映画『ボーダーライン』作中における「フアレス・シークエンス」の構成を分析&解説(ネタバレ有り)

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品『ボーダーライン』についてのレビューです。 麻薬戦争を描いた重厚な犯罪映画として評価の高い本作でも特に秀逸な「フアレス・シークエンス」について分析、解説を試みました。  ※大いにネタバレを含みますので未見の方は注意
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狂猫病 @kyobyobyo2

高めきった緊張感は、非常に短い銃撃シーンで爆発させられる 後の先をとって襲撃者たちをあっという間に包囲してしまうデルタ隊員とアレハンドロたちだが、ここでもケイトは取り残されている しかも愚かにも「車を出ろ」というアレハンドロの忠告を無視までする

2020-03-29 01:35:00
狂猫病 @kyobyobyo2

登場人物によるこうした「愚行」は、物語前半にはつきものだ とりわけ主人公は愚行を繰り返す過程で成長し、周囲の認識を超えた結果を示す必要がある このシークエンスのケイトの場合には、アレハンドロから与えられた「メキシコ警察に気をつけろ」という忠告に忠実であったことがポイントだ

2020-03-29 01:40:49
狂猫病 @kyobyobyo2

無力であった主人公ケイトが危機を間一髪で脱し、襲撃者へしっかりと反撃したことで観客は安堵する 非常にささやかなものだが、逆転の快感だ 主人公の無力さをアピールするためのシークエンスであったとしても、こうした快感を観客に与えなければ感情移入を持続させるのは難しくなるだろう

2020-03-29 01:44:51
狂猫病 @kyobyobyo2

凄惨な銃撃シーンは、走り去る車列と襲撃者の死体、そしてそれを見つめるフアレス市民のどこか冷めた好奇の視線で幕を下ろす シークエンスのラストは、非合法活動に自分を従事させたマットへケイトが抗議するシーンだ

2020-03-29 01:55:13
狂猫病 @kyobyobyo2

この「フアレス・シークエンス」を通じて、観客には作品の方向性が明確になっている それは前述したように、法の執行者たる主人公の「善悪」や「モラル」にまつわる葛藤であり、ときに味方までを疑わなければならないという「地獄」だ

2020-03-29 02:01:02
狂猫病 @kyobyobyo2

繰り返すが、「フアレス・シークエンス」が優秀なのはこうしたテーマを言葉をほとんど使わずに、「アクション」として観客に呈示していることだ もちろんこれは監督や脚本の手腕もさることながら、撮影監督のロジャー・ディーキンス、音楽の故ヨハン・ヨハンソンによる力も大きいだろう

2020-03-29 02:05:20
狂猫病 @kyobyobyo2

映画は一人の人間の脳内にあるイメージがそのまま投影されるものではなく、あくまでも多人数による総合芸術だ 役者の演技も含めて、作品にはときに偶然すべてが噛み合ったようなシーンやシークエンスが表れてくる 「フアレス・シークエンス」こそ、まさにそうした「奇跡」の好例であると言えるだろう

2020-03-29 02:14:07