ウェルカム・トゥ・ネオサイタマ #4
ナンシーは不意にめまいを覚えた。天守閣の淵から後ずさりする金髪の女、動き易いよう脚元を短く裂いた黒オイラン衣装を着た……自分だ。その隣にはニンジャスレイヤー。ズバリで気力を保っているとはいえ、明らかに立っているのがやっとだ。それを上から見下ろす視界。(これは?)ナンシーは訝った。
2011-06-06 16:01:42ナンシーの意識は重力から、肉の重みから宙へ放たれ、激しい戦いで損傷した黄金瓦の天守閣を見下ろす。この幽体離脱めいた特殊な状態には経験がある。この特殊な状態……。
2011-06-06 16:07:57俯瞰の視点はさらに広がり、天守閣の下方、空中庭園を捉える。この体験の意味を考察する時間などないことがすぐに判明する。天守閣に機動隊が侵入し、陣を展開している。見ているうちに次々に点灯するマッポの漢字サーチライト!
2011-06-06 16:12:34ナンシーのニューロン信号が加速する。マッポの動きが予想外に早い。ここまで上がってくるのは時間の問題!マッポのニンジャ殺害命令をナンシーは傍受している。身柄を確保されれば、少なくともニンジャスレイヤーの命は……!どうする?突破?隠れる?立てこもるか?飛び降りる?ラオモトのように?
2011-06-06 16:35:31そして……おお、なんたる絶望的状況!「御用」とペイントされたマッポ仕様マグロツェッペリンが今まさに天守閣へ接近、上から制圧せんとす!ナムアミダブツ!背後に照りつける黄金の輝きに振り返ると、ナンシーの視界は現実のそれに戻っていた。
2011-06-06 16:50:52「……マッポが庭園を制圧した」ナンシーは苦々しく言った。「そうか」曇天をスクリーンめいて「御用」のサーチライトが映し出される。「あれを」ナンシーは上空を指差す。マグロツェッペリンを。「そうか」「正直、アイデアがうかばないわ」「私がどうにかする」ニンジャスレイヤーは淡々と言った。
2011-06-06 16:53:42「どうにか……」ナンシーはニンジャスレイヤーを見た。彼はナンシーを見返すが、その後ろを見ているようでもある。「アー、そこのニンジャとオイラン!そのままそこで、腕を後ろに組んで待機するように!」マグロツェッペリンが重々しい巨体で空を覆いつつ迫る!ナムサン!万事休すか!
2011-06-06 17:09:18ニンジャスレイヤーはジュー・ジツを構え、待ち構えた。ナンシーはこの状況下でできる事は無いか考えようとした。……ォォォォォ……「何?」ナンシーは耳をそば立てる。マグロツェッペリン飛行音ではない。ォォォォォ……ォォォォォ……ォォォォォ……下からだ。
2011-06-06 17:18:00「おい!抵抗は射殺可能性!従いなさい!」マグロツェッペリン乗降口が開き、武装マッポが天守閣を見下ろす。「今夜はニンジャを見つけ次第殺していいそうよ」ナンシーは厳かに言った。ニンジャスレイヤーは頷く。「大丈夫だ…もう少し降りて来れば……ロープのカギで……」熱病のうわごとめいて呟く。
2011-06-06 17:23:51オオオオオオオ……オオオオオオオ……オオオオオオオ!下からの音は爆音となり、ますます接近しつつある。ナンシーはニンジャスレイヤーと顔を見合わせた。ゴオオオオオオオ!その時だ!海中から跳ね上がるエイめいて、その影が、圧倒的速度で垂直に飛行しながら現れたのは!
2011-06-06 17:32:00ゴウランガ!二人が見たのはクロームシルバーの車体の腹……そう、車体である!それは車でありながらセスナめいた翼を張り出し、二門のロケットエンジンから炎を噴き出しながら、このトコロザワピラー外壁に沿うように、垂直に上昇してきたのだ!おお!なんたる馬鹿げた光景!ブッダも照覧あれ!
2011-06-06 17:41:12シルバークローム車両はさらに数十フィート上空まで上昇したのち、器用にロケット角度を変更しながらフォイル型パラシュートを展開!困惑気味に照らされるマグロツェッペリンの漢字サーチライトをまるでショーアップのライトのように悠々と受けながら降下する!
2011-06-06 17:46:13セスナめいた翼を格納しながら降下する車両のフォイル型パラシュートには、ミンチョ体のフォントでこう書かれていた……「家族が大事」。
2011-06-06 17:47:56エレガントに降下した車両は厳かなシュラインを背負い、ベースとなった車両は伝説のクラシック・スポーツカー「ネズミハヤイDIII」、そのドアの防弾ガラスが開き、中の逆モヒカンの男が顔を出す。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ご入用は、座席かい……カンオケの方かい……」
2011-06-06 17:55:36二人は黄金瓦屋根の上で震えながらアイドリングする武装霊柩車ネズミハヤイへ小走りに近づいてゆく。「お知り合いかしら」ナンシーはニンジャスレイヤーに問う。「そんなところだ」「女連れとは」逆モヒカンの男は手のひらを上に向けて見せた。「ドーモ。デッドムーンと呼んでくれ」「ナンシーよ」
2011-06-06 18:21:30「そこの……エート、そこの……車?車!」拡声器の声が咎める。「そこで待機していなさい!」マグロツェッペリンからロープがスルスルと伸び、それを伝って完全武装のケンドー機動隊が降下する。「話は後だ」デッドムーンは静かに言った。「支払いも後でいい、ちょっと忙しいぜ」
2011-06-06 18:27:12助手席ドアが開く。「見ての通り二人乗りだ。シート一つだが頑張りなよ」ナンシーとニンジャスレイヤーは顔を見合わせる。「やはり冗談は向いてない」デッドムーンは言い、「お座敷」と書かれたボタンに触れる。「オバンドス」と合成マイコ音声。座席の後ろの仕切りが開き、後部の座敷とつながった。
2011-06-06 18:34:52「私が助手席に座るわ。あなたは奥で休んで」ナンシーがニンジャスレイヤーに言った。「実際限界でしょ」「いや、……そうだな、すまぬ」断りかけたが、頷いた。デッドムーンは二人が乗り込むのを待ち、オートでドアを閉じる。ダッシュボードの液晶モニタが光り「迎春」の漢字が浮かび上がった。
2011-06-06 19:04:37ギャルギャルギャル!ネズミハヤイの後輪タイヤが高速回転し、黄金瓦を弾き飛ばす。そして飛び出した!躊躇なく天守閣から真っ逆さまだ!「シートベルトしたほうがいいぜ……」「そりゃ、しているわ」「そりゃチョージョー……後ろのあんたはニンジャだから、まあ何とか踏ん張ってくれ」「了解した」
2011-06-06 19:16:45ネズミハヤイは自由落下めいた浮遊感覚を乗り手に与えつつ、真っ直ぐに大地めがけ下降する。ギュウイーン……ブッダギャラクシー……ロストインスペース……。ダークエレクトロポップがウーハーの効いたスピーカーから流れ出す。
2011-06-06 19:23:17ナムサン!あっという間に目の前が地面!しかしデッドムーンはアクビでもこらえるかのように平然と「緩衝」と書かれたボタンを押す。すると再度パラシュートが展開、車体下部のロケット噴射でネズミハヤイは水平に着地する。着地ショックは偏執的調整を施されたスタビライザーによりほとんどゼロ!
2011-06-06 19:28:13「で、勿論おいでなする……」デッドムーンは呟く。すぐさま、トコロザワピラーを包囲するマッポが見咎め、数台のビークルが走って来る。「……が、こうだ」デッドムーンはアクビでもこらえるかのように「散布」のボタンを押す。車体下部からノズルが迫り出し、白煙を周囲に撒き散らす!
2011-06-06 19:47:46「アイエエエ!」一番乗りでネズミハヤイに体当たりを試みたビークルは煙にまかれてスピンし立ち木に激突!デッドムーンは淡々とアクセルを踏み込む。走り出すネズミハヤイ。ギュウイーン……ブッダギャラクシー……シヴィライゼーション……
2011-06-06 19:52:42武装霊柩車はトコロザワピラー敷地を劇的ハンドル操作によって抜け出し、広路へドリフトしながら進入した。それを追うマッポビークル。「御用!御用!」と合成音声をけたたましく鳴らしながら続々と車列を為す!
2011-06-06 19:56:40