とても短いお話〜Twitter小説コレクション〜

以前書いたツイノベの中から、できるだけSFとギャグ要素のないものをまとめてみました。
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おーさん @osayas811

見るからに中流階級の家だ。大した獲物はなさそうだが仕方ない。住人が帰ってくる前に仕事を終えなければ。前にも入ったことのある家なのか、どこか懐かしい感じがする。まずい、住人が帰ってきた。こうなったらナイフで脅して……。「お母さん、大変、早く来て!10年ぶりにお父さんが帰ってきた!」

2013-04-14 03:30:49
おーさん @osayas811

きのう君の夢を見たよ。あの頃と同じ笑顔で僕の隣にいた。抱きしめようとしたら、かき消すようにいなくなって、目が覚めたらいつものひとりきりの部屋だった。もう君には二度と会えないことを思い出して、涙が止まらなかった。そんな夢を今見てたんだ、君のあたたかな膝の上で。ほんとだぞ。笑うなよ。

2013-04-15 01:23:57
おーさん @osayas811

窓辺のテーブル。あの人の笑い声。笑顔の先に私の知らない女性。二人には私の姿は見えない。声さえも届かない。あの人に私の最後の気持ちを伝えたい。でもどうやって?そのとき、風に乗って私の好きなショパンが流れてきた。あの人がふと、眼差しを遠くに向けた。ありがとう、神様。すぐにまいります。

2013-04-17 16:07:01
おーさん @osayas811

僕は小学校の廊下にいた。授業が終わり、教室から高木先生が出てきた。「田中、よく来たな」男勝りな口調は昔のままだ。だけど先生は先月亡くなったはず。「仕事が大変なんだろ?たまには息抜きに来いよ」「でも先生、ここは僕が来てもいい場所なんですか?」先生は笑顔でうなずくと廊下の奥に消えた。

2013-04-18 10:24:50
おーさん @osayas811

あの日僕は名刺を手に、喫茶店で顧客を待っていた。そのとき隣のテーブルで君が小さな紙を落とした。思わずそれを拾う僕。ただそれだけの出会い。お互い名乗ることもなかった。でも今、僕の隣には君がいる。僕もバカだな。君の買い物メモと間違えて、自分の名刺を渡しちゃうなんて。 #twnovel

2013-04-20 19:04:47
おーさん @osayas811

「どうして月は形を変えるの?」と聞くと、「地球の影のせいだよ」。父の言葉は僕に科学の心を教えてくれた。父が倒れたと聞き、病院に駆けつけた。ベッドで目覚めた父は「凄い美女がいたぞ。あれが天国か?」。「父さんらしくないな」と笑うと、科学者は少年のような笑顔を見せた。 #twnovel

2013-04-21 20:05:31
おーさん @osayas811

誰もいない園庭で、男の子が地面に絵を描いていた。夕日が頬を赤く染める。「これで全員ね」「まだいますよ。あそこに」僕が指差した先に、もう子どもの姿はない。「初日で疲れた?でも、さすが男の先生ね」僕はあの子が誰か思い出していた。「母さんのお迎え、いつも最後だったな」 #twnovel

2013-05-02 21:57:08
おーさん @osayas811

閉園後の遊園地を取材した。「私も子供の頃、ここで遊んだんですよ」と案内の女性スタッフが言う。「僕も昔、ここで友達と観覧車に乗る約束をしたんです。でもその子が直に引越したから、約束は果たせなかった」「やっぱり憶えていてくれたのね」僕の目の前で、観覧車が動き出した。 #twnovel

2013-05-05 19:27:43
おーさん @osayas811

小学生の頃だ。自分が人間でないと知ったのは。体育はいつも見学。一年の半分は白い建物で過ごす。そう、僕は天使。もうすぐ空に帰る。……目を開けると笑顔が見えた。「手術がうまくいったのよ。少しずつ運動もできるようになるって」母さんが喜ぶなら、人間になるのも悪くないか。 #twnovel

2013-05-05 23:34:19
おーさん @osayas811

君がいつも降りる駅で降りてみる。駅前にファミレス。客は親子連れと学生ばかり。電車で見かけるだけの人とこの店で出会えるなんて、そんな奇跡は起こるわけがない。そのとき、「今日は早いね。一緒に帰ろう」ウエイトレス姿の君が笑う。半年前のあの日から、僕は奇跡を信じている。 #twnovel

2013-05-06 15:07:51
おーさん @osayas811

赤い糸を拾った。これって運命の人と小指同士をつないでいるアレか。とりあえず丸めてポケットに入れる。道で探し物をする少女に出会った。「赤い糸がほどけちゃったの」「これかな?」「ありがとう」立ち去ろうとした僕の小指に何かが巻きつく。振り向くと少女の熱い視線があった。 #twnovel

2013-05-07 13:28:03
おーさん @osayas811

病院の廊下は静まり返り、自分の胸の鼓動が聞こえた。看護師の案内で奥に進むと、光の溢れる部屋に出た。大きなガラス窓の向こうに並ぶ小さなベッド。そこで初めて君を見た。妻の声で我に返る。ドレスの君が笑っている。いや、泣いている。急に目の前がぼやけて君が見えなくなった。 #twnovel

2013-05-07 20:39:46
おーさん @osayas811

歓声が飛び交う小学校の運動会。一組の夫婦が校庭の片隅にいた。彼らの子どもは競技の場にはいない。先月事故で亡くなったのだ。ふたりは娘が出るはずだった運動会を見にきている。徒競走が終わった。「愛美がんばったな」「来年は2年生だもんね」夫婦は囁きあうと校庭を後にした。 #twnovel

2013-05-07 21:00:10
おーさん @osayas811

知らない駅で降りてみた。外は雨。傘がない。傘を2本持った少女が出口にたたずんでいる。私を見ると傘を差し出した。「いいのかい、誰かのお迎えだろう?」すると少女の目から涙がこぼれた。「必ず帰ってくると信じて、毎日迎えに来ていたの。記憶が戻るまで家にいてよ、お父さん」 #twnovel

2013-05-08 13:09:22
おーさん @osayas811

姪を連れて街に出かけた。幼い姪は、高いビルを見上げてにこにこ笑っている。理由を姉に聞いてみた。「あの人が元気だった頃、私がこの子に言ったの。パパはノッポだからビルみたいだねって」そして声をつまらせる。少女が亡き父の面影を見た都会のビルに、今日も夕陽が沈んでいく。 #twnovel

2013-05-09 14:10:04
おーさん @osayas811

転校初日、鉛筆を貸してくれた男子がいた。「ありがとう」私が言うと、「ありがとうは……」照れたようにそっぽを向いて何か呟いた。今朝、駅で私のスマホを拾ってくれた人。お礼を言う私にそっぽを向いて、「ありがとうなら芋虫はたち」君はそう言ったのね。10年前のあのときも。 #twnovel

2013-05-09 22:41:04
おーさん @osayas811

未来に行ける観覧車がある。ゴンドラが昇ると未来に時を進み、頂点を過ぎるとまた現在に戻ってくる。ゴンドラから見る未来の景色は人それぞれ。希望を見る人、絶望を見る人。今日も少女がゴンドラに乗った。この子が笑顔で降りられますようにと祈り、僕は運転台のスイッチを押した。 #twnovel

2013-05-09 23:36:07
おーさん @osayas811

教室の窓が激しく唸る。私は彼女に上履きを渡す。ごみ箱で見つけたことは言わない。震える肩を抱いたりもしない。かつて私もそうだったから。それに私は知っている。この苦しみはいつか終わる。それまではただ息を殺して、通り過ぎるのを待つだけだ。窓ガラスを叩く春の嵐のように。 #twnovel

2013-05-13 14:46:23
おーさん @osayas811

子どもを誘拐してしまった。「早く家に帰せ」「すぐ帰すよ。君と遊んだらね」「てか、お前誰だ?」「ママの友達だよ」「友達でも犯罪だぞ」「わかってる。後で自首するよ。でも君、本当は俺の子……」「何だよ」「いや、もう少しおしとやかにしたら?君は女の子なんだから」「嘘!」 #twnovel

2013-05-14 02:35:50
おーさん @osayas811

橋の途中に少女が立っていた。この橋を渡ると大人になってしまう。それが嫌で渡れないと言う。「あの夕日、大人はみんなキレイって言うけど、私は違う。お熱であんなにお顔が赤くなって、かわいそう。こんな気持ち、大人になったら忘れちゃうから」そして太陽のような笑顔を見せた。 #twnovel

2013-05-14 15:00:07
おーさん @osayas811

私が土手で草花を摘んでいると、知らない子が声をかけてきた。「その花どうするの?」「押し花にするの」私はその子に、家にある押し花を明日見せてあげると言った。そしてその約束をすっかり忘れたのだ。あの土手を通るたび、今でもあの子を思い出す。もう20年も経つというのに。 #twnovel

2013-05-15 15:57:09
おーさん @osayas811

小学校の夢を見るときに、必ず渡り廊下が出てくるのは何か理由があるのだろうか。校舎の中でも外でもない場所。床でも地面でもない、歩くたびに軋む板の感触。それが子供心に不安を感じさせたのか。いや、そうではない。運動の苦手な僕にとって、体育館に続く憂鬱な道だったからだ。 #twnovel

2013-05-20 20:11:21
おーさん @osayas811

毎朝電車で見かける女性がいた。学生らしい。ところが突然姿を見なくなった。就職して、乗る電車が変わったのか。毎日の通勤が急に色あせたものになった。そんなある日、電車に乗り込む彼女の姿を見かけた。「出発進行!」澄んだ声がホームに響く。運転士の研修期間が終わったのだ。 #twnovel

2013-05-24 21:33:21
おーさん @osayas811

「大きくなったね」と彼女が言う。「だって明日結婚するんだもん」私が答えると、「6月の花嫁は幸せになれるってホント?」「ホントよ。だってもう幸せだもの」私の返事に、彼女は笑って赤いスカートを翻した。幼かった私の頭上で雨粒を弾いてくれたあの頃のように。 #雨傘の行方 #twnovel

2013-06-02 16:21:03
おーさん @osayas811

「こちらがのど仏。まるで仏様が合掌しているようでしょう?」火葬場の係員はそう言って、きれいに残った第二頸椎を見せる。人がもう人の形をしていない。その現実を目の当たりにすることが、遺された者には救いになるのだろう。骨壷に鎮座したのど仏が、微かに笑ったように見えた。 #twnovel

2013-06-04 00:12:18