改めて『表現の自由』論 ~3弁護士かく語りき

タイトルの通り、弁護士各氏のツイートを中心に収録。 各氏の間で直接繋がっている話題ではありませんが、御三方のツイートが機を同じくして流れてきたのが興味深かったので、今回まとめて収録。
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  • 日本国憲法 - e-Gov法令検索

    第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
    ○2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

めしだ@法教育おじさん @r_messy

弁護士飯田亮真(66期・大阪弁護士会)。大阪星光学院→京都大学→大阪大学→大分修習。ライフワークは法教育。法教育研究中(D2)。趣味はピアノとゴルフ。一太郎派。【監修】『こども六法すごろく』(山崎聡一郎)、『開廷!こども裁判』(伊藤みんご)など。【note】note.com/lre_labo

bengo4.com/c_18/n_12371/

めしだ@法教育おじさん @r_messy

表現の自由っていうのは、数ある人権の中でもとても壊されやすいもので、かつ、壊されると容易には元に戻らないものなんです。 だから、他の人権よりも「優越的な地位」があるとされているのです。 皆さんが思ってる以上に、表現の自由の規制って正当化しづらいんですよ。

2020-02-16 10:15:42
めしだ@法教育おじさん @r_messy

ヘイトスピーチ、わいせつ表現、「反日的な」表現、「不敬な」表現。 どれも規制きたくなる誘惑に駆られます。それは、そのような表現内容が「価値が低いもの」と直感的に思うからでしょう。「そんな表現、むしろ無い方が良い」と。

2020-02-16 10:19:17
めしだ@法教育おじさん @r_messy

そこが表現の自由の弱いところなのです。 ですが、「価値が低い」のは何故でしょうか?誰が決めるのでしょうか?どうやって決めるのでしょうか?価値が低いとなぜ規制してよいと言えるのでしょうか?規制することで何を守りますか?それは何故、どの程度重要なのでしょうか?

2020-02-16 10:22:03
めしだ@法教育おじさん @r_messy

表現の自由は、一度壊されると容易には元に戻りません。 表現規制は「劇薬」なのです。劇薬を使ってでも守らなければならない利益ですか?それはどのような理由にもとづきますか? 劇薬には「萎縮効果」という副作用もあります。副作用はどうやって抑えますか?

2020-02-16 10:23:36
めしだ@法教育おじさん @r_messy

表現規制を正当化するには、少なくとも上記のような問い全てに答えを用意しなければなりません。 これはとても高いハードルなのです。 そして、表現規制にこのような高いハードルを設定したのは、人類が歴史とともに培ってきた経験と知識の結果です。

2020-02-16 10:28:12
[補論]表現の自由と他の人権との「調整」の話 ~名誉毀損罪を例に
めしだ@法教育おじさん @r_messy

下記の質問をいただきましたので、お答えします。連投になりますが、お付き合いいただけましたら幸甚です。 「無敵の人権」は、この世には存在しません。表現の自由だって、それを無制限に認めると他の人権が制約されたり侵害されたりすることはあり、そのような場合には調整が必要です。 twitter.com/LoveCri8/statu…

2020-02-17 09:40:01
めしだ@法教育おじさん @r_messy

まず、ここで強調したいのは、「調整」するということです。 「調整」ですから、一方の権利を他方の権利よりも常に優先させる、という判断はあり得ません。 「こういうときには表現の自由を優先するけど、こういうときには他の自由を優先する」ということになります。

2020-02-17 09:41:14
めしだ@法教育おじさん @r_messy

表現の自由に「優越的な地位がある」というのいうの、「どんな場合でも常に表現の自由が優先される」ということを意味するのではなく、他の人権との調整の場において、「なるべく表現の自由が優先するようにする」ということを意味します。

2020-02-17 09:42:43
めしだ@法教育おじさん @r_messy

誤解を恐れず大雑把に言えば、「表現の自由を優先するのが原則で、他の人権を優先して表現の自由を制約するのは例外にする」と言えるでしょうか。 以前にも書いたことがあるのですが、名誉毀損罪(刑法230条1項)を例にとってご説明します。

2020-02-17 09:44:35
めしだ@法教育おじさん @r_messy

他人の名誉を毀損する表現をすること(例えば私が「Aさんは馬鹿だ」と書いたビラを街中でまく)も、一応「表現の自由」の範囲内です。 しかし他方で、このようなビラがまかれることで、Aさんの「名誉権」という人権が侵害されます。

2020-02-17 09:46:54
めしだ@法教育おじさん @r_messy

(名誉権という人権は、憲法に明文の定めがあるわけではありませんが、憲法13条が保障する人格権の一種として、憲法上も保障されている、というのが最高裁判例の立場です。憲法学の学説においても、ほぼ異論なく認められています。)

2020-02-17 09:50:59
めしだ@法教育おじさん @r_messy

つまり、私が「Aさんは馬鹿だ」というビラをまくことが、特に法的に問題ないということなら、私の表現の自由は実現し、Aさんの名誉権が制約されます。他方で、私のこのような行為を禁止し処罰や損害賠償の対象とするなら、Aさんの名誉権を実現し私の表現の自由が制約されることになります。

2020-02-17 09:54:09
めしだ@法教育おじさん @r_messy

さて、ここで刑法230条に戻りましょう。刑法230条1項は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」と定めています。

2020-02-17 09:56:18
めしだ@法教育おじさん @r_messy

つまり、人の名誉を毀損する表現が、①公然と②事実を摘示して、行われた場合には、名誉毀損罪という犯罪になり、処罰の対象となるのです。 しかし、①公然と②事実を摘示して、行われない名誉毀損表現は、(少なくとも刑法上は)問題ありません。

2020-02-17 09:57:30
めしだ@法教育おじさん @r_messy

このことから、我が国の法では、表現の自由と名誉権が衝突する場面では、そのような表現が①公然と②事実を摘示して、行われる場合に限って、名誉権を優先し、表現の自由を制約することにしているのです。 これ以外の場合には、表現の自由が優先され、特に処罰の対象とはなりません。

2020-02-17 09:58:42
めしだ@法教育おじさん @r_messy

このような法の立て付けは、表現の自由を優先することを原則として、①公然と②事実を摘示して名誉毀損表現が行われる場合に限り、例外として名誉権を優先することにしています(「例外の例外」もありますが、ここでは省略します)。 ここに、表現の自由の「優越的な地位」が表れています。

2020-02-17 10:00:40
めしだ@法教育おじさん @r_messy

ところで、名誉毀損が犯罪だとは言っても、既に名誉毀損表現が行われた後に(=私がビラをまいた後に)処罰されるにすぎず、表現それ自体を事前に差し止めるわけではありません。 私がビラをまくこと自体を事前にやめさせることはできないのでしょうか。

2020-02-17 10:02:25
めしだ@法教育おじさん @r_messy

Aさんとしては、私が前記のようなビラをまこうと準備しているとの情報をキャッチすれば、事前にこれをやめさせたいと思うでしょう。 私が名誉毀損罪に問われるとはいっても、ビラがまかれてしまえば、Aさんの名誉は容易に回復しないからです。

2020-02-17 10:03:40
めしだ@法教育おじさん @r_messy

結論から申しますと、名誉毀損表現を事前に差し止めることは、「超例外的措置として認められる場合があります」 表現の自由とは、一定の内容を外部に表出することをその本質としていますから、「表現した後に制裁を科す」ことと、「表現する前に差し止める」ことでは、圧倒的に制約の程度が違います

2020-02-17 10:05:09
めしだ@法教育おじさん @r_messy

しかも、「あなたがまこうとしているビラは、他人の名誉を侵害する『内容だから』事前に差し止める」というのです。 表現が特定の内容を持つことを理由に、事前に止めてしまうのですから、これが容易に認められてしまうと表現の自由は骨抜きになる「劇薬」です。

2020-02-17 10:06:22
めしだ@法教育おじさん @r_messy

ですからこの「劇薬」を使っても良い場面は、非常に限定されています。 有名な「北方ジャーナル事件」という事件の最高裁判決で、最高裁は、次のように述べています(興味のある方は調べてみてください。最高裁昭和61年6月11日判決です。)

2020-02-17 10:08:03