哲学院生のアライさんによる#新型コロナウイルスの哲学話(全3回)

哲学院生のアライさんによる哲学話 - Togetter https://togetter.com/li/1416702 からの抜粋なのだ!
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哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

哲学話㉝ ①【感染した人の行動を制限していいの?】 今回は感染症対策における制限と人権や権利との対立を扱った生命倫理・医療倫理に関する論文を紹介するのだ!この論文は2009年の新型インフルエンザ流行を念頭に置いているけど、#新型コロナウイルス にも共通する議論がいろいろ出てくるのだ! pic.twitter.com/YskyadMg2J

2020-03-03 10:14:39
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②【文献・目次】 大北全俊「感染症の拡大を防止することと個人の権利を制限すること : インフルエンザ対策などにみられる倫理的な問題について」、『生命倫理』20巻1号、2010年、94-101頁 jstage.jst.go.jp/article/jabedi… ※無料 ③―④全体と個人の対立 ⑤―⑨一致 ⑩―⑫均衡 ⑬―⑰公的な正当化

2020-03-03 10:14:39
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③【NPI】 この論文では、新型の感染症などが生じた場合に人々が直面する様々な倫理的な問題の中でも、特に初期段階の「非医療的な介入(nonpharmaceutical interventions(NPI))」について扱っているのだ。具体例なNPIは調査・通告・追跡・隔離・検疫・学校閉鎖・集会の禁止・交通制限などなのだ。

2020-03-03 10:14:40
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④【全体と個人の対立】 感染拡大を防ぐ様々なNPIにおいては、 「common/public good」と「個人の権利・利益」の緊張関係 が問題になるけれど、これに対しては ・両者の一致を求める ・両者の均衡を求める ・透明性を求める といった様々な立場があるのだ。

2020-03-03 10:14:40
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⑤【一致1】 全体の利益と個人の権利の一致を求める立場にはHIV感染症対策における「例外主義」があるのだ。HIVの場合、通告・追跡をすると感染者が検査を忌避してしまうため、例外的に「プライバシーの保護」を徹底する方がいいという考えなのだ。でも個人の自発性だけでは新型感染症を防げないのだ。

2020-03-03 10:14:40
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⑥【一致2-1】 最近よく問題にされているのは、そもそもこれまで医療倫理・生命倫理で尊重されてきた「個人」の自律(autonomy)は、合理的な判断や要請に協力する個人像を前提としているけど、それはこうした「公衆衛生の倫理」の分野にはそぐわないのではないか、という議論なのだ。

2020-03-03 10:14:41
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⑦【一致2-2】 Francisらはこの自律を<自分の行為が他者に与える影響を判断しうる個人による合理的な選択>と捉え、他者への影響を配慮しない選択を制限しても自律の侵害にはならないと考えたのだ。でもこれは「個人への干渉の理論的根拠」を示すだけで具体的な対策の正当性の是非を問えてないのだ。

2020-03-03 10:14:41
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⑧【一致3】 ほかには、個々人の(自発的な)感染予防の強化で社会全体での予防を実現する、と考える立場があるのだ。日本のいわゆる感染症新法では、早期治療の積み重ねによる予防に重点を置いているのだ。隔離・収容よりも情報公開、国民の理解・協力を求めしっかり説明していくことが大事なのだ。 pic.twitter.com/amQtWEFvOi

2020-03-03 10:14:42
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⑨【一致の限界】 しかし、いずれにせよ「理解・協力してもらう」といった仕方で目線が施策者側のものなら、個々人がcommon/public goodの保全のための「強制的措置の対象」となっている感じがするし、もし「服従しない人は理解が足りない」、「協力して当然」という考えにつながるならやばいのだ。 pic.twitter.com/UcK1ISS7Ni

2020-03-03 10:14:42
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⑩【均衡】 個人と全体の「均衡」を求めるChildressらは「施策によって影響が生じる諸価値」を特定し、その解決のための5つの「正当化の条件(有効性・均衡性・必要性・最低限の侵害・公的な正当化)」を挙げているのだ。 pic.twitter.com/9YxZml87Dj

2020-03-03 10:14:43
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⑪【均衡2】 しかし、「(施策の)科学的根拠づけには不確実性が伴う」場合がよくあるし、隔離や学校閉鎖がどこまで有効・均衡・必要なのかわからないことも多いのだ。また影響を受ける諸価値を明確にすることも難しいのだ。たとえばプライバシーへの干渉の影響力は本人でないとよくわからないのだ。 pic.twitter.com/iOxkab9qs2

2020-03-03 10:14:43
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⑫【均衡の限界】 そうすると、有効性・均衡性・必要性・最低限の侵害の四つは不確実性や判断の難しさから、これらだけで施策の実施を決めるのは「倫理的な配慮として不十分」と言わざるを得ないのだ。それでは残る「公的な正当化」はどうなのだ?この条件はほかの四つと質的に異なるのだ。

2020-03-03 10:14:44
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⑬【公的な正当化】 「公的な正当化」は正当化の条件ではなく、正当化の検討自体の条件を問うメタな条件なのだ。Childressらは施策によって諸価値を侵害された当事者に対して、当局は「十分な説明・正当化を公的にする責任」があると考えたのだ。つまり施策決定過程の「透明性」が求められるのだ。

2020-03-03 10:14:44
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑭【透明性】 実際、SARSや新型インフルエンザを踏まえた倫理的なガイドラインには施策決定の根拠やプロセスの透明性が重要であると書いてあるのだ。その理由は、市民に対して「敬意」をもって対応する必要があるからなのだ。これは当局の信頼の維持+市民による監視という点でも不可欠なのだ。

2020-03-03 10:14:44
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⑮【当事者を交えた吟味】 また、⑪にあるように個人への侵害がどの程度当事者にとって重要なのかは第三者にはわからないのだから、交通機関やプライバシーなどで影響を受ける「当事者」を交えた形での施策の吟味が不可欠なのだ。 pic.twitter.com/Lf3hISzi3J

2020-03-03 10:14:45
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⑯【意見聴取】 また、施策の影響を受けた個々人の状況や考えを把握するために、Gostinらは「公正で独立した第三者機関による意見聴取の必要性」を訴えているのだ。さらに、権利侵害を受けた個人に対する資金的負担の免除など「社会の責任」も重要なのだ。

2020-03-03 10:14:45
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑰【社会の責任】 個人が全体の利益のために服従したのなら、利益を得た社会全体が、そこで個人が被った不利益に対して補償すべきということなのだ。そのためにも、個々人の声や被った不利益を明確にすること、もしくは事前に当事者の声を含めて施策を決定することは重要なのだ。 pic.twitter.com/wtwTKvRhkE

2020-03-03 10:14:46
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⑱【まとめ】 感染症拡大を防ぐための隔離や閉鎖は、全体の利益と個人の権利の対立を生むけど、両者の一致や均衡だけでは解決されないのだ。そこで市民に公平で敬意ある対応をするための「公的な正当化」や透明性、市民の監視、「侵害を受ける個人への社会の責任の明確化」が必要になってくるのだ。

2020-03-03 10:14:46
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

哲学話㉝【感染した人の行動を制限していいの?】を追加したのだ! 哲学院生のアライさんによる哲学話 - Togetter togetter.com/li/1416702 @togetter_jpから

2020-03-03 18:07:13
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

哲学話㉝ ①【「患者の権利」って何?】 #新型コロナウイルス でいろいろ大変だけれど、今回は「患者の権利」についての論稿を紹介するのだ。ここでは、「患者の権利」が登場した歴史や、「患者の権利」の中身や課題、そして最近議論されている「患者の責任・責務」が整理されているのだ。 pic.twitter.com/cNo8Yxyjsq

2020-03-15 10:39:20
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②【文献】 勝井恵子「患者の権利:その成立史と今日の課題」、『権利の哲学入門』、社会評論社、2017年、272-286頁 amazon.co.jp/dp/4784515585/… @amazonJPさんから ➂―⑪患者の権利の歴史 ⑫―⑯患者の権利の中身・課題 ⑰―⑲患者の責務と医療者との協働

2020-03-15 10:39:20
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③【医療と人】 医療は古来からずっとあったものだし、今日でみんなお世話になっているものなのだ。生まれたり死んだりするときも含めて、誰もが医療にお世話になるのだ。でもそのとき「患者の権利」はどうなっているのだ?これは1970年代にやっと確立されたのだ。

2020-03-15 10:39:21
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

④【古代1】 古代ギリシアでは医師の「よさ」は「医療技術の高さ」で判断されたのだ。そんな中、医学の父とされるヒポクラテスが書いたとされる「ヒポクラテスの誓い」はかなり有名で、「病人の利益になるようにする」・「致死的な薬を与えない」・「中絶治療をしない」などが宣言されていたのだ。 pic.twitter.com/STzjzNc9xQ

2020-03-15 10:39:21
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哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑤【古代2】 しかし、この誓いと現代で重視されるビーチャム&チルドレスの「医療倫理の四原則」を比べると、ヒポクラテスの誓いには「患者の自律」に関する言及がないことがわかるのだ。誓いには、患者の主張ではなく、あくまで医療者の側の最善の判断を基に治療を施すことが前提とされていたのだ。 pic.twitter.com/VbV0VAeqjA

2020-03-15 10:39:22
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