さえぼう先生が解説する!パトリック・スチュワート朗読シェイクスピア『ソネット集』。
#PSSonnets それで、ここで問題なのが5行目の'niggard'です。これ、「けち」という意味なのですが現代の英語ではほぼ死語で、なぜかということは以前アルクのミニ連載に書いたので、この記事の最後のところを参照してください。 ej.alc.co.jp/entry/20200221…
2020-03-26 20:41:05#PSSonnets 4番は全体的には、美というのは自然から借りたものなんだから投資してもうけないといけない(→つまり子供を作れ)というふうに、美を資産にたとえる詩です。ただ、この詩は金の話に下ネタがからんでおり、9行目がきわめて気の利いた下ネタです。(次ツイートに続く)
2020-03-26 20:43:019行目は'having traffic with thyself alone'「自分自身とだけ取引する」ことへの批判なんですが、これは詩を捧げられた美しい若者が「オナニーしすぎだろ」ということを言っています。皆さんもおうちにこもってつまらない時は自慰行為を「自分自身と取引する」などという優雅な言葉で… #PSSonnets
2020-03-26 20:45:07ここまで1~4がひたすらパトロンの若者に子作りをすすめる詩だったのですが、ソネットは126番までが美しき若者について、その後152番までが「黒い女」という魅力的な女について、153-154はなんかよくわかんないやつです。17番まではやたら結婚しろ、子供を作れ、という内容です。 #PSSonnets
2020-03-26 20:51:11ソネットというのは多くの場合、金髪の美女について書くんですが、シェイクスピアのソネットは美男子と黒髪の女についてで、そういうものは皆無とは言わないまでもわりとへそまがりな内容のソネットだと言われています。 #PSSonnets
2020-03-26 21:00:08パトリック・スチュワートがソネットを読んでくれてそれについて解説するって、研究者としてはこの疫病のご時世に心が洗われるようです。『十二夜』でオーシーノが初めてオリヴィアを見た時「病に満ちた空気が清められるようだった」と言ってますが、美しいものは苦痛を和らげるから。 #PSSonnets
2020-03-26 21:09:48Sonnet 5 is too hard. Here’s number 6. #ASonnetADay pic.twitter.com/WfPppZxc8Z
2020-03-27 06:43:54#PSSonnets パトリック・スチュワート、ソネット5番がむずすぎるからということでとばして6番になりました。なんで5番がむずいのかという話ですが、これいきなり最初からhoursを2音節で読むとか、なんかカニエ・ウェストが書いたんかみたいな韻律なので、読みづらいんだと思います。
2020-03-27 16:51:43#PSSonnets あと、内容も5番は感染症流行ってる時に読むにはあんまりふさわしくないかもしれません。完全に私の独断なので真面目に受け取って頂きたくないのですが、ソネット5番はたぶんスコーピオンズの「ヴァージン・キラー」と同じテーマを扱ってると思います。つまり、無垢な美を殺す時の暴虐。
2020-03-27 17:03:15#PSSonnets えーっと私がカニエ・ウェストやスコーピオンズに深入りする前に本日のパトリック・スチュワートが読んだソネットである6番に行きますが、5番と6番は一対で、前者が時の暴虐にやられる悲惨、6番が時にあらがう解決策の提示です。
2020-03-27 17:10:39#PSSonnets 6番で重要なのは金貸しと蒸留の比喩です。金貸しの比喩は4番でも出ていましたが、美を増やすため投資する(結婚して子供を作る)というのは悪い高利貸し行為ではなく、たとえ10倍になるくらいもうけた(10人子供ができた)としても良い行為だ、と言っています。
2020-03-27 17:15:15#PSSonnets 「もし君の10人の子が君の姿を10倍増やしてくれるなら、君は10倍幸せになる」(9-10)と言っていて、投資の利子として子供が増える感覚です。同じ姿の子供が10人って、なんかおそ松くんみたいですが…(あれは6人か)
2020-03-27 17:17:46#PSSonnets もうひとつ大事なのが香水の蒸留の比喩です。6番は「冬の荒れた手が君の夏を台なしにする前に」(1-2)で始まるんですが、その後に"vial"をかぐわしくしろ、と言っていて、vialは香水の壜ですが、ここでは比喩的に女体を表します。つまり美男のうちに女性をみごもらせろと言っています。
2020-03-27 17:21:05#PSSonnets この詩の最後の2行を読む時にパトリック・スチュワートが何か考えているような雰囲気でにっこりしていますが、最後の2行は現在の状況にふさわしいメッセージです。「意固地になっちゃダメだ、というのも君は/死に征服され、ウジ虫を相続人にするにはあまりに美しすぎる」。
2020-03-27 17:25:21#PSSonnets 突然ウジ虫が出てくるのは、土葬でお墓に虫がわくからです。どんなに美しい人でも死んだら気持ち悪い虫に食われるエサになるんだというのは、この頃の詩やお芝居によく出てくるモチーフです。
2020-03-27 17:26:55#PSSonnets 最後の2行の「意固地になっちゃダメだ、というのも君は/死に征服され、ウジ虫を相続人にするにはあまりに美しすぎる」というのは詩人が若者に言いたかったこと、パトリック・スチュワートが疫病の中、朗読を聞いている若い人に言いたいことでしょうし、私が学生みんなに言いたいことです。
2020-03-27 17:28:50#jawp #PSSonnets どうせならパトリック・スチュワートにあわせて、ウィキソースに一日一本シェイクスピアのソネットを訳せばいいのでは…と思ったんだけど、絶対挫折する
2020-03-27 17:49:05#PSSonnets そういえばこれでもうひとつ思ったんですが、パトリック・スチュワートのような達人でもソネット5番の韻律や読み方を難しく感じてるっていう話、これ、劇団で芝居をやっている時であれば解決ができるんだと思うんですよ。演出家や共演者に相談してどういう読み方がいいか考えられるから。 twitter.com/Cristoforou/st…
2020-03-27 20:09:04#PSSonnets パトリック・スチュワートのソネット7番。このソネットはわりと単純で、あとけっこうこの時代によくあるモチーフを用いていると思います。太陽が昇る時は輝いているけど沈む時は光が衰える、だから君も衰える前に別にson (「息子」ですがsun「太陽」に引っかけてる)を作れ、と。
2020-03-28 20:28:33#PSSonnets 古代神話で、太陽神は馬車に乗っていて、昼まではのぼり、その後下るという考えがあったのですが、この詩はその神話を用いています。写真はこの詩に出てくる古典地中海系じゃなく北欧の遺物「トロンハイムの太陽の馬車」ですが、太陽神が馬車に乗るという神話は広く分布してるようです。 pic.twitter.com/ePpArZXIhx
2020-03-28 20:35:29#PSSonnets あと、この太陽の馬車を示す"car"っていう言葉が出てきてパトリック・スチュワートはこれが英語の初めての用例ではと言ってますが、OEDによるとこれより古いものがあります。
2020-03-28 20:36:43意味のわからないもやっとした文を「ポエム」とか蔑称で呼んでいるみなさん、 #ASonnetADay を見て下さい。本物のポエムを聞かせてあげますよ。
2020-03-28 22:55:41A Saturday sonnet. Number 8. #ASonnetADay pic.twitter.com/YP7zJfVwJH
2020-03-29 04:36:40#PSSonnets パトリック・スチュワートの読むソネット7番、この詩のテーマは音楽の調和です。おそらくはリュートや歌を想定していると思われ、悲しい音楽の話が出てきているので、リュートにあわせたジョン・ダウランド「流れよ、わが涙」をまずお聞き下さい。 youtube.com/watch?v=u3clX2…
2020-03-29 10:58:02