剣と魔法の世界にある学園都市でロリが大冒険するやつ2(#えるどれ)

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まとめ 【目次】エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話(#えるどれ) 人間とエルフって寿命が違うじゃん。 だから女エルフの奴隷を代々受け継いでいる家系があるといいよね。 という大長編ヨタ話の目次です。 Wikiを作ってもらいました! https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 21663 pv 167 2 users

前回の話

以下本編

帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 暗い膚に尖った耳、すらりとした女が博物館の展示室に立っていた。周囲には新鮮な血の匂いが漂う。 「影よ、来れ」 艶めいた唇から低い声が零れると、部屋に陳列してある異邦の甲冑や刀槍、偶像の間から粘つく油の如き闇があふれ、なよやな輪郭に集まり、全身を隙間なく覆う鎧兜となる。

2020-04-20 20:35:32
帽子男 @alkali_acid

肩にも腰にも胸にも優美な曲線を帯びた具足をまとい、どこか獣じみた意匠の面頬をおろした女武者は、鋭い爪の生えた長い指を宙に掲げる。 「目覚めよ…死人よ」 たちまちそばに暗がりが蟠り、朽ち乾ききった太古の屍が、剣や斧、矛を携えて歩み出てくる。

2020-04-20 20:40:00
帽子男 @alkali_acid

「楽しむがいい。命ある人間よりずっと切り結びがいのある兵(つわもの)だ」 鎧の魔女が哄笑すると、死者の軍勢は声もなく獲物に襲い掛かった。 相手は木製の仮面をかぶり、卍型の飛刀を握った奇怪な戦士の群。 床、壁、天井の別なく豹の如く走り、動くものとみれば手に持つ武器を擲ち命を奪う。

2020-04-20 20:43:04
帽子男 @alkali_acid

しかも屠った標的のそばには新たにそっくりの戦士が煙のようにあらわれる。 犠牲が増えれば増えるほどに数を増す殺戮者の集団。 人類を災厄から守る秘密結社「財団」が、破滅の種として恐れる「遺物」。適切な方法で速やかに確保、収容、防護せねば世界に取り返しのつかない傷を与える怪異の一つ。

2020-04-20 20:45:58
帽子男 @alkali_acid

死者と怪異は、歴史と文化について学ぶための広壮な建物を戦場に、いずれも敵への哀れみも情けも知らぬ腕を振るって、激しくぶつかりあった。

2020-04-20 20:48:18
帽子男 @alkali_acid

この物語は奴隷から解放されたエルフの女騎士が復讐を図るダークファンタジー 略して #えるどれ ↓過去のまとめはこちらからどうぞ togetter.com/li/1479531

2020-04-20 20:49:42
帽子男 @alkali_acid

最初の衝突で、仮面の戦士の一隊はあっという間に朽ちたむくろからなる兵(つわもの)を引き裂き、ばらばらの残骸に変えた。 だが生者を屠った際とは異なり、新たな戦士はあらわれない。

2020-04-20 20:52:34
帽子男 @alkali_acid

どころか切り刻まれた屍は、女武者が指揮棒のように指を振り、低く詠唱するうちにみるみる元通りに傷を癒して立ち上がり、また鈍重と言っていい動きで仮面の戦士に近づいてく。 すぐに怪異達は、死せる兵を操っているのが黒い鎧の乙女だと悟り、そちらに卍型の飛刀を投擲する。

2020-04-20 20:54:11
帽子男 @alkali_acid

無数の暗器はそれぞれ円弧を描いて宙を疾(はし)り、立ちふさがる亡者を鎖帷子や板金鎧ごと紙のように寸断すると、中心にいる魔女を四方八方に襲いかかった。 だが女武者を守る具足は、刃のことごとくを跳ね返し、弾き落とした。

2020-04-20 20:57:24
帽子男 @alkali_acid

鎧の魔女は円かな腰に片手を当てると、もう片手の掌を天に向ける。 「これで終わり?」 と尋ねるように。 刹那。 歩く屍を避け天井を駆け抜けた仮面の戦士の一人が、女武者の背後に降り立つと、流れるような動きで、羊歯の葉の形をした刃を持つ鎌を優美な首にかけ、一息に刈り取ろうとした。

2020-04-20 21:01:07
帽子男 @alkali_acid

だがこの一撃は空を切った。 戦士が腕に力を込めて得物を引ききった際には、魔女の姿はすでになく、かわりに甲冑をまとった巨大な狼があらわれていたのだ。 黒い装甲に包まれた魔獣は、咆哮とともに跳躍し、体当たりで一番近い敵を弾き飛ばすと、反動をきかせて空を飛び、別の敵を蹴り倒す。

2020-04-20 21:04:31
帽子男 @alkali_acid

仮面の戦士は壁、床、天井を自在に行き来しながら、平面ではなく立体の動きでさまざまな角度から攻めかかったが、鎧の狼はやすやすとすべてを回避し、受け止め、まるで蠅でも打つかのように叩き落としていった。

2020-04-20 21:09:22
帽子男 @alkali_acid

博物館の嵌石(モザイク)敷きの上に、仮面の戦士がうつぶせやあおむけに張り付くたび、ぞろぞろと歩く死者が群がり、のしかかる。 「退屈させてくれるなよ」 甲冑の狼は再び床に降り立つと、鎧兜の魔女となり、さらに手を差し招く。さらに多く死者があらわれる。

2020-04-20 21:13:12
帽子男 @alkali_acid

一部は博物館の外にある医学校の人体標本や、共同墓地に埋葬された街の住民の躯も混じっているようだ。 「さあ新しき世の怪異よ。眠りにつきし我、黒の癒し手と影の国になりかわり、人々の恐怖と戦慄の因たらんと欲するなら、禍々しさを示してみせよ!」

2020-04-20 21:16:59
帽子男 @alkali_acid

黒の癒し手が、戯れるように腰をゆすりながら歩み、廊下を歩いて広間に出ると、四階までの吹き抜けの壁という壁、硝子の円天井にもびっしりと仮面の戦士が這い、あるいは歩き、うずくまっていた。

2020-04-20 21:19:15
帽子男 @alkali_acid

数は百を軽く超えるだろうか。館内に展示品を運び込む業者と学芸員、さらに遺物を収容するために突入してきた「財団」の職員すべてが犠牲になり、かわって戦士があらわれたものと見える。 手にした得物は先程と同じ卍型の飛刀や羊歯型の鎌もあれば、毒々しい汁を滴らせる昆虫の顎に似た先を持つ杖も

2020-04-20 21:21:40
帽子男 @alkali_acid

それぞれが吹き抜けを駆け巡りながら、一斉に魔女へ降下してくる。 「へえ…竜石か…こんなものまで西方諸国は略奪したのか…まったく…」 黒の癒し手はほとんど迫りくる武器の群に注意を向けず、かわりに広間の中央にある魁偉な展示品に眺め入った。

2020-04-20 21:24:57
帽子男 @alkali_acid

大昔の生きものの骨格が石に置き換わった鉱物の一種で、元通りに組み立て直し、針金と鋼線でつないで生前の形が解るように飾ってある。かつて東の果てで竜の眷属として信仰の対象となった「恐るべき獣」のよすがだ。

2020-04-20 21:28:12
帽子男 @alkali_acid

「骨格の構造がおかしいな。組み立てるなら、せめて医学の心得のあるものにさせるべきだ」 黒の癒し手がそっと指を向けると、竜石はばらばらになって組み変わり、後ろ肢で立ち、巨大で重たげな頭を振り回して尾を打ち振る。 「たいした気勢だ。暴君蜥蜴とでも名づけるか。好きに遊ぶといい」

2020-04-20 21:31:42
帽子男 @alkali_acid

暴君蜥蜴の化石は仮面の戦士の一人を宙で咥え、床にたたきつけて、踏みつけると、尾で別の一体を跳ね飛ばし、小さめの前肢でもう一人を掴み取る。 怪異の群は標的を変え、太古の怪物の屍を切り裂こうとするが、あまりの大きさのため骨の一部を断ち切っても止まらず、おまけにすぐに回復してしまう。

2020-04-20 21:34:16
帽子男 @alkali_acid

「この場所…博物館というんだったね…ここは死で満ちている…死と…記憶と…死…」 黒の癒し手は螺旋階段の手すりに装甲をまとった尻を預け、形のよい足をぶらつかせながら、楽しげに語る。 「気に入ったよ…君達はどうかな…こんなものもある」

2020-04-20 21:37:58
帽子男 @alkali_acid

鉤爪の生えた籠手を握り開くと乾いた草の種がいくつか掌に載っている。 「死んだ祭司の副葬品…何を意味するか知りもしないで…髑髏蓮華に眼鏡蛇蔦、三熱草に腐柳…どれも猛毒…盗掘よけの呪いだ…試してみようか?」

2020-04-20 21:41:57
帽子男 @alkali_acid

黒の癒し手が狼の面頬を開き、また暗い膚と艶やかな唇をあらわにすすると、短い呟きの後、そっと息を掌に吹きかけた。 すると死んだ草木の種は次々と、死んだまま芽吹き、乾き萎びた葉を開かせ、傷みよれた蔓や茎、腐り崩れた根を伸ばしてみるみるはびこっていく。

2020-04-20 21:44:44
帽子男 @alkali_acid

とうの昔に命を失った毒性植物の「屍」がまたたく間に博物館を埋め尽くした。 木製の仮面をかぶった戦士の一人が咳き込み、不意にふらつき、膝をつく。膚がかぶれたように変色している。いつのまにかあちこちに縮れて斑だらけの花が開き、燐を帯びた花粉をまき散らしていた。

2020-04-20 21:47:29
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