Y-Tambe先生の、獲得免疫、自然免疫のお話し

免疫学の復習に
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Y Tambe @y_tambe

基本的に、発病するかどうかは、 病原体数×ビルレンス(毒性の強さ) vs 宿主抵抗性 のバランスで決まる。オッカムの剃刀を振り回して、「その病原体になにかとくべつのしくみ(=ビルレンス)」を抜きにして病原体数と宿主抵抗性だけでも「不顕性感染」は説明可能。

2020-03-06 00:28:20
Y Tambe @y_tambe

一方で「伝染性のある宿主かどうか」では、その伝染媒体中に「感染可能な病原体がどれだけいるか」が重要になる。今回の新型コロナの場合、飛沫が媒体なので「唾液や口腔の粘液にどれだけいるか」。その意味では「咽頭拭い液からのPCR」は、それなりに良い指標になると考えられるけど(続

2020-03-06 00:33:05
Y Tambe @y_tambe

承前)厳密に言うとPCRの結果は「感染可能なウイルス粒子の数」と概ね比例してはいるけど、見ているのはあくまで「ウイルスゲノムの量」。例えば消毒薬で処理して壊れたウイルス粒子みたいな「感染可能ではないけどゲノムは残っている」ものも検出するので、結果はそこを踏まえて解釈する必要がある。

2020-03-06 00:36:34
Y Tambe @y_tambe

そういう意味では「無症候だけど『ウイルス量』が多い」と言われたとき、それが「伝染性も高いのかどうか」を考えようとすると、どうしてもその『ウイルス量』が指すものが、厳密にはどっちなのか、というのを考える必要が出てくるわけで。

2020-03-06 00:42:55
Y Tambe @y_tambe

つってもまぁ、その辺りは専門のウイルス研究者が言ってることであれば、「伝染性の高さと完全にイコールではないけど、相関はある可能性が高いよね」という含意は大体読み取れるのだけど。

2020-03-06 00:46:53
Y Tambe @y_tambe

んで「免疫」の話。 今回のような「新型」のウイルスに対して、僕らは「免疫を持ってないから広がる」というのだけど、これは厳密には「獲得免疫を持っていない」というのが正しい。

2020-03-06 00:49:31
Y Tambe @y_tambe

承前)ただ、僕らはそういう病原体に対して完全に無防備なのかというと、そうではない。獲得免疫は「一度であった敵をきっちり見分けて(=特異性)二度目以降にきっちり守る(=記憶)」。いわば「狭く深く」。これに対して「広く浅く」働くのが「自然免疫」。

2020-03-06 00:52:28
Y Tambe @y_tambe

承前)自然免疫ではノーベル賞受賞した「Toll様受容体」とかが有名だけど、かなり幅広い概念で、ウイルス感染細胞がアポトーシスを起こすのもここに含まれる。ウイルス以外にもいろんな病原体に対応するのだけど、ウイルス感染の場合にはやはり「インターフェロン応答」が重要に。

2020-03-06 00:57:00
Y Tambe @y_tambe

承前)インターフェロンといってもI型(α、β)、II型(γ)があり、ここで働くのはI型の方。TLRがウイルス由来の核酸を認識したり、その他いくつかセンサーになるタンパク質が見つかってるけど、最終的には、ウイルス感染細胞がI型インターフェロンを作り出し、それを細胞外に放出する。

2020-03-06 01:00:03
Y Tambe @y_tambe

承前)我々の細胞の表面には、このインターフェロンに対する受容体があり、感染した細胞自身と、その周辺にいる細胞の受容体にインターフェロンが結合すると、それが「アラート」みたいなものに。インターフェロンを検知した細胞では、タンパク質合成全体が抑制されるなどの細胞応答を起こす。

2020-03-06 01:02:45
Y Tambe @y_tambe

承前)ウイルスが感染した細胞では、しばしばタンパク質合成がそのウイルスに「ジャック」されて、細胞本来のタンパク質を作らずに、ひたすらウイルスタンパク質だけ作り続ける状態になってる。それを抑えることで、ウイルスの増殖を「抑える」。これがいわゆる「インターフェロン応答」

2020-03-06 01:04:49
Y Tambe @y_tambe

承前)この仕組みのうまいところは、感染細胞だけでなく、周辺の細胞も応答すること。これによって、周辺の細胞がいわば「抗ウイルス状態」になり、さらに効率的に「ウイルスの増殖を遅らせる」ことが可能になる。

2020-03-06 01:06:26
Y Tambe @y_tambe

承前)基本的に、ウイルスがすでに感染した細胞を元に戻す方法はない。だから、最終的になんらかの形で「排除」することになる。それは、その細胞自身がアポトーシスを起こしたり、その周囲で炎症性サイトカインが産生され、組織の炎症によって排除されたり、さらにもう少し時間が経つと(続

2020-03-06 01:09:32
Y Tambe @y_tambe

承前)「獲得免疫」の一種である、細胞傷害性T細胞(いわゆるキラーT細胞)が、ウイルス感染細胞を特異的に見つけて、アポトーシス誘導するなど、いろんな仕組みが組み合わさって起きる。いずれにしても「獲得免疫が誘導されるまでどうやって時間を稼ぐか」が、かなり重要に。

2020-03-06 01:11:42
Y Tambe @y_tambe

承前)獲得免疫、特に抗体が誘導される段階になれば、感染細胞で増えて放出されたウイルス粒子が抗体によって中和されるなどして、他の細胞に感染できない=感染が広がらなくなる。そしたら後は、すでに感染している細胞が排除されてしまったら、それで「治癒」することに(症候によって残るものも

2020-03-06 01:16:00
Y Tambe @y_tambe

承前)これが、一般的なウイルス感染の流れ(もちろん、場合によっては治癒することなく死の転機を迎えることもあるけど)。んで、一方ウイルス側はウイルス側で、いろいろ進化を遂げ、こうした「免疫システム」に対抗しようとしてきたわけで。

2020-03-06 01:18:42
Y Tambe @y_tambe

承前)そんな中で働くのが、さっき名前を出した「アクセサリータンパク質」と呼ばれるもの。基本的にウイルスは「ゲノムの情報量をできるだけ節約するよう」にしてるが、ウイルス粒子そのものに含まれる「構造タンパク質」と、それ以外の「非構造タンパク質」の遺伝子を持つ。アクセサリーは後者

2020-03-06 01:21:51
Y Tambe @y_tambe

承前)非構造タンパク質には、他に「ウイルスゲノムを複製するためのウイルス独自のポリメラーゼ」みたいに、増殖に必要不可欠なものもある。アクセサリータンパク質には、一見するとそういう機能はないので、なくてもなんとかなりそうなんだが、実際はこれを欠損した変異体はうまく増えないことも多い

2020-03-06 01:24:23
Y Tambe @y_tambe

承前)で、そういうやつは例えば、先述のインターフェロン応答に関わる宿主タンパク質とくっついて邪魔したりとか、そういう機能を担っていることが明らかになってきた。また、遺伝的に非常に近いウイルスで、おんなじように見えるタンパク質でも機能が違ってたりして、かなりややこしい。

2020-03-06 01:26:30
Y Tambe @y_tambe

承前)おそらくは「本来、生存に必須」ではないからこそ、そうしたアクセサリータンパク質の多様性は、いろんな突然変異したものの中で、たまたま「宿主細胞での増殖が有利になる」ものが選択されていった結果、「遺伝的にはあんまり関係ないんだけど、機能は似てる」ものになったのだと思われ。

2020-03-06 01:31:00
Y Tambe @y_tambe

(さすがに疲れたのでこの辺で)

2020-03-06 01:31:27
Y Tambe @y_tambe

僕は、基礎医学系の研究者なので、理論よりも現実の事象を重視します。 「逆では?」と思う人もいるかもしれないけど、基礎系の研究者は大体そんなものです(ただし物理を除く)

2020-03-06 07:10:29
Y Tambe @y_tambe

おまけ。この「病原体数×ビルレンス」と「宿主抵抗性」のバランスを考えたとき、 一般的な感染症:ビルレンスが大きい病原体が感染するので発病 日和見感染症:ビルレンスが小さい弱毒菌だが宿主抵抗性が低くて発病 菌交代症:抗生剤長期使用で常在菌が減り、耐性持ち弱毒菌の数が増えて発病 twitter.com/y_tambe/status…

2020-03-06 10:26:04
doc @oldwoodbass

@y_tambe 患者から環境へ撒き散らされたウイルス量が少ない、もしくは消毒する事で、ウイルス量を感染が成立しないウイルス濃度まで減らせば「感染しない」。 ウイルス抗体価が測定できなければ、「感染不成立」と「不顕性感染」を切り分けられないのではないでしょうか。

2020-03-06 08:58:06
Y Tambe @y_tambe

@oldwoodbass その認識は正しいです。 「曝露すれども感染せず(感染不成立)」「感染すれども発病せず(不顕性感染)」、この両方がありえる。 ただ、でも「曝露すれども感染せず」って、どうやれば証明できるのか、という問題がありまして。感染成立しなかったら、本当に病原体と接触したかの証明がムズい。

2020-03-06 10:16:57