実際の武術と映画における「殺陣」の融和性とは何か? 【実践リアリズムと見映えの殺陣を検証考察してみた話】

マーシャルアーツ映画について日々悶々と考えている事を言語化しました。
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惣流・ドルフ・ラングレン弐号機 @YZNlfuMP8Vbaaoj

いままで何本と格闘映画やチャンバラを主体とした剣戟映画を観てきたが、やはり実際の「武術」と映画に於ける見映えを重視した「殺陣」の融和性というのは作る側からしたら、とても難しく奥深い物だと改めて認識するばかりだ。

2020-04-05 04:40:29
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其は我々「観る」側としても何がリアリズム武術で、どれが見映えの殺陣かの判断も鑑識眼からなる視点がなければ、ハッキリとせず見分けもつかないであろう。 あくまで自分の独自の仕分け視点ではあるが、格闘アクション映画の中での「リアリズム」と「見映え」の系譜と其の違いを解体検証してみたい。

2020-04-05 04:49:10
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まず映画の中での、手足を使った徒手格闘に武術を織り込む事の意味は何か?と考えたらソレは「闘う術に長けたキャラクターを作る上での説得力を付与する為」に他ならない。 ただ手足を振り回す喧嘩ファイトと戦闘のプロでは無論、後者の方がリアリティある強さを印象付けられるだろう。

2020-04-05 04:56:21
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分かりやすい徒手格闘の進化の例では007シリーズがある。 初代ジェームズ・ボンドであるショーン・コネリーの戦闘スタイルは拳を振り回し取っ組み合うのが主であり、とてもシンプルな動作設計だ。 名勝負と云われている『ロシアより愛をこめて』での列車内格闘も武術的要素はほぼ無いと言える。 pic.twitter.com/kNZTt6Wasw

2020-04-05 05:22:25
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視覚的にハッキリと進化の差が判別出来るまでになったのは2006年の『カジノ・ロワイヤル』の格闘からだろう ボーンシリーズ以降という事もあり動作設計には実践スタイルな技を随所に織り込み、尚且つ洗練されたスピード技だけではない、コネリーボンド時代からある武骨なタフガイ・イメージをも残す pic.twitter.com/PqZ0TfCBAT

2020-04-05 05:43:18
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1995年の『ゴールデンアイ』の動作設計も実践技の描写が幾つかあり、なかなか良く出来ていていたのだが、まだ突出した見せ方では無く地味に見えてしまう段階ではあった。 ピアース・ブロスナンは歴代ボンドの中で一番動きが洗練されている様に思う。 pic.twitter.com/nvV9VwdxnM

2020-04-05 05:59:49
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2002年の『ダイ・アナザー・デイ』の序盤にはフェンシング勝負があるのだが、ハリウッドのキングオブ殺陣師、ボブ・アンダーソンが振付け指導しただけあって出来が良い。 実は『ロシアより』にもスタントで参加していたらしいが、やはりかつての欧米が得意としたのは格闘よりも剣術の表現だろう。 pic.twitter.com/q2j6xNMlAp

2020-04-05 06:11:10
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格闘表現の進化前の例外では『女王陛下の007』で二代目ボンドだったジョージ・レーゼンビーがいる。 其の戦闘スタイルは首締めからの解除方等、実践技とも言える独自の型が見られる。 武術を多少嗜んでいたレーゼンビーの格闘描写は初期007の中でも際立った物があった。 pic.twitter.com/PMtEsw0pRH

2020-04-05 06:30:56
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こうやって歴代007の戦闘描写を並べてみると比重としてはリアリズムの方向性が強い ボブ・アンダーソンがハリウッドで振り付けて来た剣術表現は別として初期~中期007の格闘表現の描写が喧嘩ファイトに似た形となっているのは、当時の欧米では見映えを重視した技術がまだ開拓されていなかったからだ。

2020-04-05 06:41:28
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尚且つ60年代までの欧州では優れた実用性のある武術の認知はボクシングとレスリング以外では殆ど浸透していなかった。 ソレ以外にぼんやりとイメージにあるのは、東洋のカラテとジュードーといった具合であったろう。

2020-04-05 07:14:31
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そんな中で007よりもずっと早くに格闘描写に説得力を持たせる為に武術技を取り入れたハリウッド映画が存在した 1962年の『影なき狙撃者』では工作員との突発的な戦闘でフランク・シナトラが空手の型を見せる 相手の背面に肘打ちを食らわせる等、ハリウッドでは最も古い実践リアリズムを追及した映画だ pic.twitter.com/3S8HSFYAAr

2020-04-05 07:24:51
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そして「見映えの殺陣」についての歴史と推移だが、今日では香港によるカンフー映画の格闘と武器戦闘が最も洗練されかつ派手というイメージがある だが007の時代の時点では中国、香港共に役者の動きや動作設計には見映えを殆ど備えていなかったと言っていい 中国映画も当初はリアリズム方式だったのだ

2020-04-05 08:04:36
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1949年から黄飛鴻を演じてきたクワン・タッヒンは中国武術の習得者で、主に南派少林拳と洪家拳の型を劇中で披露する 其の互いに繰り出す技に精度はあまり無く型を再現しただけで華麗さを意識した物ではない あくまで型のリアリズム表現であり実践戦闘を再現しようという類いの試みではなかったのだろう pic.twitter.com/Djokm4EH6b

2020-04-05 08:36:14
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後に続く60年代の香港武侠映画の剣劇に於ける殺陣でもソレは同様である。 立ち回りには進歩が見られ、型自体もやはり実践リアリズム的だが、ソコにはまだ見映えは存在しない。 一定のテンポを役者が演じ動く、振り付け臭さがまだ目立つ段階だ。 pic.twitter.com/w8BYJWWLZp

2020-04-05 08:50:25
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1970年のジミー・ウォング主演作の『吼えろ!ドラゴン立て!ジャガー』は香港初の格闘を主体としたカンフー映画とされているが、其の動作設計と技の精度はタッヒンの時代の中国カンフー映画とほぼ同じと言っていい。 合間のテンポはどれも似通った物であり『影なき狙撃者』の格闘とも類似していた。 pic.twitter.com/PPRC48iSkI

2020-04-05 09:05:45
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僅か一年後の1971年にはブルース・リーが『ドラゴン危機一発』でリアリズムの中に見映えを盛り込んだ画期的な動作設計を見せた。 テコンドーを用いた派手な見映えの蹴り技も今までには無かったのだが、突出なのは此の互いの手技による攻守のテンポの速さだ。 pic.twitter.com/EuEzifEyFO

2020-04-05 14:28:24
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相手の技を捌き抑えようとする、この上体の連続した手技の動きはトラッピングと呼ばれる高度な技術だ。 同時に相手の足を絡めとり下半身のバランスを崩そうとする技も、今までのカンフー映画では見られなかった実践リアリズムな描写である。 pic.twitter.com/OijzzmQcYx

2020-04-05 15:16:28
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ジークンドーに取り入れられたフィリピン武術カリのナイフを使用したトラッピングと比較したら其の共通項は一目瞭然だ この動きも画面映えしている様に見えて惚れ惚れもするのだが、興味の無い人から見たなら何だかよく分からない動きであろう つまりは見映えよりも、リアリズムに寄せた表現と言える pic.twitter.com/vLIEG8IfpY

2020-04-05 15:26:02
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ブルース・リーは中国映画で初めて俳優個人が魅せる特色ある動き、つまり見映えの殺陣を織り込んでみせ、更に今までは武術を見せる型の再現でしかなかったリアリズムをより実践的な表現にして魅せた。 だがアクション映画史に於いて、見映えの殺陣を意識して魅せたのはブルース・リーが最初では無い。

2020-04-05 20:54:31
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クワン・タッヒンの時代より遥か前、日本のサイレント期の時代劇はどの国よりも優れた見映えの殺陣を魅せる唯一無二の存在であった。 同時代のハリウッドや中国映画と比べても其の差は歴然であり舞踊から培った戦前の剣劇役者達の立ち回りは躍動的で、如何に派手に見えるかの工夫がなされていたのだ。

2020-04-05 21:11:18
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戦前の時代劇から活躍した七剣聖と謳われる阪東妻三郎が其の見映えの殺陣の開拓者だ バンツマが主演した『雄呂血』以前の殺陣は歌舞伎の延長であり、ワンアクション毎にカメラに向かい見得を切るというのが主流であった バンツマはソコに連続的動作を加える事で見映えの中にリアリティを盛り込んだのだ pic.twitter.com/zh2bx5vi9k

2020-04-05 21:24:37
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このリアリズムと見映えの先駆けである殺陣の様式をより派手な物として発展させたのが、同じく七剣聖である嵐寛寿郎だ。 鞍馬天狗で魅せたアラカンの殺陣は歌舞伎の見得に舞踊と剣術動作を組み合わせた物だ。 実践剣術よりも派手に動く其の立回りは、香港カンフーアクションに近い身体芸の域であった。 pic.twitter.com/snY3S4D62B

2020-04-06 01:00:18
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その後見映えの殺陣は様々な進化を遂げていき日本の時代劇が60年代のブルース・リーに影響を与えたのが勝新太郎の『座頭市』だ 居合いの技術は実践リアリズムに見えるが、この回転しながら斬ると同時に翻る様は見映えの誇張表現である リーが着目し魅了されたのは派手な見得とも言える"魅せる"技術だ pic.twitter.com/oozKnUbEya

2020-04-06 02:02:03
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反対に見映えが殆ど無い実践リアリズムの殺陣と言えば1954年の『七人の侍』で宮口精二が見せたこの動きだ。 当時殺陣と云えば東映の華麗な舞踊チャンバラが主流だった事に意趣を返し、どうリアルに見せるかに拘った動作設計だ。 体を一歩引いて腰を落として切る技はプロの様だが宮口には剣術経験は無い pic.twitter.com/bItd3zFPLq

2020-04-06 02:13:57
惣流・ドルフ・ラングレン弐号機 @YZNlfuMP8Vbaaoj

黒澤明の映画だと『用心棒』や『椿三十郎』など優れた動作設計の力により実践剣術を扱った殺陣の例外は幾つかあるが、基本時代劇の殺陣とは実践技よりも派手に魅せる見映えの体系で発展していった物だ。 構えや足運びの使い方等、舞踊式チャンバラな殺陣と実際の剣道では見た目の違いがかなり出る。 pic.twitter.com/u1sNRqnVIn

2020-04-06 02:49:51
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