N_Ozawa_ さんの「水素脆性」と「欠陥を検出できる限界寸法」のお話
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先日の「ロケットまつり」で「水素脆性」と「欠陥を検出できる限界寸法」の話はサラっと流されたが、この二つは関連している。 昔々に書いた論文の錆び付いた知識を思い出してみるとしようか。 #rocketfes #M-V
2011-06-14 19:36:51簡単に結論から。 【鋼が水素を吸収すると脆くて壊れやすくなる】 ここに欠陥が絡むともっとヤバイ。 さて、鋼とはなんぞや?脆いとは?…から始めると大変過ぎるなぁ。 #rocketfes #MV
2011-06-14 20:01:52金属は、微視的に見ると、原子が規則正しく並んだ“結晶”という構造を持つ。 金属が“硬くなる=強くなる”メカニズムの一つは、規則正しい結晶の間に異なる元素の原子が入り込んで、ゆがみを生むこと。 #rocketfes #MV #hydrogen_embrittlement
2011-06-14 22:54:16結晶において原子と原子は斥力と引力が釣り合った間隔になっている。そこへ異なる元素が間に入って原子間隔が広がると、引力が高い状態、いわばテンションが高くなる。これが高強度を生む。 #rocketfes #MV #hydrogen_embrittlement
2011-06-14 22:57:57金属が高強度になるメカニズムのもう一つは、金属の中に“細かくて硬い粒がいっぱい散在している状態”になること。ジュラルミンの時効硬化なんかはこの作用を起こしている。 #rocketfes
2011-06-14 23:06:52さて、水素とは何だろう? 陽子と電子、各1個からなる最小の原子だ。 これが固体の金属に溶けると、わりと簡単に中を動き回る。 電子ほどスイスイとはいかないが、陽子1個というのは十分小さいのだ。 #rocketfes
2011-06-14 23:08:07固体金属の中の水素の振る舞いについてもう一つ。 一つの金属物体の中で、大きな力がかかっている場所と、そうでない場所があるなら、水素は移動して力の掛かっている場所へと集中するという挙動を見せる。 #rocketfes
2011-06-14 23:14:11さあ、力の掛かっている場所に水素が集まった。 そうするとどうなるか? まず一つは、水素が金属原子の間に入り込む=ゆがみを生む。もう一つは、水素と金属とが化合物を形成する=硬い粒子を生成する。この二つで金属は水素によって硬くなる=高強度になる。
2011-06-14 23:18:34さてここまで、“硬くなる=高強度になる” と書いてきた。 一般的にどんな金属も、いろいろな処理(たとえば鋼の焼入れ)で硬くすることは、高強度にする、ということとおよそ同義である。
2011-06-14 23:21:54だがここで問題が。 “硬い” ということは “もろい” という事でもある。 ちなみに私はこのことを [帰ってきたウルトラマン] の郷秀樹の科白で知った。いやマジで。
2011-06-14 23:25:26では一度まとめる。 固体金属に水素が溶け込む。そして力の掛かっているところに集中する。 水素はその付近の金属を硬くする。それは同時に脆くするということでもある。 #rocketfes
2011-06-14 23:30:54高張力鋼というものがある。添加した元素や熱処理によって強度を特に高くしたスチールだ。 これで作ったボルトが折れるトラブルがよくある。 体育館の屋根から折れたボルトが落ちて来たという話を聞いたことがないだろうか? その何割かは、水素ぜい性によるものだ。 #roketfes
2011-06-14 23:39:59高強度のボルト、つまり硬いボルトなので、脆さも高い。そこへちょっとでも水素ぜい化が進行してしまうとボルトが折れてしまう。 だからこの種のボルトは、かけている力がオーバーしないようにトルクレンチが必須なのだ。 さらに、水素が入らないよう工程管理もしっかりとする。
2011-06-14 23:44:34さあ、ようやくM-Vロケットモーターに使われた高強度鋼の話。 欠陥と水素ぜい性の関係にまでこぎつけたが・・・今日はここまで。
2011-06-14 23:49:20寝る前に明日書く内容の予告編。 明日は、 ・「けっかんってなーに?」 ・「おくれはかいってなーに?」 の二本立てでお届けします。
2011-06-15 01:26:54__________________________________________________________________________
引き続き“水素ぜい性と欠陥”の話を書こうと思ったが、遅くなってしまったので一言だけ。 私のこの件についての知識は基本的に四半世紀前の記憶が頼り。 では研究の進捗はどうじゃろとGoogle先生に聞いてみると・・・・・・まだ良くわかりません、とのお答えw よし、思いっきり書けるw
2011-06-16 00:23:23__________________________________________________________________________
今夜の「水素脆性」と「欠陥を検出できる限界寸法」の話は、予告したように「遅れ破壊」の話と「欠陥」の話。 さて、まずは「欠陥」。goo辞書によると、欠けて足りないこと、不備な点、を示す言葉だとか。 今は金属材料の話をしているので、その場合の欠陥とは何かを説明する。
2011-06-16 22:30:17金属は、原子が規則正しく並んだ“結晶”という構造を持つ。結晶は生物で言うなら細胞だ。細胞がずらりとならんで組織を形成するように、金属素材も細かな結晶の粒の集合体なのだ。 この個々の粒を“結晶粒”と呼ぶ。普通は直径数μ~数百μmと細かく、鋳物だと目に見えるほど荒いものも。
2011-06-16 22:39:59さてこの結晶の並びだが、全部が全部そのまま金属素材の粒なら問題はない。 ところが、時には異常なものが入っていたり、空洞ができていたり、という事がある。 この、「本来なら連続しているべき素材の中にある異常」。これが「材料欠陥」。
2011-06-16 22:45:17金属の材料欠陥で一番多いのは、素材を溶かし合わせる“るつぼ”の破片だったり、るつぼの中で溶けた金属が大気に触れた部分で酸化物になったものだったり、あるいは合金元素が溶け残って化合物になったもの。 これらがどうやってもなくならず残ってしまったものだ。
2011-06-16 23:05:45