日蘭石油交渉
【太平洋戦争前夜の日蘭石油交渉】 1940年、大陸で戦線を拡大する日本に対し、米国は厳しい経済制裁に踏み切りました。結果、危機に立たされた日本は、蘭印との資源輸入交渉に一縷の望みを見出します。 所謂「日蘭会商」です。従来、蘭印は米国の圧力により日本に対し冷淡であったと言われていました。 pic.twitter.com/93aLqapnJs
2020-04-17 14:32:07しかし、近年の研究では、蘭印は主体的に日本と折り合いを付けようと試みていたことが分かっています。 蘭印の石油産出量は日本の需要を満たして余るものでした。歴史にIFが許されるなら、対米戦回避の最後の機会だったかもしれません。 両国の折衝はどのように展開し、そして終焉したのでしょうか。 pic.twitter.com/86mNpLOhjI
2020-04-17 14:32:431937年7月、日本と蒋介石政権は実質的な全面戦争に突入します。これによって国際的孤立を深めた日本は、石油その他の資源確保に不安要素を抱えることになりました。 加えて、広大な大陸で激戦を展開する日本軍の石油消費は急増。日本の戦争経済は累卵の危機に瀕します。 pic.twitter.com/0Oz9ZkcNnN
2020-04-17 14:33:321938年4月、日本は国家総動員法を公布。それに先立つ3月にはガソリンや重油の切符配給制が敷かれ、民間消費は抑制されることになります。 この結果、1937年には502万klだった民需は1940年には338万klに急減。 一方、軍の石油消費は同じ期間に100万klから146万klへ増加しています。 pic.twitter.com/OzdmqkPTRW
2020-04-17 14:34:43これにより、トータルの石油消費は602万klから484万klへと低下し、数字の上では随分節約が進んだように見えます。(無論、それには国民の耐乏があってこそ、なのですが) しかし、輸入される石油の9割は米国産であり、これが戦時体制の泣き所という実態は何ら変化していませんでした。 pic.twitter.com/QsfNBPVfna
2020-04-17 14:35:37そして、米国は年を追って貿易規制を強めつつあり、1939年7月には日米通商航海条約を破棄、同12月には道義的禁輸(モラル・エンバーゴ)を発動。これにより航空機用燃料製造装置の輸入が不可能となり、オクタン価100の航空揮発油国産化を目指していた日本の陸海軍に衝撃を与えました。 pic.twitter.com/mA0SiULJb0
2020-04-17 14:36:32当時、すでに米国では軍用機用燃料はオクタン価100が標準でしたが、日本はオクタン価91の量産化に目途がたったばかりだったのです。そして、この格差は解消されることなく太平洋戦争の終戦を迎えます。 pic.twitter.com/VUopL7Ucty
2020-04-17 14:37:22そのころ、欧州情勢には激変が生じていました。1940年5月、ナチス・ドイツが西方電撃戦を開始、連合軍の抵抗を瞬く間に粉砕、オランダ・ベルギー・フランスを相次いで占領したのです。 今や、南方の資源地帯に政治的空白が生じたのです。 pic.twitter.com/vBBG4aH4yK
2020-04-17 14:38:09米国と対立を深めていた日本にとって、まさに僥倖です。1940年5月、米内政権は蘭印の現状維持を宣言、引き換えに石油、ボーキサイト、ゴムなどの資源の提供を要求しました。 そして7月に樹立された第二次近衛政権の下で蘭印との交渉は本格化していきます。 pic.twitter.com/5dsiPERGbQ
2020-04-17 14:39:04米内内閣がオランダに物資提供を求めたのは5月20日(オランダ政府亡命の6日後)。 内容は、石油100万トンなど13品目に渡りました。 蘭印は6月6日に回答し、石油・鉄・各種希少金属など6品目については、要求に応えることは不可能としたものの、残る7品目については受諾しました。 pic.twitter.com/OJubd93lQA
2020-04-17 14:39:48この7品目にはボーキサイト20万トン、ニッケル鉱15万トン、ゴム2万トン等が含まれます。 一方、輸出不可の6品目のうち、石油以外は、そもそも日本の要求が過大でした。 鉄は要求量10万トンに対し、蘭印の年間産出量は約7万トン。マンガンの要求5万トンに対して、年産は約1万トン。 pic.twitter.com/TZmgNU60UC
2020-04-17 14:40:35つまり蘭印は、生産能力を超過しない限り、日本に妥協していたのです。(石油以外) それどころか、錫(要求3,000トン)は年産の4.5倍、ニッケルは年産の7倍であるにも拘わらず受諾しています。 これは、ヨーロッパ市場の消滅と、日本との関係悪化回避を考慮しての苦渋の決断でした。 pic.twitter.com/Rw97q9ULJ7
2020-04-17 14:41:36石油(要求100万トン、年産750万トン)は、明らかに米国に対する配慮から日本の要求を見送っていますが、「石油会社がOK出すなら輸出も可能と考える」とも回答しています。 これはちょっと判断が難しいところで、蘭印の石油は英蘭系のシェルと、米国系のスタンダードが独占的に開発しています。 pic.twitter.com/lhbftKooJj
2020-04-17 14:42:31ですから、婉曲的なNOともとれるのですが、蘭印総督府はシェルに迅速な日本との交渉を指示したり、ペルシアの油田からの対日石油供給まで検討したりしています。 つまり、他の物資同様、本心では輸出に前向きであったと解釈することも可能でしょう。
2020-04-17 14:43:15実際、東京を舞台に5月から8月にかけて行われた交渉では、日本の要求の6割強にあたる年間62万9,000トンの石油供給が合意されています。 この間、米国では国防法が成立(7月)、航空燃料の対日輸出が停止します。 日本にとって、蘭印の石油確保は、もはや待ったなしの状況になっていました。 pic.twitter.com/sbCJBA5hV7
2020-04-17 14:44:53そこで、日本政府は蘭印に一大使節団を送り込み、直談判をしようと考えます。 団長として白羽の矢が立ったのは、入閣経験を買われた小磯国昭予備役大将。 ところが、、、このオッサン、妙なことを言い出します。 pic.twitter.com/0C7tGxUwcx
2020-04-17 14:46:09曰く、海軍陸戦隊を同行させるだの、陸軍2個師団を待機させろだの、白人に搾取される蘭印の人々を救済するだの、蘭印を取り込んで自給自足の経済圏を建設するだの、、、 KYな発言の数々は、メディアを通じて世界に「拡散」され、蘭印の態度は硬化しました。
2020-04-17 14:46:56確かにオランダの支配は苛烈でしたが、石油交渉の使節団長が口にすることではありません。 彼に求められていたのは「結果」を出すことであって、「正義」を振りかざすことでは無いのです。小磯氏は単なる無能ではないと思いますが、この言動はマズかった。 pic.twitter.com/igMPMt0hTF
2020-04-17 14:47:56日本側は代表を財界人の小林一三に変更すると、官僚・軍人・ビジネスマンからなる使節団を編成、1940年9月からバタビアで交渉に入ります。 蘭印側は、ファン・モーク経済長官を筆頭に、国際石油資本のシェルとスタンダードからもメンバーを出し、対応しました。 pic.twitter.com/fgBsSOawrS
2020-04-17 14:48:50今や、日本の石油要求量は大きく引き上げられ、315万トンになっていました。これはおよそ367万klで、日本の年間必要量の7割に相当します。 しかもその半分は航空燃料(燃料用原油110万トン、オクタン価87以上の燃料40万トン)で、米国の経済制裁への対抗措置であることは明らかでした。 pic.twitter.com/3YyoH984hf
2020-04-17 14:49:51これに対し、蘭印は否定的な立場を取り、交渉は一進一退の様相を呈します。小林一三は「こんな連中相手にしても仕方ない、遥々来た甲斐がないぜ」(超訳)と悲観的な電文を本国に送りますが、実は蘭印は新しい油田の開発やペルシアからの石油転送など、水面下で様々な検討を行っていたのです。
2020-04-17 14:50:43蘭印がこのような検討をしたのは、年産750万トンの産油量があるとは言うものの、オーストラリアや英国植民地などへ定常的に輸出を行っており、新たに315万トンも捻出して日本へ送る余裕は無かったためなのです。 写真はファン・モーク経済長官。 pic.twitter.com/zG3wVeEe11
2020-04-17 14:51:46しかし、日本側は次第に高圧的になっていきます。9月27日の日独伊三国同盟調印後、小林代表は「対米戦が起きるかもよ?その前に日本と仲良くした方が身のためじゃね?」(超訳)と言い出し、一方の蘭印は「ナチスは敵でっせ。滅ぼさなあきまへん」(超訳)と返し、雰囲気はもう最悪。 pic.twitter.com/VCoecg4xGs
2020-04-17 14:52:44同じく9月には日本軍が北仏印に進駐しています。蘭印にとっては他人事ではありません。また、日本の武力による南進政策がいよいよ露骨になったと捉えられ、交渉に暗い影を落とします。 pic.twitter.com/N2bmtTnCBc
2020-04-17 14:53:40