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映画『アイリッシュマン』狂猫病による感想&解説 ペギーと「魚」(ネタバレ有り)

マーティン・スコセッシ監督作品『アイリッシュマン』についてのレビューです。 作品のポイント、構成などについて解説しています。 例の謎会話「魚」についても解明!?  ※大いにネタバレを含みますので未見の方は注意
アイリッシュマン 映画 アンナ・パキン マフィア マーティン・スコセッシ アル・パチーノ 映画レビュー ロバート・デニーロ
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・感想
狂猫病 @kyobyobyo2
Netflixにて『アイリッシュマン』 非常に力強く、面白いと薦められる映画 主人公フランク・シーランのキャラクターが秀逸 演じるデ・ニーロも会心の演技だった
狂猫病 @kyobyobyo2
ジミー・ホッファが出てくるまで実録ものと知らずに観ていたのでちょっと面食らった ある一つのコミュニティを通じてアメリカ現代史を振り返るというのは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」に通じるものを感じた 両作ともセルジオ・レオーネ作品の「息子」のような系譜に思える
狂猫病 @kyobyobyo2
印象的なのはアンナ・パキン演じるフランクの娘からの、冷たく突き刺すような視線 「ゴッドファーザー」をはじめとするマフィアものの伝統でもある家族間の葛藤は、この作品ではこの父娘間に凝縮されている 静かな、緊張感のある演出
狂猫病 @kyobyobyo2
スコセッシと出演者たちによる座談動画も観た そこで監督が語っているのは「とにかくキャラクターを描こうとした」ということ 実在した人物と史実を題材にしつつ単なる歴史ものに堕していないのは、ひとえに主人公フランク・シーランの葛藤を丁寧に描いているからだ
狂猫病 @kyobyobyo2
ジミー・ホッファを裏切るフランクの葛藤の描き方はとても精密で、クール ホッファを肉親以上に慕っていた娘に「なぜ?」と問われてフランクはまともな答えを返せない 数十年後、無関係な神父への告解中にフランクは唐突に呟く「そんな電話を掛けられるわけがないだろう」
狂猫病 @kyobyobyo2
フランクは生涯を通じて娘から赦されることがない マイケル・コルレオーネやウォルター・ホワイトと同じく、暴力を問題解決の手段に使い、暴力の世界に生き続けた男達が辿る必然的な運命だ 彼らが守ろうとした存在自体から軽蔑され遮断されるという、あまりにも残酷な罰を観客は目撃する
狂猫病 @kyobyobyo2
3時間を超える物語を通じて、フランクという男が自分にできるかぎりの力を尽くして誠実に何かを守ろうとしていたことを観客は知っている あまりにも辛辣で救いのない物語のはずが不思議に清涼なものに感じられるのは何故なのだろう 軽妙な演出の力か、俳優陣の演技の魔術か
狂猫病 @kyobyobyo2
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でも感じたが、スコセッシは年齢を重ねるごとにどんどん作品が若返っている まるでボブ・ディランの『My back pages』の歌詞のようだ 「I was so much older then,I'm younger than that now(私はとても年老いていた。そして今、私はあの頃よりずっと若い)」
・ペギー
狂猫病 @kyobyobyo2
昨日に引き続き「アイリッシュマン」の感想 主人公フランク・シーランの娘、ペギーについてずっと考えていた さりげなく、非常に奥深く造形されたキャラクター
狂猫病 @kyobyobyo2
『アイリッシュマン』という作品が「守ろうとした存在自体から拒絶される」物語であるということは前述した ペギーは父であるフランクからの庇護を受けつつ、その暴力的な手段と人生そのものを拒絶する 暴力がすべての世界で生き抜いてきた主人公にとっては、完全に対立項となるキャラクターだ
狂猫病 @kyobyobyo2
声を荒らげたり涙を流して取り乱すといった、多くの作品で対立項が主人公に対してしているような行為をペギーがすることはない ペギーはただ主人公を見つめ、最終的にはその視線を向ける行為すらも拒否するのみだ
狂猫病 @kyobyobyo2
主人公を見る眼の表情は、けっして種類は多くないものの変化は大きい 基本的には冷たく、観察者のような視線だ これは幼少期からの特徴であり、観客の印象に強く残る 強く変化するのは作中で2回 最初は、フランクによる食料品店の店主への暴行を目撃した際の驚愕の表情だ
狂猫病 @kyobyobyo2
そして2回めの変化は、ジミー・ホッファ失踪に父親が関与していると察知した際の、信じ難い異物を見るかのような強い侮蔑の視線だ 理由の如何を問わず、父親による暴力の行使を、娘であるペギーは徹底的に拒絶する
狂猫病 @kyobyobyo2
しかしペギーが暴力の行使を理由にして父フランクやその盟友であるラッセルたちを拒絶しているのであれば、なぜホッファは拒絶の対象にならないだろうか ホッファは権力維持のために、フランクやラッセルに暴力を行使させている張本人でもある
狂猫病 @kyobyobyo2
ペギーはホッファの愛すべき人間性を見抜いているからか? 可能性としてはある しかし人間性を言うならば、他ならぬフランクこそが作中のどの人物よりも誠実であることを、3時間超の物語を通じて見つめてきた観客たちが一番わかっているはずだ ペギーは矛盾しているように見える
狂猫病 @kyobyobyo2
この矛盾こそが「アイリッシュマン」という作品を奥深くさせている理由のひとつだ ペギーは、行動原理が作品世界の現実の有り様と矛盾し、それを悟ることのできない、一面としての愚かしさをも持ち合わせたキャラクターとして描かれている また本作の多くの登場人物も、そうした愚かしさを持っている
狂猫病 @kyobyobyo2
ペギーのような役割を持ったキャラクターは、ある意味で「悟った」キャラクターとして描かれがちだ 正義と悪を確実に見分け、道を見失った主人公に感情をぶつけ諭す──そうした安易さに陥らなかったのは、ひとえに監督スコセッシのキャラクター造形と演出における妥協の無さによるものだ
狂猫病 @kyobyobyo2
ペギー役のアンナ・パキンとルーシー・ガリーナが素晴らしい演技をしていたことは言うまでもない 台詞の極端に少ない難しいキャラクターを見事に表現していた
狂猫病 @kyobyobyo2
連日「アイリッシュマン」のことばかりを考えている 少し解釈の難しいシーンについてちょっと思いついたことがあるので、今夜あたりにも少し書こうかな なんでこいつこんなしつこいんだって感じですが😅
・「魚」
狂猫病 @kyobyobyo2
『アイリッシュマン』作中での大きな謎シーンが「車中の魚」についての会話だ 一見して意味不明なこの会話は本作最大のクライマックスの最中に展開されていることもあって、観客に強烈な印象を残す ひとつの解釈の可能性を見つけたので書いてみるが、作品のテーマに大きく関わるので長くなると思う
狂猫病 @kyobyobyo2
会話はジミー・ホッファ殺害の下準備中、運転手役のジミーの養子チャッキーとトニー・プロの手下サリー・バグズの間で交わされる やり取りそのものは長いが、要約すれば内容は単純だ 「どうして名前も知らない魚を買えたんだ、チャッキー」 「だって……魚が俺を待ってたから」
狂猫病 @kyobyobyo2
「どこで買ったんだ?」 「いや知らんけど……魚のとこ(fish place)だよ」 pic.twitter.com/9IZw6JezUK
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コメント

狂猫病 @kyobyobyo2 2020年1月28日
映画『アイリッシュマン』についての感想&解説を読みやすいようにTogetterでまとめてみました。 段落ごとの冒頭は、拡大された色文字にしています。
狂猫病 @kyobyobyo2 2020年1月28日
文中に若干の脱字があります。 大意は通じると思われますのでそのままにしてありますが、わかりにくい箇所があればお知らせください。