山田正紀による連続テレビ小説『おひさま』解釈

怖いです. @anaryusisu
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山田正紀 @anaryusisu

我孫子さんが「容疑者X」についてミステリーの問題提起をなさったので私も同じようにNHK朝の連続テレビミステリー「おひさま」について考察したいと思います。「おひさま」がいかに先鋭的なミステリーであるかは全体として「信頼できない語り手」をテーマにしていることからもわかるでしょう(続き

2011-06-14 09:29:54
山田正紀 @anaryusisu

(2)若尾文子はたとえば東京での親友の生活を物語ります。また、自分が酔っぱらって寝ている間の他の人の会話を語ったりもします。彼女はそれをいかにして知りえたのか。不可解です。また現代でのヒロインは90に近い年齢のはずですがどう見ても若尾文子はその年齢のようには見えない。(続き)

2011-06-14 09:33:41
山田正紀 @anaryusisu

(3)なにより彼女の語る戦時中の男女たちの容貌が疑わしい。慢性的な栄養失調状態にあったはずの戦時中の彼らのいかに美女イケメンたちばかりであることか。ぶ男は死ねってか! いえ、失礼しました、つい激高してしまいました。そこに若尾文子の「歪曲された悪意」のようなものが感じられます(続き

2011-06-14 09:38:03
山田正紀 @anaryusisu

(4)ここで我々はまた、あのアガサ・クリスティが提唱した大命題、つまりミステリーの語り手は「どこまで信頼できるのか」という問題にたち帰ることになります。ここで演出上の技法を1つ、若尾文子の登場シーンは照明がベタにあたっていることにお気づきでしょうか。しわ隠し? 違います(続き)

2011-06-14 09:41:24
山田正紀 @anaryusisu

(5)若尾文子のシーンがベタに照明されているのは、けっしてしわ隠しなどではなく(だって物語設定上の彼女はすでに90歳になろうとしているのですよ。しわがないほうがおかしい)、彼女の表情の変化を隠すための演出上のテクニックではないでしょうか、つまり「信頼できない語り手」なのです(続き

2011-06-14 09:45:29
山田正紀 @anaryusisu

(6)それでは若尾文子が{信頼できない語り手」だとして彼女は何を隠そうとしているのでしょう。もちろん彼女が過去に犯した完全犯罪に他ならない。ここでまた「おひさま」は現代ミステリー最先端に重なることになります。つまり「犯人は誰か?」ではなく「誰が被害者なのか」という大命題に(続き

2011-06-14 09:49:02
山田正紀 @anaryusisu

(7)「おひさま」ではいったい誰が殺されたのか? 物語途中で何人もの人間が消えています。出征した兄、夫、名古屋に行った父、東京に消えた親友……ここで「おひさま」はイケメン美女の物語だということを想起していただきたい。イケメンは死なない美女は死なないそれでは誰が殺されたのか(続き

2011-06-14 09:54:12
山田正紀 @anaryusisu

(8)もう一人(正確には二人)物語途中で消えてしまった人間がいます、盲点ともいえるべき人たち。そうです。ヒロインの女学生時代の知り合い、飴屋夫婦です、あれほど親しかった彼らがヒロインの結婚式にも呼ばれなかった……それはすでに二人はこの世の人ではないことが暗示されているのです(続き

2011-06-14 09:59:11
山田正紀 @anaryusisu

(9)柄本某が演じている男はどうなのか、彼もまた出征し、しかもブ男ではないか、という疑問もおありでしょうが、彼は現代に登場しています、つまり彼は殺されていない、その意味では「おひさま」はフェアなミステリーを志向しているといえるでしょう(続き

2011-06-14 10:02:00
山田正紀 @anaryusisu

(10)「おひさま」はミステリーじゃないという異論もおありでしょうが一見ふつうドラマのようなのがさらなる最新ミステリーの成果だと申しあげてこのささやかなる論考を終わります。量子論的な「多世界解釈ミステリー」、そのためヒロインの名は「太陽の陽子(ようし)」なのです、ご静聴感謝します

2011-06-14 10:09:48
山田正紀 @anaryusisu

備考 重大なことを忘れていました。若尾文子は90才にしては若すぎるし、教師あがりとしては色っぽすぎる。もしかしたら「多世界解釈ミステリー」なのではなく「多世界解釈SF」なのかもしれない。だとしたらSF評論賞に応募できるのではないか、小説家にして評論家、第二の笠井潔も夢ではない!

2011-06-14 10:31:39