省庁再編により通信・放送行政が総務省の内局に位置づけられるまでの顛末

官僚として20年以上前に省庁再編を担当した中村伊知哉 @ichiyanakamura 氏による当時の省庁再編の振り返り。
16
中村伊知哉 @ichiyanakamura

省庁再編から20年。 ぼくは郵政省を総務省に合流させる担当を最後に霞が関を去り、 以来、再再編を唱えています。 「文化省をつくろう」と明示的に唱えたのは今から10年前、 民主党政権の日本版FCC構想に危機感を抱いてのことでした。 pic.twitter.com/LW3dDj1nJC

2020-01-03 09:00:00
拡大
中村伊知哉 @ichiyanakamura

10年前のブログです。 「文化省をつくろう! -1」 bit.ly/35f1g8d 「文化省をつくろう! -2」 bit.ly/36ulRa5

2020-01-03 09:02:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

IT本部+知財本部+総務省通信放送+経産省ITコンテンツ+文化庁のセット案は2018年5月に経団連が提言した「情報経済社会省」(デジタル省)と同様のものです。 省庁名が違うのでぼくは著作権を主張しませんが、 名前はぼくの案のほうがよろしい。 7文字の役所は三流です。

2020-01-03 09:04:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

その議論の前に、なぜ旧郵政省の通信・放送行政が 総務省の内局に位置づけられたのか。 20年前の顛末を知る現役もほぼいなくなりました。 もう時効でしょう。 ぼくの記憶も薄れそう。 少し記録しておきます。

2020-01-03 09:06:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

1997年、橋本龍太郎内閣。 NTT分割に決着をつけた郵政省は、次はNHK改革だと息巻いていた。 一方、内閣は省庁再編を最重要テーマに据えた。 官房総務課の筆頭補佐だったぼくは、大嵐が来ると考え、通常、 省全体業務の総括役となるべきところ、 省庁再編プロジェクト担当を志願し、就きました。

2020-01-03 09:08:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

省庁再編を論ずる行政改革会議は8月、中間報告を発しました。 22省庁を大ぐくりし12に減らす。 その際、郵政省は通信・放送行政を独立委員会にし、 郵政事業を事業庁に切り出して民営化する。 行政も事業も政府の外に放り出す。 即ち省庁再編=郵政お家お取り潰し、だったのです。

2020-01-03 09:10:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

中間報告にパニックになりつつぼくは冷静に「だよなぁ」と思いました。 NTTを敵に回しNHKも身構える。 通産省とはITで「十五年戦争」を続け、大蔵省とは郵貯で「百年戦争」だ。 潰したくもなるよなぁ。 自分を映す鏡が曇っているよなぁ。 負け戦確定。 その中でいかに善戦するか、が命題でした。

2020-01-03 09:12:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

中間報告が出た日に、通信行政の幹部二人から呼び出されました。 「お前ら(官房)の責任だ。辞表を出せ。」 だよなぁ。 もう一人のトップが言いました。 「天は自らを助くる者を助く。」 うむ。 承知しました。 パニックったりしていないで、自らを助く活動をして、その上で進退を決めます。

2020-01-03 09:14:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

省内の意見は3つに割れました。 局長級は通産省との合併「産業通信省」。通信政策を産業政策と位置づける。 課長級は運輸省「運輸通信省」。 通信をインフラと位置づける。逓信省の復活案。 課長補佐以下の若手は新設の「総務省」の中に滑り込む。 通信は横割りの独自政策ジャンルという見方。

2020-01-03 09:16:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

ただ、さきほどの通信行政二人(その後役所トップまで上られる)は、 総務省の内局に潜り込むしか打開策はないという意見でした。 ぼくもそれがいいと考えました。 彼らは「総務省潜り込み策はオレたちが勝手に動く。 お前ら官房は運輸の旗でも振っとけ。」とのご沙汰。

2020-01-03 09:18:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

ともかく官房は役所としての立場を機関決定し、 組織として動く必要があります。 まず局長級の命を受け通産省に打診。 ただ通産省の官房にストレートに持ち込むのもは先方も迷惑につき、 当時、工技院(現産総研)の総務部長に出ていた故・澤昭裕さんを 密使と頼み相談しました。

2020-01-03 09:20:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

澤さんの回答は明快。 「通信放送行政だけなら引き受けるけど、 郵政事業も来るなら通産省は拒否する。 巨大な宗教法人を抱えるみたいなもんだから。」 その言葉をそのまんま省議に持ち帰り、通産省との合併案はなくなりました。 宗教法人という言葉に、郵政省幹部も納得した風情でした。

2020-01-03 09:22:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

続いて運輸省との合併が模索されました。協議を重ねました。 建設省との合併を行革会議から指示されていた運輸省にも 考えるところがあった模様。 政治的にも筋がよいと見られ、自民党の将校クラスが署名運動を起こしました。 その指示でぼくが議員の署名を集めました。 300人ばかり集まりました。

2020-01-03 09:25:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

そんな運動をすれば橋本政権の中枢は怒ります。 反逆ですもん。 ぼくら郵政内ゲリラとしては、その怒りが高まれば、 お家お取り潰しではない別の答えが出るのでは、 というかすかな期待がありました。 展望がありはしませんでしたが、走りました。

2020-01-03 09:26:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

そして12月、政治決着を迎えます。 橋本首相と郵政族のドンだった野中広務議員の協議の結果、 郵政省は総務省の内局2つ、ということになりました。 通信行政幹部が裏で動いた成果でもあります。

2020-01-03 09:28:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

ぼくらは総務省に1室だけでももらって、捲土重来を期す、 ぐらいが落としどころかと考えていました。 ぼくの入省前は通信行政は1室でした。局でも課でもない。 入省時は2局。その年に通信・放送・政策の3局となりました。 1室あれば、また育てられる。

2020-01-03 09:30:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

だけど決着は、それまでの3局が2局に減るだけで済み、 しかも郵政省という霞が関の辺境から総務省という ど真ん中に来ることができる。 政府の外に出される案と比べれば、大変な勝ち戦に転じました。

2020-01-03 09:32:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

これは単なる政治の綱引きではなく、政策論で決した点が重要です。 通信放送の独立化は、政権が権限を外部に放り投げる案です。 ぼくはこれに危機感を抱いていました。 この分野に政治管理を不要として大丈夫か、 そこまで日本は政治も行政も成熟していないだろう。 野中さんも同意見でした。

2020-01-03 09:34:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

米FCCのように、あるいは公取のように、政治や政府から「独立」すれば、 官僚は自由になります。 議会根回しも業界対策も要らない。 だから部内には独立を望む声もありました。 ぼくはそれが危ないと考えたんです。 今もぼくは短絡的な独立論に反対です。

2020-01-03 09:36:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

てなことで、郵政省は、自治省・総務庁の合併組織に割り込んで決着しました。 だけどぼくは政権に抗って運動したわけで、切腹です。 そりゃそうだろう。 なので辞表を提出するのですが、ぼくの上司は(6人ぐらいいたかな) 誰も辞めないので役所は処置に困った。

2020-01-03 09:38:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

仕方なくぼくは課長補佐の分際で 郵政大臣に辞任の許しを請うこととなりました。 自見庄三郎郵政大臣は面白がってくれて、 庄三郎という芋焼酎をくださいました。 すぐ飲み干しました。 再編後、菅義偉総務大臣が通信放送2局を3局に復活させ、今日に至ります。

2020-01-03 09:40:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

総務省移行後、通信放送行政はよくやっていると思います。 ただ、そのキャパ以上にITの重要性は高まり、 データ戦略も含め重要政策のトップに躍り出て、 全行政に関わる横割りテーマとなりました。 IT政策に関する内閣官房・内閣府の出番が多くなっていることが証左です。

2020-01-03 09:42:00
中村伊知哉 @ichiyanakamura

これを踏まえて、次の行政組織をどうするか。 五輪が済んだら、テーマ設定してよろしいんじゃないでしょうか。 (省庁再編を担当してたころの、週刊アスキー ゼロ号) pic.twitter.com/1sRttdRxzy

2020-01-03 09:44:00
拡大