リキシャー・ディセント・アルゴリズム #1

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第2部「キョート殺伐都市」より 「リキシャー・ディセント・アルゴリズム」#1

2011-06-11 15:34:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガイオン・シティを、重金属酸性雨の香りに満ちた夜闇が包む。電子基盤のように規則的な道路や水路。黒漆塗りの低階層ビル群に、洗練されたネオン文字やプラズマカンバンの灯りが燈る。五重塔がコンデンサめいた等間隔で並び、最上階に備わった大型アンプからサイバーな雅楽音声を鳴り響かせていた。

2011-06-11 15:50:07
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「ハヤイ!ハヤイ!」独特の掛け声とともに、リキシャードライバーは小さな橋を渡る。その横を、黒い傘をさしたマイコたちが一列で歩き、リキシャーの上に座るサラリマンに静かに微笑みかけた。彼女たちの目元は奥ゆかしいサイバーサングラスで隠されており、安くはない色気をそれとなく感じさせる。

2011-06-11 16:01:53
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「カナリ!カナリ!」この精悍な若いドライバーの名は、アナカ・マコト。競泳水着じみたボディスーツの上から、濃いグレーのジュー・ウェアを羽織り、強化樹脂笠を被っている。ジュー・ウェアには、体側に沿って透明のチューブが備わり、蛍光ブルーの液体が循環して奥ゆかしいサイバー感を高めていた。

2011-06-11 16:13:00
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「ブッダ!これはすごいですね!」リキシャーの上に乗ったサラリマンが、思わず声を上げた。ガイオン・シティに並ぶヨーカンめいたビル群の黒い壁が、1区画ごとに1つの巨大なディスプレイと化して、いくつもの漢字、オイラン、ニュース番組、株価チャート、ネコネコカワイイなどを映し出したからだ。

2011-06-11 16:22:56
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「キョート・リパブリックでは、全てが計画的に建設されていますからね。ハヤイ!ハヤイ!」アナカは足を止めずに乗客に声をかけた。「知っていますよその位!」突然、乗客が激昂する「私はキョート・ニュービーじゃないですよ!私はあのヨロシサン製薬の社員ですよ?!頻繁に出張に来ているんです!」

2011-06-11 16:31:07
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「アイエエエ!シツレイ致しました!」アナカは謝罪する。慣れたものだ。こうした手合いは多い。ネオサイタマの連中は、キョート・ニュービーであることにコンプレックスを抱く。無理からぬことだ。それはエジプト文明にも匹敵するキョート平安文明に対して余所者らが感じる、ある種の畏怖なのだろう。

2011-06-11 16:38:30
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「お詫びと言ってはなんですが、道すがらにある、良いキンギョ屋を紹介しましょうか?オイランへのプレゼントに最適です」「オイランだって!?今日は商談なんですよ!私がどれだけ本場のマイコセンターに行きたいと思っているか、わからないでしょうね?!」「アイエエエ、こいつはシツレイ……」

2011-06-11 16:42:28
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それから10分ほどして、アナカの引くリキシャーは、商談が行われるという五重塔に到着した。車を止め、屈辱的な立膝の状態を取り、乗客が降りるのを待つ。これもサービスの一環だ。「遅かったから半額しか払わないぞ!」サラリマンがすごむ。「条例で禁止されています」アナカが目を伏せたまま言う。

2011-06-11 16:48:21
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キョート流の巧みな話術の前に、サラリマンは成す術もない。しぶしぶ、財布から素子を取り出してアナカに手渡すと、腹いせとばかりに編笠にツバを吐き捨てていった。アナカは稼ぎを懐に入れる。これが丸々手に入ればかなりの額だが、8割はリキシャー等々のレンタル代として会社にピンハネされるのだ。

2011-06-11 16:53:32
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「せめて独立できればな……」陰鬱な重金属酸性雨に頭を抑えられながら、アナカは素子をチェックする。彼はこの仕事を始めてまだ1年。悪夢のような遺跡発掘プロジェクトで貯めた金を元手に、地下の違法オスモウカジノでそれを倍にし、何とかリキシャー会社に登録することができた。

2011-06-11 17:12:37
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その時!真っ黒い人影が、叫び声とともに突如落下してくる!「アイエエエエエエエ!アイ!アイエエエエエエエエエエ!」足を滑らせた五重塔修復作業員だ!

2011-06-11 17:20:33
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アナカは素早い機転でリキシャーを旋回させ、作業員の落下地点から離れた。「アバーッ!」作業員は即死!その死体はすぐに清掃バイオスモトリたちの背負う袋に入れられ、観光客の目から隠されるだろう。コワイ!だがこのような惨事や隠蔽は、キョート・リパブリックではチャメシ・インシデントなのだ!

2011-06-11 17:23:14
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アナカはそれから黙々と仕事をこなし、8組ほどの乗客を運んだ。違法キンギョ屋に客を連れ込むことにも2度成功し、店主から多少のマージンを受け取った。彼のリキシャーに乗った客は誰しも、ガイオン・シティの奥ゆかしさと、洗練された美しさを讃える。それが、アナカには苛立たしかった。

2011-06-11 17:29:04
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((何が奥ゆかしいものか!この都市はファンデーションで塗り固められたエンシェント・オイランだ!))ビルを隠すほどのバイオ柳の枝葉が揺れる下を、アナカは黙々と駆け抜ける。ホウリュウ・テンプルの鐘の音が、風に乗って聞こえてきた。ライトアップされたキョート城が、山並みに浮かび上がった。

2011-06-11 17:37:16
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カナリハヤイ社のガレージに戻ったアナカは、エントランスに置かれたターミナル装置に左手をかざす。社員全員の左手には、発信装置付ICチップがインプラントされているのだ。「オツカレサマドス」電子マイコ音声が労をねぎらい、ターミナルのフタが開いて稼ぎを回収する。

2011-06-11 17:53:05
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見ろ、オイランの化粧はすでに剥がれかけている。リキシャー・ガレージは、観光客が絶対に立ち入らない場所だからだ。薄暗いガレージのあちこちでタングステン・ボンボリが明滅し、壁に備わった基盤や切れた高圧電線からバチバチと火花が散っている。錆びた大型ファンが軋んだ音を立てて回転している。

2011-06-11 17:56:53
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数百台以上のリキシャーが整然と並ぶ広大なガレージの中を、アナカは静かに歩く。そして所定の位置にリキシャーを止め、明日に備えて整備点検を行った。「これは……?」ふと、薄い物体が彼の手に触れる。フロッピーディスクだ。入念に書込禁止状態にしてあるところを見ると、かなりの機密情報だろう。

2011-06-11 18:08:15
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裏面を確認してみる。メモ欄には、ヨロシサン製薬の社印と「バイオ鹿計画」の文字。ナムアミダブツ!何たる邪悪な文言であろうか?ヨロシサン製薬の暗黒メガコーポ的側面を知らないアナカにも、このファイルの危険性はすぐに理解できた。

2011-06-11 18:26:59
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だが「同じ穴にフェレットとタヌキ」というコトワザもある。自ら手を突っ込んで試してみるまで、それが危険かチャンスかは誰にもわからないという、詩聖ミヤモトマサシの残した名句だ。アナカの脳裏にもこのコトワザが浮かんだのだろう。彼はフロッピーを静かに懐に入れる。その時!「おい!アナカ!」

2011-06-11 18:33:32
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「ハイ!?」アナカはとっさに返事をして、平静を装う。彼を呼ぶ声は、ガレージの壁に端から端まで並んでいる、ヨロシサン製薬のドリンク販売機の辺りから聞こえた。「ハイじゃないだろ、アナカ!こっちに来い!」そこには、バリキドリンクを飲む先輩ドライバーたちの姿があった。

2011-06-11 18:55:44
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アナカは小さく舌打ちしながら近づく。相手の数は6人。いずれも、長年に及ぶリキシャーの操縦で鍛え上げられた屈強な男達だ。リーダー格であるタジモトは、違法薬物の運びにも手を染め、体の様々な部位をサイバネ置換している。「今日はサア、俺たちバリキナイトなんだけど、君もドウ?」とタジモト。

2011-06-11 19:12:22
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ヨロシサン製薬が販売している活力バリキドリンクは、表向きは何の変哲もない健康飲料だが、オーバードーズすることによって異常興奮状態へとトリップできる。中毒性も高く、中層および下層労働者たちにとって欠かすことのできない合法薬物のひとつだ。バリキドリンクの誘惑に勝てる労働者は少ない。

2011-06-11 19:26:32
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だがアナカは、バリキの誘惑に勝てる数少ない労働者の一人であった。「……すんません、タジモト=サン、妻が帰りを待っているんで……金も無いですし」「ア?また断るの、アナカ?ア?お前さ、一年経つけど、俺たちと一度もバリキナイトしないヨネ?ア?もしかして、俺たちのこと、バカにしてんノ?」

2011-06-11 19:36:58
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「いえ、そういうわけじゃないんで、帰りますんで」アナカがそそくさとガレージから出ようとすると、タジモトのサイバーサングラスが威圧的に赤く光り、「ムラハチ重点」というLED文字を点滅させた。コワイ!それを見た2人のモヒカンが素早くアナカの両脇に回り込み、ボディーブローを叩き込む!

2011-06-11 19:45:45