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映画『ゼロ・グラビティ』ストーリー面からの感想&解説(ネタバレ有り)

アルフォンソ・キュアロン監督作品『ゼロ・グラビティ』についてのレビューです。 斬新な視覚効果や、リアリティのある宇宙空間の描写が話題を呼んだ本作ですが、ストーリー構成の面からの評価を試みてみました。  ※大いにネタバレを含みますので未見の方は注意
三幕構成 ジョージ・クルーニー 映画レビュー 宇宙 ゼログラビティ サンドラ・ブロック アルフォンソ・キュアロン 創作論 映画
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狂猫病 @kyobyobyo2
『ゼロ・グラビティ』は本当にストーリーがいい作品だ 意外に聞こえるだろうか? 本作は視覚効果技術があまりに革新的すぎたために、物語としての技術力や構成の巧みさが不当に低く評価されているように感じられる 構図や音楽にも目を配りつつ、今回は特にそのストーリー構造について解き明かしたい
狂猫病 @kyobyobyo2
まずは三幕構成のフォーマットでストーリーの流れを分解する 第一幕:宇宙空間での作業(0分)~ シャトル内での仲間の全滅を確認(24分) 第二幕:国際宇宙ステーション(ISS)へ(24分)~ ソユーズ内でマットの幻が消える(66分)
狂猫病 @kyobyobyo2
第三幕:酸素不足のアラームを切る(66分)~ 主人公ライアン・ストーンが大地に立つ(83分) 幕間の境目が見抜きにくいが、物語構造は単純だ ①宇宙で遭難する ②帰還用ソユーズまで移動するもマットを失い、燃料切れ ③中国の宇宙船「神舟」へ単独移動、地球に帰還する
狂猫病 @kyobyobyo2
この表面的な流れを追うことだけに集中してしまうと、本作の真のストーリーが見えてこない 『ゼロ・グラビティ』は、実際には主人公ライアンの「内面」を主題とした作品だ このことを念頭に置いて鑑賞すると、本作の景色はまったく違ったものに変化して見え、重層的な旋律が聞こえてくるはずだ
狂猫病 @kyobyobyo2
順を追って確認していこう まず第一幕では遭難の経緯と、一人で宇宙空間に放り出されるライアンの恐怖が描かれる 見逃してはいけない描写は、無重力を満喫する同僚に対比させられた、ライアンの神経質さだ 宇宙の魅力を尋ねられ、ライアンは「静けさよ」と答える
狂猫病 @kyobyobyo2
マットが流しているカントリー音楽を切らせる場面も、さりげないが重要だ 詳細については後述する ライアンは宇宙飛行士というより、ハッブル宇宙望遠鏡の調整任務の専門家としての参加だ したがって無重力でのサバイバル能力には乏しいが、冷静さを保てれば頭脳は明晰であることも画面から読み取れる
狂猫病 @kyobyobyo2
明るく決断力と経験に富むマットの助けを得て、ライアンはシャトルに戻るが、仲間は全滅している ここで物語の目標がはっきりと定められる 帰還用ポッドにたどり着き、地球に帰還することだ ここから第二幕となるが、その最初の場面において本作の最も重要な情報が提示される
狂猫病 @kyobyobyo2
ライアンは、過去に一人娘を失っていた まだ4歳、幼稚園の鬼ごっこ中の転倒による事故死だ この過去の不幸話は、安いお涙頂戴でとりあえず主人公を掘り下げておこうなどという、浅ましい狙いでは決してない ライアンというキャラクターが抱える問題が浮き彫りになる、重要なシーンだ
狂猫病 @kyobyobyo2
ライアンが娘の死を知ったのは運転中だ それ以来彼女は、起きて仕事に行く以外は無為に車を走らせているだけだということを坦々と告白する 「I just drive」と答えるライアンの表情と声色は、非常に虚無的だ 誰も責めようもない娘の死を、彼女は受け止めきれていない
狂猫病 @kyobyobyo2
おそらく表面的な悲しみが過ぎたころから、自分の仕事である研究に没頭したのだろう 専門家として宇宙にまでたどり着いた それでも彼女の内部には、冷たい真空の空間にも似た虚無が広がっている この場面でマットは、お気に入りのカントリー音楽を自ら切っている
狂猫病 @kyobyobyo2
陽気なカントリーがこのエピソードに似つかわしくないから、というのが大方の解釈だろう それも要素としてはあるだろうが、この「Angels Are Hard To Find」というハンク・ウィリアムズ・ジュニアの曲の歌詞を、ぜひ検索して調べてほしい これは、最愛の人を失ったことへの嘆きと祈りを歌う曲なのだ
狂猫病 @kyobyobyo2
第一幕でライアンがこの曲を切らせるのは「It's my fault I lost(失ったのは私のせい)」というフレーズの直前だ ライアンが自責の思いに囚われていることが暗示されている 理屈の上で自分に咎が無いことをライアンは理解しているだろう しかし、だからこそ無意識に自分を責めている
狂猫病 @kyobyobyo2
最愛の娘を失い、無意識の自責に囚われ、ライアンは無為に車を走らせている この背景説明が第一幕に配置されていないのは、尺のバランス上の問題もあるだろうが、内面の葛藤をメインに描こうという制作側の意図と判断するべきだ 第二幕はその作品の主題としての葛藤が描かれる、というのが現代の主流だ
狂猫病 @kyobyobyo2
この作品のミッドポイントが「ISSにたどり着くもマットを失う」という場面だ マットは自ら命綱を手放し、通信が途絶するまでライアンを励まし、助言し、冗談まで口にする ライアンにとっては娘の死に重なるような、衝撃的な喪失だ 「この手に掴んでいたのに」という嘆きの大きさがわかるだろうか
狂猫病 @kyobyobyo2
物語後半は、ライアンが単独で戦うことになると提示される この切り替わりのシーンで、キュアロンは非常に暗示的な構図を作り出している エアロック内で体を縮めるライアンの姿、これはもちろん子宮内の胎児のモチーフだ 彼女は生まれ変わらなくてはならない
狂猫病 @kyobyobyo2
第二幕後半、困難を切り抜けたはずが、ソユーズは燃料切れだった 絶望の状況で、ライアンはまず怒り、そして呆然とする ここでのライアンの感情の変化の見せ方が、本作を非凡なものとして証明するものだ グリーンランドの住人アニンガとの無線でのやり取りに注目しよう
狂猫病 @kyobyobyo2
ライアンは必死に助けを求めるが、アニンガには名前すらも伝わらない 生命を感じさせる犬の鳴き声を聞いて、ライアンは真球のような涙を零す 人の内面は、それがどれほどの嘆きであっても、真の意味では決して他人に伝わることがない
狂猫病 @kyobyobyo2
ライアンは嘆くことさえも放棄し、ただ笑う 涙を零しながら笑う 赤子の声とアニンガの子守唄が聞こえる ライアンは失った娘のことを想う 死を思わせる冷たさに包まれた空間で、彼女は静かに娘のもとへと赴くことを思いつき、酸素の供給を自らストップさせる
狂猫病 @kyobyobyo2
マットの幻は、実に映画らしい、視覚としての説得力に富んだ表現だ スピリチュアルなものを積極的に信じたい人には否定されるかもしれないが、あのマットの姿や言葉は、まさにライアンの内部から現れたものだ マットという人間を消化し、また昇華させたからこそ、ライアンは生まれ変わることができた
狂猫病 @kyobyobyo2
幻が消え、現実に戻ったライアンが酸素供給を復帰させ、アラームを切ったところからが第三幕だ ここからの彼女の戦いの懸命さ、気高さには、余計な説明が不要だ 映像を見て、言葉と音楽を聞けば全てがわかる 「No more just driving」と呟くライアンの表情を、本当に見てほしい
狂猫病 @kyobyobyo2
第一幕に提示された虚無的なライアンの姿と、決意に満ち、ありったけのものを込めて戦う第三幕のライアンの姿を比較してもらえば、この作品の主題が何だったのかは明白だ ライアンが大地に立つラストシーンは、どんなに装飾された言葉よりも説得力に溢れている
狂猫病 @kyobyobyo2
アルフォンソ・キュアロンは様々な暗示を込めた構図を作り、音楽と映像を巧みに組み合わせた しかし観客の心深くに楔を打ち込むことができたのには、やはり物語の力が大きいだろう 『ゼロ・グラビティ』は本当にストーリーがいい作品だ 多くの観客に、この思いをぜひ共有してもらいたい
狂猫病 @kyobyobyo2
『ゼロ・グラビティ』について昨夜ちょっと語りきれなかった部分を補足 本作は登場人物が極端に少なく、特に後半はライアンが一人きりの場面が増えるので、台詞回しには相当苦労したと思われる 独り言というのは、映像にすると不自然なものになりがちだからだ
狂猫病 @kyobyobyo2
本作における自然な台詞回しのための工夫は大きく2点ある 一つはマットが作中で口にしているような「NASAへの無線通信」を試みている設定を提示していること 行動前や行動中に、ライアンやマットは途絶しているはずのNASAへの通信を発声する これは制作上、観客への配慮にもなっている
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コメント

tgttr @tgttr4 11日前
トラブルメーカーのライアンを笑う映画でしょ。トラブルメーカー過ぎて嫌いだと言ってる人もいるけど。
碧川(バブチャン) @lock_bh 10日前
ライアンが本当にそこに瓶があるのか確かめないって場面が好きだな
わんだらぁ @StellaInerrans 10日前
ドラマ以前に物理的な宇宙描写がデタラメすぎてダメだった。アルマゲドンぐらいエンタメに振った映画なら気にならないのだけど。
inu @inu1122 10日前
StellaInerrans 例えばどの辺でしょうか?
HACO-HIAYUSA @HACO_HIAYUSA 10日前
ゼロ・グラビティをもう1回見たくなってきたww
わんだらぁ @StellaInerrans 9日前
inu1122 例えばISSに引っ掛かって相対速度がほぼゼロになった後、手を離した人が謎推力で飛んで行く所。あと軌道関係が無茶苦茶過ぎます。宇宙ステーションは海に浮かぶ小島じゃないです。
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