蘇のひみつ~メイラード反応ってなんだ?

料理研究家の平松サリーさんによる、ネット民がこぞって写真を上げている「蘇」の色に違いがあることへの研究です。
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平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

「蘇」「蘇」です。 加熱条件が少し違います。色の違いがお分かりいただけるだろうか。 pic.twitter.com/HwNtdqWyIc

2020-03-08 16:20:00
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平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

料理研究家/料理・科学ライター。科学をわかりやすく楽しく、より身近に。/ブログ「サリーの「おいしい」を科学する料理塾」https://t.co/cdXaWmampy とりあえず作ったマストドン→@sarisally1@mstdn.jp

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平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

断面はこんな感じ。左はバターのような色合いで、香りもバターやフレッシュチーズに似ています。右はクラフト紙のような色、といえばいいでしょうか。ミルク香とともにクッキーが焼ける時のような香りがします。 pic.twitter.com/PNawF1CMcz

2020-03-08 16:22:54
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平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

いずれも ・使用器具:直径21cm程度の厚手のフライパン(テフロン加工のもの)とIHヒーター ・材料:1リットルの牛乳(同じメーカーの同じロットのもの) を使用。 pic.twitter.com/WUuduj3mD9

2020-03-08 16:26:28
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平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

加熱条件は A:細かい気泡がプツプツと上がってくるくらいの火加減(中火〜弱めの強火)を保って煮詰める(所要時間2時間) B:気泡は上がってこないが絶えず湯気が上がる程度の火加減(序盤は弱中火、中盤以降はとろ火〜弱火)を保って煮詰める(所要時間8時間) さて、どちらがどちらでしょうか。

2020-03-08 16:28:32
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

(ツイートしながらふと、私、蘇のために8時間+2時間で合計10時間溶かしたのかと気づいてしまって虚無。ミルクに溶けた私の週末…

2020-03-08 16:29:46
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

正解を発表する前に動機と仮説について簡単に。空前の蘇ブームにより、TLに頻繁に「蘇を作ってみました」という写真が流れてくるようになったのですが、人によって結構色が違うんですね。白っぽいものもあれば褐色がかったものある。この違いは何でしょうか。

2020-03-08 16:35:26
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

蘇が褐色に色付くのはおそらく「メイラード反応」による現象です。カラメル化や焦げとは別の反応なので注意してください。乳糖の「カルボニル基」という部位と、タンパク質の「アミノ基」という部位が複雑な反応をし、メラノイジンという成分を生成します。

2020-03-08 16:37:56
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

メイラード反応によって色が褐色みを帯びたり、クッキーが焼けたようなにおいがついたりします。身近なところでは、肉を焼くと風味が良くなったり、パンの皮がきつね色に色づいていい香りがしたりするのがこれです。

2020-03-08 16:40:06
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

以前、缶入りのコンデンスミルクを湯煎にかけると生キャラメルができるという記事が話題になったことがありますが、これもメイラード反応によってコンデンスミルクが褐色に色付いています。

2020-03-08 16:41:12
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

話を「蘇」に戻しましょう。ネット上の蘇のレシピやツイッター上に上がっているレシピの写真を見ていると、時間をかけて煮詰めているレシピや本格志向のものの方が色が濃く、最近投稿された写真の方が色が薄いような傾向があるのかなと思いました。(厳密に調べたわけではないです)

2020-03-08 16:43:35
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

メイラード反応による褐変は、加熱温度が高いほど、また、加熱時間が長いほど促進されます。そこで、長時間かけてじっくり煮詰めたものの方がより褐変が進むのではないかと仮説を立て、2時間で手早く煮詰めたものと8時間かけてじっくり煮詰めたものの2つを作り比べてみることにしました。

2020-03-08 16:44:44
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

結果は A:中火〜弱めの強火で2時間→褐変が進み、クラフト紙のような色に B:とろ火〜弱火で8時間→ほとんど褐変が起こらずバターのような色に 仮説とは逆の結果になりましたw どうやらじっくり煮詰めることに集中した結果、加熱温度が低く、メイラード反応が進まなかったようです。

2020-03-08 16:47:16
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

今週、時間があれば、牛乳の量を増やし、中火〜強めの強火で8時間コースでどうなるか試したいと思いますが、何しろ時間がかかるので…余裕があれば…余裕があればね…はい…

2020-03-08 16:49:22
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

ちなみに作業環境はこんな感じ。ヒーターをリビングのテーブルに設置して座ってのんびり作業しました。8時間コースなら本を読みながらとか、メールの送受信をしながらとかの片手間で十分。2時間コースは絶えず混ぜる必要があるので、ツイッターを眺めるのが精一杯でしたw pic.twitter.com/ShqmXgAKuK

2020-03-08 16:51:29
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平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

さて、お味の方は。どちらも、塩気とほのかな酸味を感じます。生成途中の濃縮ミルクの時点では、乳糖が濃縮された甘味を強く感じましたが、蘇になるとあまり感じないのが印象的です。

2020-03-08 16:58:10
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

乳糖は、確か常温よりもホットミルクくらいに温めた方が甘味度が増した気がするので(要確認)そのせいかもしれません。ということは、軽く炙るなどして温めると甘味が増して感じられるかも?後でやって見ます。

2020-03-08 16:58:42
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

香りは ・色が薄い方:バターやフレッシュチーズのようなミルキーかつやや酸味を感じる香り ・褐色の方:クッキーが焼ける時の香り ベースの味が、脂っ気の少ないバターというか、割と淡白なので、色が薄い方はそのままだと少し物足りない感じがします。

2020-03-08 17:00:07
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

白色の蘇は、そのままだと少し物足りないので、フレッシュチーズなどのイメージで塩とブラックペッパー、オリーブオイルで味付けするといい感じ。 淡白な分、サラダに使ったり、果物と合わせたりしても良さそうです。

2020-03-08 17:02:36
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

褐色の蘇は、蜂蜜をつけて甘味を足すととても美味。焼き菓子のような味わいです。あれこれ足さずにシンプルに食べるなら断然褐色の蘇です。 白色の蘇と同様、塩と胡椒、オリーブオイルを絡めてももちろんおいしいです。メイラード反応によって生成された風味と混ざり合って複雑な味わいに。

2020-03-08 17:04:27
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

なお、メイラード反応は牛乳に含まれる「乳糖」よりも「ブドウ糖」や「果糖」などの糖の方が起こりやすいので、手軽にメイラード反応を起こすのであれば、牛乳に蜂蜜などを足して煮詰めると良いかもしれません。

2020-03-08 17:06:04
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

ちなみに今回の収量は1リットルから170〜180g。17〜18%くらいですね。かなりギリギリまで煮詰めています。一般的な牛乳中の固形分の割合は12〜13%なので、若干残った水分と鍋にこびりついたロスでプラマイしてだいたい妥当なところかなと。

2020-03-08 17:07:25
平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

ぼてっとした塊になるくらいまで煮詰めると、冷やしたときにパルミジャーノレッジャーノのような硬質チーズくらいの硬さになります。もう少しねっとり感のあるやわらかい蘇にするならもう少し早めに加熱を止めた方が良いでしょう。 pic.twitter.com/LQb3pMU7Nv

2020-03-08 17:09:08
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平松 サリー(料理研究家・ライター) @sarisally1

なお、文献では「乳を一斗煎じて、一升の蘇が得られる」とあり10%程度の収量だったようですが、当時は現在のようなテフロン加工のフライパンなどはなく、鍋にこびりついた分のロスが大きかったのではないかと考えられます。

2020-03-08 17:09:53