twitter.com/Cu8pokYy06

2019-12-20 04:04:06
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だがコメディアン志望のパプキンは34歳まで何も出来なかったという人生に於いての焦りも同時に抱えている。 才能のある自分は楽な近道で夢を叶えられると信じているが、そんな筈も無く妄想願望を拗らせていき現実との境界線が曖昧となっていく。 そうしていく内に社会の倫理規程を越えて凶行に走る。 pic.twitter.com/X889JGLatG

2019-12-20 04:38:22
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敬愛する人気コメディアンを誘拐監禁するという手段で、番組に無理矢理出演する事に成功したパプキンはソコでようやく自らの才能を世間に披露する事となる。 親による虐待とイジメられた学生時代をネタにした自虐ジョークは世間感覚との「ズレ」を強調していて、何とも痛ましく哀しい描写でもある。 pic.twitter.com/pzoM8VZXSA

2019-12-20 04:57:29
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締めの最後にパプキンは言う。 「ドン底で終わるよりはせめて一夜限りの王でありたい」と。 この刹那的な観念はトラヴィスや無差別殺人犯達との行動原理にも当て嵌める。 パプキンは犯行に暴力行為は用いなかったが場当たり的に社会に爪痕を残そうとする行為と心理は現実の犯罪者達とも符号するのだ。 pic.twitter.com/VybYGDsAmP

2019-12-20 05:14:17
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キング・オブ・コメディにはとても重要なシーンが終盤に用意されている。 それはヒロインである初恋の想い人にパプキンが自らの成果であるTV番組を見せつける場面。 この堂々たるドヤ顔は「承認欲求」が満たされた其の瞬間を見事に捉えている パプキンの心理の根源は異性からの肯定という部分にある。 pic.twitter.com/THTEHQEQBV

2019-12-20 21:41:04
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好きな異性から肯定されたなら誰だって人生は楽しいものとなる筈だ。 だがアウトサイダーは基本孤独が付き物だ。 求めても得られないというジレンマが常につきまとう。 トラヴィスもまた想い人であるヒロインからの承認を必要としていた。 この異性への求愛というのはジョーカーでも重要な要素だ。

2019-12-20 21:42:12
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ヒロインからの愛を渇望するが故に犯罪に走る男を描いた映画に『コレクター』(1965)というのがある。 くじで大金を手にし大きな屋敷を購入した主人公フレディは一目惚れしたヒロイン、ミランダを誘拐し監禁生活の中で自分に好意を向けさせようとする。といった内容だ。 pic.twitter.com/OBdSwnqSlY

2019-12-21 03:35:21
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フレディの内気そうな外見はトラヴィスと重なるものがある。 ヒロインは聡明で自発的なインテリという女性の好みも似ている。 しかしその内に秘めたエゴはトラヴィスやパプキン以上にドス黒い。 監禁生活を強いる中、フレディはミランダの勧めで『#ライ麦畑でつかまえて』を読む事になる。 pic.twitter.com/fbGDl5GkM0

2019-12-21 06:55:06
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感想を聞かれたフレディはとてもツマラナイ本だと言い放つ。 ライ麦畑の主人公もフレディと同じく夢見がちなアウトサイダータイプだと考えると、とても皮肉なシーンだ。 ソレを口火にピカソのキュビズムも只ヘタクソなだけで無価値だと、溜まりに貯まったフラストレーションと怒りをブチ撒ける。 pic.twitter.com/Gbvw2wPeWM

2019-12-21 07:31:52
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この映画の最大のハイライトは主に此にある 他者の価値観を批判し自らの内にある「ズレ」を正当化しようともする。 これは米国等で社会問題化されてるコミュニティ「インセル」と殆ど同じ思考だ。 彼等は女性に関心をもたれないのは自分では無く相手側の非にあると唱える。価値観の迎合等は考えない。

2019-12-21 07:41:04
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米国や日本でも無差別殺人犯の心理傾向の多くはこのインセル思考に近い 結局フレディはミランダからの好意を獲られる事は無く篭の中の鳥ならぬ、自身の昆虫採集趣味と同じく標本の蝶の如く好きな物を捕らえて置きたいという欲望を先行する その「閉じた世界」ぶりはアウトサイダー映画の中でも色濃い。 pic.twitter.com/CXGghqsGTt

2019-12-21 07:59:55
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他にも優れたアウトサイダー映画に『#アメリカン・サイコ』があるが長くなるので省略する。 生活ぷりと振舞いは俗物ながらも本質的にはアウトサイダーである、主人公パトリック・ベイトマンのキャラクターと其の世界観は異色かつ秀逸なので是非とも観てほしい映画だ。 pic.twitter.com/WcPHFjwE73

2019-12-21 08:24:39
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ようやく本題である『#ジョーカー』の話へと移ろう。 ここまで数あるアウトサイダー達を例に出してきたのは、ジョーカー=アーサー・フレックというキャラクターが其の総体的な特徴を備えているからだ。 それでは今ままでのアウトサイダー達との細かな共通点を洗い出していこう。 pic.twitter.com/Vc76MMZCjF

2019-12-21 21:45:49
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まずアーサーは物語開始時点ではアウトサイダーでは無くまだインサイダー寄りの人間だ。 自分なりに社会に順応しようと努力もしている。 だが階段を辛そうに登るという場面は本来の自分を押し止める事も意味している。 pic.twitter.com/B06xT6fqVa

2019-12-22 05:09:31
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そういった点ではトラヴィスとは違う人間だ。 トラヴィスは最初から独自の視点で世の中を俯瞰して見る達観したアウトサイダーだった。 そしてトラヴィスは不眠症に偏頭痛、アーサーはトゥレット症候群の様な発作的笑いという、常に持病に苛まれるという部分では共通している。 pic.twitter.com/K8Gl7kIhu4

2019-12-22 05:20:18
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社会生活に於いて精神を磨り減らしていくタイプという点でも一致している。 孤独な独り身男であるアーサーは支えとなる異性も欲する。 だからパプキンの様に妄想で一度会話しただけの近所の住人を恋人として脳内生成する。 パプキンやフレディの様な女性に対してのロマンチストさも此では垣間見えた。 pic.twitter.com/oqalcxFP5S

2019-12-22 05:46:24
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そしてその理想が現実感覚と解離していく「ズレ」には現代社会での「インセル」としての特徴が強く出ている。 主に映画『#ジョーカー』には3つのカタルシスを感じさせる名場面がある。終盤に差し掛かる所で踊りながら階段を降りるシーンがまず1つ。

2019-12-22 05:55:31
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此からアーサーはアウトサイダー=ジョーカーとしての最初のステップを陽気に踏み出して行く。 本来の自分をより自覚する為の通過儀礼だ。 pic.twitter.com/1EAQBtOu7F

2019-12-22 06:27:10
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2つ目は敬愛するトーク番組司会者マレーとの対話の流れだ。 個人的には此こそが最大のハイライトだと感じた。 この最初の時点ではアーサーは自身のネタを披露した直後に、銃で頭を撃ち抜き番組生放送中に自殺しようと計画していた。 トラヴィスの鬱積、パプキンの刹那的な感情と同じ類いの物だ。

2019-12-22 06:54:09
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しかしネタの最中、マレーに何度も弄られたアーサーは顕示欲の方向性を切り替える。 そこで自らが犯した殺人事件の犯人は自分だと得意気に語る訳だが、ソレを聞いたマレーも態度を真面目に切り替え反証を試みる。 相手が殺人犯と知っても恐れず向き合う姿勢は勇敢とも思える行為だ。 pic.twitter.com/UKlbNwl1nR

2019-12-22 07:08:30
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そしてマレーはアーサーに「殺人が容認される道理など無い!お前は間違っている!」と言った類いの「正論」を言い放つ。 マレーの言葉は実に正しい。 だがそれがアーサーの忍耐を破るトリガーになった。 アーサーは矢継ぎ早に貯まった鬱積と不満や怒りをブチ撒けてマレーを射殺してしまう。

2019-12-22 07:21:54
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この自分自身が社会から容認されない不満の叫びは『異邦人』でのムルソーの主張を思い起こさせるモノがある。 ホアキン・フェニックスの名演技により、溜めに貯めて来た感情を発露させた屈指の名シーンだ。 pic.twitter.com/US2otF3WN4

2019-12-22 07:26:59
惣流・ドルフ・ラングレン弐号機 @YZNlfuMP8Vbaaoj

此で何故アーサーは敬愛するマレーを殺すに至ったかの心理を掘り下げたい。 『無差別殺人の精神分析』によると自殺願望のある人間には無意識的に他者を巻き込みたいという心理も抱えていると書いていた。 アーサーはその傾向と自己顕示欲を抱えた状態で番組に現れたと仮定しよう。 pic.twitter.com/j1ptauZVQz

2019-12-22 08:21:22
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