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2011年6月7日

ライトノベル作家・扇智史のつぶやき連作短編「ミッドウィンター・ログ」:エピソード4

エピソード1 http://togetter.com/li/137286 エピソード2 http://togetter.com/li/140360 エピソード3 http://togetter.com/li/143543 エピソード4 http://togetter.com/li/145581 エピソード5 http://togetter.com/li/146838
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バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

**つぶやき連作短編「ミッドウィンターログ」:エピソード4**

2011-06-07 21:34:16
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「こ、こう?」「ううん、もっと、こっち寄って……ほら」「わ、触った!」糸伊さんの伸ばした指が、びくん、と驚きで震えた。目に見えないそれを指で弄ぶようにしながら、糸伊さんは全身をぶるっとさせ、うっすら微笑む。

2011-06-07 21:34:45
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

あたしはケータイの画面を彼女の前に差し出し、「ほら、いる」自分に見えている風景を、糸伊さんにお裾分け。画面には、空中に白く浮かぶ糸伊さんの指と、その上でころころとはずむサイコロ型のホロメッセンジャー。文字情報までは読み取れなくて、ただ痕跡があるだけだけど。

2011-06-07 21:36:09
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「まだこういうの、残ってるんだね」「場所による。こういう、雪の降りにくいとこなら」見上げると、ホロ雪は空中、透明な庇でもあるように積もっている。隣のビルと比較すると、だいたい三階辺りだ。そしてその下には、業種の分からない企業の社名がばーんとホロ表示されている。

2011-06-07 21:37:23
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

あたしたちがいるのは、駅から学校に向かう路をちょっと外れたオフィス街。といってもうらぶれた雑居ビルが建ち並ぶばかり。ただでさえテナントの入れ替わりが激しく、今ではビルそのものがなくなって土地の引き取り手もないような空き地も多い。

2011-06-07 21:38:53
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

そういう所だと権利関係の手続きとかがちゃんとしていないので、空き地なのに空中にドメインが残っていて、その下まで雪が届かない、ということがある。基本的に、ホロ雪は私有地や公有地には降ることが出来ないのだ。結果、こういう古びた破損ホロが温存されていたりする。

2011-06-07 21:40:17
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

糸伊さんは、ケータイの映像と自分の手を見比べ、面白がってホロメを転がす。「くすぐったいなあ、なんか、ハムスターとじゃれてるみたい」「そんな触り心地なんだ」「別に毛なんか生えてないのに、哺乳類っぽいんだよ、何でだろ?」糸伊さんの笑う吐息が、あたしのほおをかすかに撫でる。

2011-06-07 21:41:16
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

ケータイの画面を見せている関係上、自然と、あたしと糸伊さんの顔の距離は近い。すぐそばで糸伊さんの整った顔がほころぶのを見るのは、何とも落ち着かない。彼女はあたしを横目で見て、「やっぱ楽しいね。こういうの、小織さんがいないとわかんなかったし」

2011-06-07 21:42:46
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「そう?」「先生とかの作ってくれる地図って大雑把だから、やっぱ隠れ場所っぽいとこは描いてないし。小織さんがホロを見てくれるから、忍び込んだり出来るわけよ」「人聞きの悪い」空き地に入るのは合法だよ、たぶん。

2011-06-07 21:44:03
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

でも、確かに悪いことしてるような気分で、何だか落ち着かない。通学路から離れているから、道を歩くのはスーツの大人とご老人ばかり。こんな朝っぱらに空き地でじゃれているあたしたちの制服は、明らかに浮いている。

2011-06-07 21:45:32
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

と、二人で見ていたケータイの画面が切り替わる。『早くしないと遅刻するよ』素っ気ない、らっこからの催促だった。「あ、もうこんな時間。急がなきゃ」ちょっと急いでいかないと、ホームルームに間に合わない。しかし糸伊さんは、慌てる素振りもなくホロメを空中に放し、

2011-06-07 21:46:46
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「ごめんねー、長いことつき合わせちゃって」「いや、全然」自分で糸伊さんといっしょにいるのを選んでるんだから。ただ、「じゃ、行こ」そう言って糸伊さんを手招きするのは、何だか足元が浮ついたような、むしろ薄い膜が一枚、足の裏にあるような不思議な気分だ。

2011-06-07 21:48:01
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

空き地を出、横断歩道を横切って学校に向かう。あたしについてくる糸伊さんは名残惜しそうに空き地を見やり、「あのホロメ、どうなるのかなあ。壊れちゃう? 残る? それとも移動したり?」「さあ。案外あっさり消えたりするよ」あたしも正直、実際に見るまで自信がなかったくらいだ。

2011-06-07 21:49:13
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「上の屋根がなくなれば、ホロ雪に消される。サーバーのメンテで消えることもある。それに、テツクズもあるし」「テツクズ、かあ」つぶやいて、糸伊さんが空を見上げて立ち止まった。あたしは数歩先で振り返り、「ぼんやりしてると遅れ――っとと」

2011-06-07 21:50:24
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

バランスを崩して転びそうになり、電柱にもたれかかる。「あはは、大丈夫?」糸伊さんはのんきに笑い、あたしも「平気」と笑い返す。糸伊さんといっしょにいると、あたしはよけいどじになる。

2011-06-07 21:51:47
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

あの、保健室に駆けつけた時からだと思う。歩幅が広がって、早足になって、目をあちこちに向けるようになった。糸伊さんが見つけたがっているものを、先に探し当てようとするみたいに。

2011-06-07 21:53:15
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「だらしないなあ、そんな簡単に転んでちゃ、わたしの案内役は務まらないよ?」いつの間にか至近距離にいた糸伊さんが、立ち上がりかけたあたしの背中を押す。「そんな、急かさないで」そして彼女の勢いが、あたしの歩幅をよけいに崩すのだ。

2011-06-07 21:54:25
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

で、結局転んで、おでこに擦り傷を作った。絆創膏を貼ってホームルームに駆け込んできたあたしを、らっこは半眼で迎えた。

2011-06-07 21:55:37
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

すぐ後の休み時間、「メール送らなかったら完全に遅刻じゃない」「だよね。ありがとね、らっこ」「手間かけさせないでよね、私は小織の保護者じゃないんだから」「何言ってんだか……」ヒメちゃんが横から突っ込みをいれる。「完全に保護者じゃない、らっこちゃん」

2011-06-07 21:56:06
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「ほっとけないからよ。別に、嫌がってる小織を無理にどうこうしようなんて、モンペ気取りじゃないわ」「モ……?」「モンスターペアレント。過保護で他人に迷惑かける親のこと、昔はそういうのがいたんだってさ」

2011-06-07 21:57:33
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「ふうん。まあモンスターでも何でも、守ってくれるならいいよ」そう言って、らっこの肩を叩く。らっこはため息をつき、「あんたはほんとお気楽ね。もうほっとこうかしら。糸伊さんといっしょに、ふらふらして遅刻してればいいじゃない」「それは困る!」抗議するあたしに、べ、と舌を出すらっこ。

2011-06-07 21:58:39
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

そんなあたしたちの口論を横目に、「夫婦げんかは犬も食わないわねえ。ねーコメタ」ヒメちゃんは机に置いたサーモカップに話しかける。傍から見ると変人だが、そのカップにフェッチが宿っていることは、あたしも知ってる。「ていうか誰が夫婦よ」

2011-06-07 21:59:51
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

ぽっ、とカップのディスプレイからホロが浮き上がり、『そろそろ冷めます』だそうだ。カップの中は空っぽのはず……何かそれとは別に伝えたいことがあるんだろう。ヒメちゃんには通じたようで、ころころと笑ってうなずいている。

2011-06-07 22:01:06
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「何にせよ、」らっこがぶつぶつ口にする。「ただでさえ調子っぱずれな小織が、いっそうおかしくなってきてんだから、放ってはおけないわよ」「――あいた!」いきなりおでこの絆創膏をつつかれて、あたしは悲鳴を上げる。「何すんのよ!」

2011-06-07 22:02:30
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「生傷、増えたんじゃない?」「――そうかな」「そうよ。今朝はおでこで、昨日はひざ。その前も突き指しかけたって言ってた。全部、糸伊さんといる時じゃない」「……そうだっけ」「そうよ」しつこくうなずかれると、そんな気がしてくる……実際らっこの言う通りだったかもしれない。

2011-06-07 22:03:41
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