映画『アイリッシュマン』狂猫病による感想&解説その3 隠された重要人物(ネタバレ有り)
- kyobyobyo2
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彼らの対決は、暗殺現場となった「Umberto's Clam House」以前に一度だけだ パーティの席上、ラッセルとバッジの件で険悪になったジョーイの前に、フランクが笑顔で立った もちろんラッセルへの加勢ではなく、同じイタリア系マフィア同士の無用の争いを避ける、仲裁目的だ
2020-01-30 00:41:41ただのジョークじゃないか、とジョーイは不満顔だが、フランクはいつものように下手に出ている 「俺だってボスだろ?」とジョーイに問われれば「そのとおり、あんたはボスだ、みんなボスだ」とフランクは頷く ジョーイは続けて「俺たちは兄弟だな?」と問う
2020-01-30 00:48:05フランクは答える「ああ、あんたたちは兄弟だ」 ジョーイは訝しげな表情で「俺たちは兄弟だろ?」と問う 「あんたたちは兄弟だ」 「『俺たち』は兄弟だろ」 「あんたと揉めるつもりはない」 コインの裏表のような、ジョーイとフランクの対決だ ジョーイの怒りの矛先が、なぜかフランクに向いている
2020-01-30 00:53:04テンポの早い会話なので字幕が追いついていないが、「We're brothers?」「You're brothers」と二人は譲らずに言い合っている 言葉通り、フランクに悪意は無い この場でイタリア系でない大物マフィアは、「アイリッシュマン」であるフランクぐらいなのだから
2020-01-30 00:57:37ジョーイという男、その凶暴さに似合わず意外と知性があり、刑務所で読書を趣味として身につけている そして当時の事情からするとかなり珍しく、人種差別意識の薄い人間でもあったようだ(だから黒人グループとも手を組むことに躊躇がない) 「We're brothers?」という問いは、ジョーイなりの譲歩だ
2020-01-30 01:02:02フランクがシンプルに「Yes」と言えばそれで収まる場が、逆に拗れた これはフランクとジョーイの身内認識のズレが招いた事態だ フランクはイタリア系マフィア集団を身内として捉えているものの、そこに「兄弟」という意識は無い フランクは自分のことを「客分」として認識している
2020-01-30 01:04:53「ここにいるみんなが兄弟だ、俺以外はな」 それがフランクの飾らない、悪意なき答えだった ジョーイがフランクを睨みつける やがて憤懣を抑えきれないように「失せろ」と言ってジョーイは背を向けた フランクは仮面のような、不気味な笑顔のままだ
2020-01-30 01:07:54ラッセルは、背後で行われていた二人の対決にはさして興味も抱かなかっただろう 自分を公然と侮辱した若造の始末を、目だけでフランクに命じるのみだ
2020-01-30 01:09:55ラッセルにしてみれば、他のファミリーの主筋を殺したことへの「懲罰」であるのだが、フランクからすればそうした事情は認識に上らない 手を汚しつつも秘かに守られてきたフランクの倫理が、この事件から崩れ始める フランクによる「ジョーイ・ギャロ殺害」は、「身内殺し」の嚆矢となったのだ
2020-01-30 01:17:58襲撃を終えたフランクは、いつものように武器を川へと投げ入れて処分する しかしその立ち位置は以前のような安定した橋の上ではなく、不安定な川べりに変わっている フランクの動揺する内心が如実に表れているようにも見える
2020-01-30 05:07:31