水橋文美江公式Instagram・Fumiemizuhashi大切な友人を放送前に亡くしました。人っていつまでもそこにいないんだな。記憶もいつまでもそこにないんだな。刻んでおこうと思いました。こぼれる想いを綴ります。 #朝ドラ #スカーレット#脚本 担当 #期間限定#水橋文美江

保管用 インスタ以外にも関連する記事も一緒にまとめました。 あくまでも個人的に楽しむためのアーカイブです。 大っぴらに宣伝とかはしませんので、皆さんもそっとお楽しみください…
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ライターの平田裕介さんとお話ししました。平田さんが聞き上手なので、私ったら偉そうにぺらぺらと語ってます。すみません。

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今はともかく安心で穏やかな日々が
戻りますようにと願うばかりです。

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メッセージありがとうございました

朝ドラ「スカーレット」最終回 喜美子と八郎「好きがこぼれてる」10年ぶり“敬語”再会シーンの秘話

脚本家・水橋文美江さんインタビュー #1

平田 裕介

 101作目のNHK連続テレビ小説「スカーレット」が最終回の日を迎えた。ものづくりに情熱を注ぐ陶芸家・川原喜美子が生きた50年をみずみずしい筆致で紡いだ脚本家の水橋文美江さんは、大阪のホテルに8カ月暮らし、2年の歳月をかけて一足先にゴールテープを切っていた。これほど長く1人の人生と向き合った日々を振り返り、現在の思いや、戸田恵梨香さん、松下洸平さんら多彩な俳優陣とのエピソードをご自宅で伺った。(全3回の1回目。#2、#3へ)

放送されなかったシーンがいっぱい

――まずは長い間、お疲れさまでした。朝ドラは長丁場の現場だと聞きますが……。

水橋 そうですね。最初にお話を頂いてから、大体2年弱くらいでした。誰よりも長く「スカーレット」の世界にいたので、なかなか抜けきらないですね。執筆を終えた瞬間はすごく楽しかったなと思ったし、「まだまだ明日も書きたい」と思うくらい充実していました。実はもう次の仕事に入っているんですけど、それでもまだふとした時に「スカーレット」のことを考えたり、反省したりします。
――反省というのは?
水橋 「スカーレット」は放送されなかったシーンがいっぱいあるんです。削ぎ落とされて良くなる場合もあれば、15分に収まらず仕方なくカットということもあって。最終週はそれがかなり多かったんですね。
 たとえば最終週の月曜日、八郎(ヒロイン喜美子の夫、松下洸平)が作った玉子焼きを前に、武志(喜美子の息子、伊藤健太郎)が八郎に思いをぶつけますが、脚本では八郎もそれに対してきちんと言葉を返し、これまでの思いを語る長いセリフがあったんです。そして「武志が突っかかってきたん初めてや」と。そのこと自体は「嬉しかった」と言うんですね。喜美子(ヒロイン、戸田恵梨香)も武志に「突っかかったこと気にせんでええよ、これからは思うたことなんでも言うたれ、喜んで受け止めてくれるわ。それがお父ちゃんや」と言ってあげるんです。
 父親と母親と、息子の受け止め方の違いを描きたかったんですけど。どうしても入らなかったんでしょうね。制作統括の内田ゆきプロデューサーも泣く泣くカットしたところがありますと仰っていたので。私がもっとうまく構成を組んで、入れ込めなかったかと。皆さんに伝えられなかったことが申し訳なくて。どうすればうまく出来たかと他にも色々と反省してます。

撮影開始後、ひたすら机に向かって

――観ている人に伝わるかどうかを大切にされていたとのことですが、なにか放送中のリアクションを実際の脚本に反映されたことはありましたか。
水橋 ないです。そういう余裕がなかった。舞台が昭和で登場人物のセリフが方言なので、私が書いたものを、ことば指導と時代考証の先生たちに読んでいただく必要があるんです。通常のドラマよりも決定稿になるまで日数がかかるんですよ。撮影が始まってからはそのせいもあって、ずっと追われているような感じで、ひたすら机に向かっていたんです。
 プロデューサーの内田さんが私のメンタルがやられないように守ってくれたのかもしれません。内田さんは外の声を私にはふきこまない。世間がどうとかSNSでこんなふうに言われているとかいう情報を一切言わない。揺らがなかったですね。三津(黒島結菜、1)がそんなに嫌われているなんて知らなかったですし(苦笑)。
1 喜美子が結婚ののちにかまえた、陶芸のかわはら工房に弟子入りする若い女性。三津の登場が、川原家に波乱を巻き起こす。

「三津って嫌われていたんですか」と松下さんに聞いたら……

――そうでしたか。
水橋 全然知らなかったんです。三津がかわはら工房から去った週に、内田さんが「最終的には三津を好意的にとらえてくれた人が多くて、ほっとしました」とメールをくれて、それで私は初めて「えっ、受け入れてもらってなかったの?」ってびっくりして。松下さん(八郎)に「三津って嫌われていたんですか」と聞いたら、「そうなんですよ。もう2人きりになるだけで……」とか仰ってて。もう一度「えっ」と(笑)。私としては、そのシーンをずっと前に書いているので、どうにもならないんですけど驚きましたね。

――そんなふうに俳優の方々と、ちょっとお話しされることもあったんですね。

水橋 いえいえ、ほとんどないです。ただ、大阪には8カ月近くいたから偶然ロビーやスタジオ前で顔を合わせることもあったんです。セットを見に行った時に、喜美子を演じた戸田恵梨香さんがお見えになったのでご挨拶したり。それから近くのコンビニで「あれ、福田さんじゃないですか?」って福田麻由子さん(川原百合子役)とばったりなんていうことも。「ホン(脚本)、大丈夫ですか?」って立ち話をしたり。
 私が滞在していたのは、打合せに呼ばれたらすぐに行けるようにとスタジオに近いホテルで、他にも出演者の方が泊まってらしてたと思うんですけど。ロビーで財前直見さん(大野陽子役)に「初めまして」とご挨拶したこともありますし。でもそういうことは、ほんとたまたまです。後半はどこにも行かずに誰にも逢わずに黙々と書いていました。書くのは楽しいので苦ではないんですけど、私だけ、まったく別世界で生きているなあと思ってました。朝ドラの脚本を書くのは孤独なマラソンのようなもので、走り続けている間も、誰よりも先にゴールテープを切る時もたった1人でした。

常治との別れを北村さんに一任した

――他のキャストの方々やキャラクターについてもお尋ねしたいのですが、喜美子の父・常治を演じた北村一輝さんは、病身を表現するのにずいぶんお痩せになったそうですね。
水橋 8キロ痩せたと仰っていましたね。朝ドラはたとえば48歳のシーンを撮った翌日に31歳のシーンを撮る……みたいな感じでどんどん撮ってゆくと聞いていました。だから8キロも痩せられると繋がらなくなるシーンが出てくると思うんですが、それが出来たというのは、スタッフが順撮り(時系列に沿って順番に撮影すること)になるよう、うまくスケジュールを組んでくれたんだと思います。北村さんの役者魂に皆が持っていかれたといいますか、私も含め、皆が常治との別れを北村さんに一任したようなところもあったんじゃないでしょうか。それほど、常治という役になりきって、慈しんでくれていました。

大崎先生は「ああ、稲垣さんのお医者さんだ」

――喜美子の息子・武志の主治医をつとめる大崎(茂義)先生は、稲垣吾郎さんが演じています。
水橋 以前からお仕事でご一緒したこともあってお互いに知っているし、久々に地上波に戻ってドラマをやるというのが一ファンとしても本当に嬉しくて。SMAPのコンサートにはいつも家族で行っていたんですよ。
――大崎先生はどこか飄々とした性格に映りますが、穏やかで精神的に武志と喜美子を支えていきます。

水橋 やっぱり彼が演じたからこそ、ああいう感じになったんでしょうね。彼が上手く肉付けをしてくれて、観た時に「ああ、稲垣さんのお医者さんだ」と思いました。

八郎の役作りと、「この人、怒ったりするのかな」

――#八郎沼というハッシュタグが生まれたくらい、八郎はかけがえのないキャラクターに。結婚相手に抜擢された33歳の松下洸平さんも大ブレイクしました。
水橋 松下さんに初めてお逢いした頃、私は喜美子が八郎との別れに向かうところを考えていた頃だったんです。マネージャーさんも一緒にみんなでご飯を食べたんですけど、松下さんはすでに八郎の役作りに入っていたからか、振る舞いも八郎のイメージのままで。爽やかで穏やかだったので、「この人、怒ったりするのかな」と。
 この先、喜美子と言い合いしたりするのでどうなんだろうと思って、「怒鳴ったり怒ったりしたことありますか」と聞いたら、「えー」と思い出しながら頭に来たことを話してくれたんですが、隣でマネージャーさんが「それ3年前だよね?」って。「あぁ、3年前かあー」とのけぞってました。それで、いきなり怒ったりするのは苦手かもなぁと思って、後に八郎が怒るシーンは、松下さんがやりやすいよう、だんだんと感情が高まっていくように気をつけて書きました。

――後半の八郎は、穏やかさと爽やかさを保ちつつ、より存在感と貫禄が出ていました。
水橋 そうですね。とにかく彼は八郎という役に一生懸命でした。私の作った八郎なのになぁと妬いたくらいです(笑)。

戸田さんは「脚本に感嘆符が書いてありますから」

――戸田恵梨香さんは、年齢に応じたその時々の喜美子を、いつも新しい表情で演じられていましたよね。
水橋 全編を通して「仕事を持つ女性を描く」ことを大切にしながら、喜美子が結婚してからのパートに大きなテーマを構えた作品でもあったので、30歳前後の女優さんに演じてもらおうと話していました。やはりそこは若い女優さんには難しいのでは? ということで。戸田さんは、脚本をしっかり読み込んで下さって、繊細な気持ちをとても丁寧に演じてくださいました。「脚本に感嘆符が書いてありますから」と「!」の一つとってもきちんと考えて下さってると聞いてからは、ますます、どんな1文字でも真剣に慎重に書いてました。戸田さんに喜美子を演じていただけて、喜美子も幸せでしたが、私も脚本家として本当に幸せでした……。

――「川原喜美子の人生劇場」を描き切ったいま、どんなことを思われますか。

水橋 もう後半になってくると、喜美子は私だけの人物ではなくなっていくんですよね。戸田さんのなかに喜美子がいて、プロデューサーの内田さんのなかにも喜美子がいて、演出家やスタッフ、みんなのなかに喜美子がいて、視聴者のなかにもいて、生きているんだなあと思います。
たった1度だけスタジオへ見に行った“再会”シーン
――喜美子と八郎の移り変わる関係性には、観ているほうの気持ちも揺れました。あげればきりがないのですが、別れた喜美子と八郎が10年以上ぶりに再会して、「お久しぶりです」と敬語で会話をするシーン(110話、2月11日放送)。あのぎこちなさが心に残っています。
水橋 実は私としては、もう少しドライなシーンのつもりだったんです。喜美子も40歳過ぎてますからね、大学を卒業するという大きな息子もいて。年を重ねて、もう若い頃とは違う。お互いへの想いは以前とは違うつもりで書きました。だからこそ敬語で挨拶するという。でも、演じているほうはつい先日まで若い夫婦をやってたんです。いきなり年をとった別れた夫婦をやるには気持ちがついていきませんよね。

そこに至る前も、戸田さんと松下さんは自分たちの経験したことのない未知の世界へ突入してたんですけど、あの再会シーンがある意味、さらなる次の未知の世界への始まりというか。大きかったんじゃないかな。難しいだろうなあと思って、あのシーンは気になって、スタジオに見に行きました。そんなことしたのは後にも先にもそのシーンだけです。思えば、あの日ですかね、あぁもう私だけじゃなくて、みんなで作ってきたんだなと実感させられたのは……。戸田さんの喜美子から「喜美子はそうなんだね、そんな表情になるんだね」とこっちが知るというか。松下さんの八郎も「喜美子への好きがまだまだこぼれてる」と感じさせられましたし。お2人と演出家の手腕で、なんともいえない微妙な、心に残るシーンにしていただいたと思ってます。

「スカーレット」脚本家・水橋文美江が明かす、八郎「僕にとって喜美子は女や」発言の“本当の意味”

脚本家・水橋文美江さんインタビュー#2

ついに最終回を迎えたNHK連続テレビ小説「スカーレット」は、主人公の川原喜美子(戸田恵梨香)が陶芸家になるまでの道のりを描くと同時に、同じく陶芸家の夫・八郎(松下洸平)との「同業者夫婦」の物語でもあった。2人のすれ違い、衝撃的だった八郎の「僕にとって喜美子は女や」発言をとことん描いた理由について、脚本家の水橋文美江さんに伺った。(全3回の2回目。#1、#3へ)

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