富田倫生さん「青空文庫創世記」

富田倫生さんが青空文庫1万冊登録を記念して、ボイジャーと出会ってから青空文庫の設立に至るまでの秘話をツィートされたものをまとめました。
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富田倫生 @aobeka

㉔ところが、インターネットはただの味方ではありませんでした。エキスパンドブックを内側から食い破れと、やがて、誘いはじめたのです。最初の声が聞こえたのは、祝田さんの仕事部屋で奇妙なブックを目撃した時でした。その本には、中味のテキストがありませんでした。 #aozorabunko

2011-06-09 11:27:13
富田倫生 @aobeka

㉕それは、祝田さんが2chをページめくりで読むために、エキスパンドブックを使ってこしらえた仕組みでした。ボイジャーの誰も知りません。インターネットに置かれたテキストを、ビュワーでみればいいという誘惑に、とうの祝田さんがいち早くのったことを。 #aozorabunko

2011-06-09 11:29:10
富田倫生 @aobeka

㉖アメリカのツールキットⅠ、日本のⅡ。スタインさんには、マルチメディア電子本の路線上に、Ⅲを自分主導で作ろうという構想がありました。萩野さんにとっても、Ⅲは一つの選択肢だったはずです。その一方で、奇妙な白い本が、祝田さんの手許で生まれていました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:30:28
富田倫生 @aobeka

㉗この白い本は、電子書籍の明日を引き寄せる手がかりとなりうるか。検討が始まりました。実例をみつけて試し、手応えがあれば世に訴えよう。インターネットには、読むべき長文がどれだけ上がっているのかリストアップしろと、萩野さんから指示がくだされます。 #aozorabunko

2011-06-09 11:31:15
富田倫生 @aobeka

㉘野口英司さんという若いパイオニアのスタッフが、萩野さんの印象に残っていました。LDの制作部門にいて直接のつながりはなかったけれど、高いおもちゃだったMacintoshをもっている、デジタル好き。創業から数年のところで、ボイジャーに引っ張りました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:34:11
富田倫生 @aobeka

㉙入ってすぐに野口さんが担当したのが、「The Complete OZU〜小津安二郎の世界」の制作でした。フリーの編集者にして歌姫、水牛通信編集人の八巻美枝さんが、すでに作業を始めていました。「パソコン創世記」も、まかされました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:34:56
富田倫生 @aobeka

㉚その野口さんから「インターネットに長文、ありませんか?」とたずねられました。まず浮かんだのは、ボランティアが入力した著作権切れファイルを上げている、プロジェクト・グーテンベルクです。こちらは英語中心ですが、日本語にも思い当たるものがありました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:35:59
富田倫生 @aobeka

㉛岡田斗司夫さんがネットに上げた自著。そして、国語学者の岡島昭浩さんのウェッブページ。研究テーマの文学作品をテキストにして、研究室のサーバーに置く人がでてきていました。岡島さんは、それらをリスト化。電子テキスト目録が、作られてたのです。 #aozorabunko

2011-06-09 11:38:44
富田倫生 @aobeka

㉜「こんなことして良いんですか?」野口さんの第一声でした。保護期間を過ぎたものの利用を促すことも、著作権制度の目的。電子図書館の時代がきっときますよ、と続けました。しばらくして野口さんから、それ、やりませんかと真面目な顔で迫られました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:40:15
富田倫生 @aobeka

㉝1997年のはじめ、「本の未来」という久しぶりの紙の本を、アスキーから出してもらいました。ライター志望、病気、エキスパンドブックとの出合いという自分史の向こうに、新しい本の形をのぞもうと試みました。野口さんに迫られる、直前でした。 #aozorabunko

2011-06-09 11:41:42
富田倫生 @aobeka

㉞最後にまとめた前書きには、電子本越しに引き寄せたい未来を、こんなふうに描きました。「たとえば私が胸に描くのは、青空の本だ。高く澄んだ空に虹色の熱気球で舞い上がった魂が、雲のチョークで大きく書き記す。…」 #aozorabunko

2011-06-09 11:42:18
富田倫生 @aobeka

㉟「…「わたしはここにいます」控えめにそうささやく声が耳に届いたら、その場でただ見上げればよい。本はいつも空にいて、誰かが読み始めるのを待っている。」紙では作りえなかったそうした読書環境が、電子なら作れると考えていたのは事実です。 #aozorabunko

2011-06-09 11:43:09
富田倫生 @aobeka

㊱けれどそれは、あくまで言葉の枠の中の話。資金や組織を手当てし、物事を動かす力や気力は、私にはありません。肝硬変は、命の足を引っ張る重荷です。症状は進んでいました。新しいおもちゃをみつけて、俄然目を輝かせ始めた野口さんに、引きずられたのが実態です。 #aozorabunko

2011-06-09 11:45:31
富田倫生 @aobeka

㊲野口さんには、怖れがありませんでした。テキストは、岡島さんに借りればいい。自分で入れればいい。知り合いに頼んでもいい。それをエキスパンドブックにしてページに置けば、はじまる。サーバーは、ボイジャーの片隅に置いちゃえばいい。お金なんてかからない。 #aozorabunko

2011-06-09 11:46:56
富田倫生 @aobeka

㊳ボイジャーに寄ってきた八巻さんとらんむろ・さてぃさんにも、声をかけました。名前を相談された時浮かんだ「青空文庫」は、そのまま通りました。彼一人が本気で、話し始めて半年も動きませんでしたが、1997年の夏に、ブックを五つならべたページができました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:48:59
富田倫生 @aobeka

㊴サイズ固定の白い本は、可変で、入力、編集のできる、T-Timeに作り替えられました。自分の書いたテキストや、メール、ウエッブの文章が、縦横双方で表示可能になりました。重装備化とは対照的な、すべてのテキストをソースととらえる旗の誕生でした。 #aozorabunko

2011-06-09 11:51:54
富田倫生 @aobeka

㊵それにしても、人とはなんと、未来を見通す力に劣っているのでしょう。「本の未来」をまとめる時、かみさんに寄り添われて、マインツのグーテンベルク博物館をたずねました。驚いたのは、初期の印刷本が、それまでの手写本の忠実なコピーだったことです。 #aozorabunko

2011-06-09 11:53:09
富田倫生 @aobeka

㊶家具を思わせる大きさと、手のこんだ装幀。色鮮やかな手書きの文様で飾られたページ。同じく彩色絵師の手書きによる、イニシャル。量産性には背を向けた、手写本の忠実なコピーが、新しい技術で再現されていました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:54:16
富田倫生 @aobeka

㊷そこから印刷本が、大量生産という自らの潜在的な可能性を発見し、装幀を簡易化したお粗末な存在に身を引き下げ、肩をすくめて小型化するまでには、幾多の発見や工夫が積み重ねられていったのです。 #aozorabunko

2011-06-09 11:56:03
富田倫生 @aobeka

㊸祝田さんの白い電子本に、強く引きつけられ、インターネット全体をソースとする文書交換の姿を目の前に突きつけられながら、私は青空文庫をエキスパンドブック図書館としてはじめることに、疑問をもちませんでした。 #aozorabunko

2011-06-09 11:56:37
富田倫生 @aobeka

㊹ボイジャーもまた、TKⅢの道は選ばなかったものの、本 の残像を引きずり続けます。伝統的書物観を抱く世間相手に商売して、会社を維持しようとすれば、当然のことだったでしょう。萩野さんはそこで、貧乏人と病人だけに愛された会社をみごと、生き延びさせました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:59:37
富田倫生 @aobeka

㊺エキスパンドブックの素材のつもりだったテキストを、残すべき本体と位置づけ直し、それをプログラムでXHTMLに変換する。これまでの主役は廃止する。そこからもう一度、組みを再現する表示ソフトへの道をつけようと青空文庫があがくのは、また別のお話。 #aozorabunko

2011-06-09 12:01:05
富田倫生 @aobeka

㊻インターネットアーカイブとの出合いを経て、共通規格でマークアップされたウェッブ上のテキストにこそ、自分たちの未来があるとボイジャーが腹をくくるのもまた、別のお話。 #aozorabunko

2011-06-09 12:01:48
富田倫生 @aobeka

㊼1万ファイル突破記念、私と青空文庫と電子本の未来の物語第一部は、ここまで。2万突破に立ち合うことがかなえば、その時にでも、続編でお目にかかりましょう。 #aozorabunko

2011-06-09 12:06:50