映画『アイリッシュマン』狂猫病による感想&解説その6 銃撃の理由(ネタバレ有り)

マーティン・スコセッシ監督作品『アイリッシュマン』についてのレビューです。 作品のポイント、構成などについて解説しています。 今回はフランクが「彼」を撃った理由を、ある側面から解釈します。  ※大いにネタバレを含みますので未見の方は注意
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狂猫病 @kyobyobyo2

『アイリッシュマン』という作品内において、「フランク・シーランは、なぜ『彼』を撃ったのか」ということをいつまでも疑問に思う観客はそれほど多くないだろう スコセッシの非凡なストーリーテリングの手腕によって、その理由は観客の意識と無意識にしっかりと刻み込まれているからだ

2020-02-01 20:38:39
狂猫病 @kyobyobyo2

ジミー・ホッファはフランクの親友にして、精神的な恋人だ にもかかわらず、フランクがジミーを撃ち殺すことは実に自然な成り行きとして納得される スコセッシは銃撃までの約2時間45分を最大限に活用し、主人公に重層的な動機付けをしてみせた 今回はその動機のうち見落とされがちなものを拾ってみたい

2020-02-01 20:45:48
狂猫病 @kyobyobyo2

暗殺当日のラッセルの台詞に注目しよう 「奴ら(マフィア上層部)がこのこと(フランクによる暗殺実行計画)に同意した理由はただ一つ、俺への敬意からだ」 これが、フランクを親友殺害に駆り立てた決定的な一言だと言っても過言ではないだろう なぜか?

2020-02-01 20:54:03
狂猫病 @kyobyobyo2

物語の第一幕、フランクによるランドリー爆破未遂事件を憶えているだろうか 小遣い稼ぎのために、街のボスが出資しているランドリー工場をフランクが吹っ飛ばしかけてしまったあの事件だ ハーヴェイ・カイテル演じるボス、アンジェロ・ブルーノはフランクを呼び出し言った

2020-02-01 20:58:15
狂猫病 @kyobyobyo2

「ラッセルに感謝しろ、彼がいなければお前をユダヤ人どもに引き渡しているところだ」 フランクは、危ういところをラッセルに救われたのだ 口先だけのフランクの感謝を、アンジェロは遮った 感謝は行動で示せというわけだ 即座にフランクは、爆破を依頼してきた男を射殺した

2020-02-01 21:06:19
狂猫病 @kyobyobyo2

「ランドリーを爆破しようと思って(笑)」 pic.twitter.com/CNUQqRjEH1

2020-02-01 21:50:55
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狂猫病 @kyobyobyo2

これで借りは返せたのか? 違う あくまでそれは、アンジェロに対する無礼への償いだ ラッセルの友情への恩義は、彼がそれを要求してきたときに返さねばならない それが、フランクの心には刻みつけられていたはずだ

2020-02-01 21:10:11
狂猫病 @kyobyobyo2

それが、この朝食時の会話の裏にある「歴史」だ さらにラッセルは念押しする 「お前とリーニー(フランクの妻)は安全だ……俺と一緒ならばな」 これは、ラッセルらしく言葉の裏を使った脅迫だ つまり「拒否するならば、お前たちの安全は保証できない」 フランクと妻だけでなく、娘たちもだ

2020-02-01 21:16:48
狂猫病 @kyobyobyo2

フランクは泣きそうな眼で中空を睨む 自分だけの命であれば、フランクは惜しまなかっただろう だが、脳裏には娘たちの顔が浮かんだはずだ 特に、ジミーを心底から愛しているペギーの顔が ジミーを殺せば勘のいいペギーは必ず気付き、絶対に自分を許さないだろう それでもフランクは、娘の命を惜しんだ

2020-02-01 21:23:48
狂猫病 @kyobyobyo2

普段とは違い、ラッセルはフランクを飛行場まで見送り、帰還までその場で待つ 「気持ちはわかる」というラッセルの言葉に嘘は無いのだ 現場につくと、そこにはもう一人の「ペンキ塗り」サリー・バグズがいた フランクが臆した場合の予備であり、その場合はフランク自身も「ペンキ」と化すことだろう

2020-02-01 21:29:36
狂猫病 @kyobyobyo2

覚悟を決めた後のフランクの、職人としての冷徹さは驚嘆に値する それでもジミーが家に入った直後に撃てなかったのは、その一瞬の間に、様々な想いが脳裏へ去来したからなのだろうか

2020-02-01 21:34:17