舞鶴市公開の日本海軍主計科テキスト3冊の読み方

海上自衛隊第四術科学校に保管されている、日本海軍時代の主計科テキスト「海軍割烹術参考書」「海軍四等主計兵厨業教科書」「海軍厨業管理教科書」。 このほど舞鶴市は、この貴重な海軍史料3冊をPDF化して市公式サイトで一般公開を開始しました。 そこで、これらの史料を閲覧するにあたっての三冊それぞれの特徴や注意点をご紹介。 続きを読む
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有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

お。 舞鶴市、「海軍割烹術参考書」「海軍四等主計兵厨業教科書」「海軍厨業管理教科書」の3冊を一般公開したんですな。 皆さんが閲覧する時の参考となるように、この3冊それぞれの特徴をツリーへぼちぼちと書いていきますね。 city.maizuru.kyoto.jp/kankou/0000006…

2020-02-29 05:24:10
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

※注意 海軍において調理を担当する兵隊は、時代によって「厨夫」「厨兵」「主厨」「衣糧兵」「烹炊兵」「主計科烹炊兵」など様々な呼び方をされてきましたが、以下「烹炊兵」に統一します。

2020-02-29 15:27:22

 

①海軍割烹術参考書

有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

・海軍割烹術参考書 海軍に志願なり徴集なりで入った新兵は、まず本籍地に近い鎮守府や警備府に併設された「海兵団」に入り、そこで希望職種別に分かれて新兵教育を受けることになります。烹炊兵も同様だけど、実は明治時代の烹炊兵教育では全国で統一したカリキュラムが組まれてなかったんですな。

2020-02-29 15:27:22
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

明治22年に海軍から出された「五等厨夫教育規則」などの諸法規で「こういうのを教えたってやー」と大まかな教育方針を定めておき、各海兵団ではこれに沿って独自のカリキュラムを組み烹炊兵への教育を行なってたわけ。これにともない明治41年に舞鶴海兵団で作られたのが「海軍割烹術参考書」です。

2020-02-29 15:27:23
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

つまり「海軍割烹術参考書」の内容は、あくまで舞鶴海兵団の独自のカリキュラムであって、海軍全体の烹炊兵教育を代表するものではないことに注意するべし。他の海兵団でも同じようなテキストなり文書なりを作って教育を行っていたのはほぼ間違いないんですな。

2020-02-29 15:27:23
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

昨今、舞鶴以外の軍港都市においてこの「海軍割烹術参考書」をもとに海軍料理での町興しをしている例が多く見受けられるけど、それにモヤモヤしてる理由はそういうこと。しかも物凄く古い。明治41年って日露戦争が終わった直後で、海軍が洋食偏重の傾向からようやく脱した頃の文書ですぜ……。

2020-02-29 15:27:23
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

何せビタミンすらまだ発見される前。このあと海軍の烹炊兵教育は時局の求めや栄養学を反映したいくつかの変革をへて、昭和へ入った頃に一応の完成を見るけど。いわば「海軍割烹術参考書」は海軍の烹炊兵教育が歩みだした頃の文書で、後の時代のものとは大きく異なっている事に留意しましょう。

2020-02-29 15:27:24
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

ただし、当時の烹炊兵教育テキストとして発見されているものは現在この「海軍割烹術参考書」しかなく、それが舞鶴独自のカリキュラムだとしても、明治海軍における烹炊兵教育の実相を知るための貴重な資料であることは間違いない。ほーこんな料理を明治時代から教え込まれてたのか、と感心できます。

2020-02-29 15:27:24
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

ひとつ書き忘れていたけど、この「海軍割烹術参考書」を含む3冊で教え込まれる料理レシピは、あくまで包丁を握った事がない新兵に調理というものを叩き込むためのものであって、これがそのまま実戦部隊で採用されていたかは大いに疑問が残るところ。

2020-02-29 15:27:24
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

当時の設備状況を知った上で、実際に作ってみると判るんだけど「こりゃ艦上で作るには無理あるやろ」というのが多々見受けられるしね。明治の海兵団教育では割と手間のかかる料理を教えて、実戦部隊でそつなくこなせるようにしてたんじゃないか、とか想像してたりします。

2020-02-29 15:27:24

 
なお、「海軍割烹術参考書」については復刻版が舞鶴市内のお土産店で、さらに解説を加えたものがイプシロン出版から一般書店より、それぞれ販売されています。

復刻 海軍割烹術参考書

 

②海軍四等主計兵厨業教科書

有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

・海軍四等主計兵厨業教科書 第一次大戦を経て海軍は烹炊分野の一大改革に乗り出すけれど、その際に各海兵団において独自カリキュラムで行なっていた烹炊兵教育を統一化する運びとなり、編纂発行されたのがこの本。

2020-02-29 18:36:08
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

烹炊兵の基礎技術を学ばせるためのテキストであり、昭和20年の終戦に至るまで海軍烹炊兵教育の基本として受け継がれていく……んだけど、舞鶴市の説明には一つ誤解を招く部分があります。

2020-02-29 18:36:08
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

もともと大正7年の発行時、この本は「海軍五等主厨厨業教科書」という名前だった。当時、海兵団で烹炊兵教育を受けてる時の新兵の階級は「五等主厨」で、海兵団卒業時に四等主厨へ昇進して部隊配属されたわけ。そんな五等主厨が海兵団での教育時に使うから「五等主厨厨業教科書」なんですな。

2020-02-29 18:36:08
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

これが後に五等兵制が廃止されてスタートが四等兵からとなり、大正9年には庶務・会計・被服・糧食の各分野が「主計科」に統合されて、タイトルが「海軍四等主計兵厨業教科書」に変わったのだ。そして栄養学の台頭やその後の教育方針の変化等で、時代が下る毎に内容にもどんどん改訂が加えられていく。

2020-02-29 18:36:08
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

今回、舞鶴市が公開したものは昭和13年版のもので、大正7年版とは内容が大きく異なっている事に注意。なので舞鶴市が書く「大正7年発行」の文字を見て、これを大正時代の海軍烹炊兵教育を知る手がかりにしてしまうと大変に的外れな事になってしまうので、そのあたりは考慮に入れておきましょう。

2020-02-29 18:36:09
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

なお、この頃までテキスト記載のレシピには詳細な分量が書かれてないんですな。これは海軍烹炊兵教育では「目で見て叩き込む」ことを重視してたため。ところが太平洋戦争が勃発して民間人徴集が一気に拡大した結果、烹炊兵教育ではこの「目で見て叩き込む」方法ではとても追いつかなくなってしまう。

2020-02-29 18:36:09
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

そこで「海軍四等主計兵厨業教科書」へさらに改訂を加え、昭和18年に発行された「海軍主計兵調理術教科書」では、レシピの内容を更に実践的なものにした上で、各材料の分量を詳細に記すようになったのです。「海軍主計兵調理術教科書」は戦後に商業出版されているので探してみるとよろし。

2020-02-29 18:36:09

  

③海軍厨業管理教科書

有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

・海軍厨業管理教科書 これは海軍経理学校において、主計士官候補生や兵・下士官から選抜される主計科練習生への教育に使われていたもの。なので海兵団での新兵教育に使われていた前の2冊とはちょっと性格が違います。

2020-03-01 15:47:28
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

この本の特色は冒頭の文章(前の持ち主がカッコで区切ってる!)を読めば判る。以下、その部分を抜粋。 『厨業管理とは厨業の目的を達するために吾人に必要なる栄養を考慮し、食品の良否を鑑別し、貯蔵法を講じ或は烹炊の設備、器具を手入整備し、又烹炊其の他の作業を按配統制することを云ふ。』

2020-03-01 15:47:28
有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

つまりこの本は、補給された食材を適切に保存する方法、献立を考える際の注意点、調理器具の管理方法、そして調理作業を行なう際の指揮のやり方……等々、軍艦の調理室で烹炊兵たちを監督する指揮官を養成するための教育テキストというわけです。

2020-03-01 15:47:28