北野勇作さんの【ほぼ百字小説】その3

【ほぼ百字小説】が2000を超えました。まとめも3つめです。 2020年6月4日にハヤカワ文庫JAで『100文字SF』がでます。 https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014556/date_2020_06/page1/order/
3
北野勇作 『100文字SF』発売中! @yuusakukitano

【ほぼ百字小説】(2001) 黒い蒲鉾板は珍しい。それに大きい。支えもないのにいちばん小さい面を下に自立している。こうして見上げても、形以外はまったく蒲鉾板らしくない。なのになぜ、蒲鉾板だとわかったのか。さっき手を触れたせいかな。

2020-04-01 22:08:55
北野勇作 『100文字SF』発売中! @yuusakukitano

というわけで、エイプリルフールにふさわしく、これが2001個目の嘘。

2020-04-01 22:11:13
北野勇作 『100文字SF』発売中! @yuusakukitano

まあ2001個も書いたのはなかなか偉いではないか。始めたときは、そんなことが自分にできるとは思っていなかったし。いちおうめでたいよな。めでたい。

2020-04-02 00:49:08
北野勇作 『100文字SF』発売中! @yuusakukitano

ま、次の石を目指そう。3000は行ける気がするんだよな、今は。

2020-04-02 01:25:11
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【ほぼ百字小説】(2002) 何度も段取りを確認する。暗闇で前の者と入れ替わって位置についたり、自分は去って次の者に場所を譲る、そのための動作。舞台では、見えるところで行うこと以上にそっちが重要だったりする。いや、現実でも同じか。

2020-04-02 20:52:44
北野勇作 『100文字SF』発売中! @yuusakukitano

【ほぼ百字小説】(2003) 噂のマスクマン参上。マスクマンはその特徴や能力にふさわしい名で呼ばれたり自ら名乗ったりすることが多く、大抵は特徴や能力を表す単語の後にマスクが付く。そう、彼の名はマスクマスク。マスクを二枚付けている。

2020-04-02 21:19:34
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【ほぼ百字小説】(2004) 路地の向こうの夜空にそびえるいちばん高いビル。その壁面がいつもと違っていて二度見。人間で言えば腹のあたりに光で星の形が大きく描かれている。子供の頃に大好きだった漫画を思い出してつぶやいた。ドロンパか。

2020-04-03 22:04:01
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【ほぼ百字小説】(2005) 昨夜見たあのビルが気になって、ビルの見える路地に行ってみたが、朝の光の中でビルはいつもと変わりなく、だがいちどそんなふうに見てしまった今では、星を無くして途方にくれているあのオバケにしか見えないのだ。

2020-04-03 22:10:50
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【ほぼ百字小説】(2006) 物干しの盥の水底で冬眠していた亀、このあいだやっと起きてきて、盥の外で眠そうに甲羅を干したりしていたが、寒い日が何日か続いたと思ったら、また水底に沈んで眠ってしまった。おかしな夢でも見たと思ったかな。

2020-04-04 13:02:45
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【ほぼ百字小説】(2007) 花見というか、ただ花だけを見に来たが、花の向こうに妙にひょろ高くてのっぺりしたお城が見える。なんだか頼りない記憶だけで描いた絵のようだ。これは狸に化かされているのではないか。すぐそこに動物園もあるし。

2020-04-04 15:12:46
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【ほぼ百字小説】(2008) そんなに嫌なら出ていけ、などと言っていた人物がいつのまにやらこっちの船に乗っていて、この間まで乗っていた船の悪口を言い出したのには呆れるしかないが、どうせまた、それが嫌なら出ていけ、と言うんだろうな。

2020-04-04 21:34:50
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【ほぼ百字小説】(2009) 昔のこれは、凱旋門の上にエッフェル塔を載せたような形だった。今もそのころの記憶は残っていて、展望台へと上ったつもりが間違えてそっちへ出てしまうことも。まあロープウェイにさえ乗らなければ戻ってこれるよ。

2020-04-05 14:59:11
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【ほぼ百字小説】(2010) 機械も夢を見るのだろうか、と機械に問われて、どう答えるべきなのかわからず困ったことを憶えてはいるのだが、それは本当にあったことではなく、だからたぶんこれが夢というものなのだろうと思っている、そんな夢。

2020-04-05 22:49:58
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【ほぼ百字小説】(2011) 明日中にも緊急事態宣言を出す予定の方向で調整中ですがどの方向になるかは現在関係各方面と大胆に協議中でありましてかつてない規模で躊躇なく方向を調整する予定でどの方向なのかは前に回って鰻に聞いてくれいっ。

2020-04-06 18:36:46
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【ほぼ百字小説】(2012) 折り畳まれたみたいな地形で、狭い範囲に小さな山や池や橋や石段、斜面の下には動物園や塔も見える。花見の時期にはいつも来て、谷折りや山折りの線の上を歩いて、花といっしょに折り畳まれる気分を楽しむ。今年も。

2020-04-06 22:05:55
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【ほぼ百字小説】(2013) しばらく家に閉じこもることにしたが、ずっと駅前の喫茶店で書いていたので調子が出ない。実際に行くかわりに頭の中でいつもの喫茶店までのいつもの道筋を歩いていると、なぜか途中から文章になってしまい、今ここ。

2020-04-07 18:47:27
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【ほぼ百字小説】(2014) 洗濯物を干していると点滅しない光が夕空をゆっくり動いていくのが見えた。一階にいる妻に、宇宙ステーションやっ、と声をかけるとスマートフォンを手に上がってきて動画を撮っている。なんだか未来の風景みたいだ。

2020-04-07 19:13:51
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【ほぼ百字小説】(2015) 緊急事態宣言が出る、ということで娘の高校の入学式も延期になってしまった不穏な春だが、冬眠していた亀は例年のように目覚めて、この気温ではまだ何も食べないのに、何を思ってかやたら密着してくるのも例年通り。

2020-04-07 20:32:41
北野勇作 『100文字SF』発売中! @yuusakukitano

【ほぼ百字小説】(2016) 路地を歩いていて塀の上の猫にお礼を言われたが、知らない猫だったし身に覚えもないから、きっと猫によくある人違いなのだろうと思う。お礼の言葉は、普通に「ありがとう」で、語尾に「にゃあ」はついてなかったな。

2020-04-08 15:39:53
北野勇作 『100文字SF』発売中! @yuusakukitano

これ、けっこうおもしろいんちゃうの、とか思う。結局こういうどうでもええことが書きたいんやろな、SFでもなんでも。

2020-04-08 15:53:03
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【ほぼ百字小説】(2017) あれよあれよとライブなどできない状況になって、思い起こすのはいろんな暗闇。暗闇をうろつきながら声に出して読むと、壁の硬さ天井の高さ、共鳴する点しない点、暗闇たちの個性が感じられる。また潜れますように。

2020-04-08 21:37:16
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【ほぼ百字小説】(2018) すっかり暖かくなった物干しで、今朝も亀は甲羅を干している。その上に影が落ちないよう気をつけて洗濯物を干す。じつに立派な甲羅。越してきた冬の数だけ年輪が刻まれている。いいなあ。せめて磨かせてくれないか。

2020-04-09 10:25:53
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【ほぼ百字小説】(2019) いつから高校に行けるのかなあ。さっぱり見当がつかんな。ずっとこのままかも。宙ぶらりんのままの娘と話す。なんだか時間が止まってるみたい。せっかく高校生になるんだから、時をかけるくらいしてほしいんだがな。

2020-04-09 21:11:32
北野勇作 『100文字SF』発売中! @yuusakukitano

娘ものはなぜか時間ものになるというのは、不思議なような当たり前なような、というあたりがおもしろい。

2020-04-09 21:17:06
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