映画『コンテイジョン』ストーリー構成とテーマを分析&解説(ネタバレ有り)

スティーヴン・ソダーバーグ監督作品『コンテイジョン』についてのレビューです。 新型コロナウイルスの感染が拡大する昨今において、そのリアルな描写が話題を呼び、動画配信サイトなどでも注目を集めています。 単なる「伝染病パニックもの」を超えたリアリティをもつに至った本作の、ストーリー構造とテーマについて解説を試みました。  ※大いにネタバレを含みますので未見の方は注意
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狂猫病 @kyobyobyo2

スティーヴン・ソダーバーグ監督によるパニック・スリラー映画『コンテイジョン』は公開から8年以上が経った今、新型コロナウイルスの世界的大流行によって俄然注目を集めることになった作品だ 社会習慣の変容について、その予言めいた描写が話題を呼んでいるが、ストーリー面においても注目に値する

2020-04-24 04:05:09
狂猫病 @kyobyobyo2

感染病に関する数々の「予言」めいた描写が話題を呼んだ群像劇 pic.twitter.com/2Sr3XfvS5Y

2020-04-24 06:08:35
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まずは三幕構成で全体像を掴んでみよう 『コンテイジョン』はクレジット部分を除いた本編は101分で、主人公を一人に特定できない、ソダーバーグお得意の群像劇となっている 第一幕:空港のベス 最初の犠牲者たち(0分)~ バスに乗車中の感染者をミアーズが収容(26分)

2020-04-24 04:10:06
狂猫病 @kyobyobyo2

第二幕前半:隔離中のミッチにミアーズが接触(27分)~ 最初の感染拡大 モンタージュ的な回想(48分) ミッドポイント:レオノーラの誘拐(50分ごろ) 第二幕後半:重症化し苦しむミアーズ(52分)~ ヘクストールがワクチンを自身で治験 父親に面会(78分)

2020-04-24 04:16:01
狂猫病 @kyobyobyo2

第三幕:量産されるワクチン(78分)~ 自宅でのプロム 最初の感染状況(101分) 幕の比率は第三幕がやや短めではあるがほぼ1:2:1で、ミッドポイントも中央にある素直な構成だ

2020-04-24 04:20:17
狂猫病 @kyobyobyo2

本作のテーマは物語の序盤、CDC駐車場においてローレンス・フィッシュバーン演じるエリス・チーヴァーに対して清掃係ロジャーが発する台詞中に提示されている 社内のアメフト賭博で大勝したロジャーは、たとえ贔屓チームでも弱小には賭けるべきでないと助言する 「ハートじゃなくて頭を使うんですよ」 pic.twitter.com/7IIinmL5dx

2020-04-24 04:30:27
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狂猫病 @kyobyobyo2

チーヴァーをはじめとする登場人物たちは皆、物語の進行にしたがって「愛情をとるか、論理をとるか」という選択を迫られる 感染拡大を防止するための論理、あるいは職業倫理を頭では理解しつつも、愛する者の生命の安全のために、彼らはルールを捻じ曲げることとなる

2020-04-24 04:37:53
狂猫病 @kyobyobyo2

物語前半で描かれているのはCDCのチームとしての有能さだ チーヴァーとその部下ミアーズ、レオノーラたちは緻密な「ルール」に従った調査によって感染経路を迅速に突き止めていく しかしミアーズが感染、レオノーラが誘拐されるに至って、物語世界の「ルール」は崩壊する

2020-04-24 04:45:36
狂猫病 @kyobyobyo2

『コンテイジョン』の考証が非常に優れていて、そして公開当時あまり派手なヒットをしなかった理由が、この「ルール崩壊」の描写の部分だろう 拡散されるデマと陰謀論、食料品や消耗品の買い占め、政府上層のスキャンダル、都市封鎖、諸々の要因によって世界は唐突に、静かに壊れていく

2020-04-24 05:05:29
狂猫病 @kyobyobyo2

公開当時にはあまりにも地味で現実的であり、それゆえ逆に「ファンタジー」として受けとめられてしまったこの描写は、ほぼこの通りの経過を現実世界で体験している現在の観客にとっては、異常なリアリティで迫ってくる 本作は「パニックもの」から「疑似ドキュメンタリー」へと進化を遂げた

2020-04-24 05:13:28
狂猫病 @kyobyobyo2

『コンテイジョン』の第三幕ではワクチンが量産され、感染拡大にはひとまずの収束が見られる しかしウイルスによって変容させられた世界の「ルール」と、登場人物たちが捻じ曲げてしまった自身の「ルール」については、決して完全には回復することがない

2020-04-24 05:19:26
狂猫病 @kyobyobyo2

チーヴァーは度重なる規則違反を知りながら、ロジャーの息子にワクチンを譲る レオノーラは自身を誘拐した犯人たちの村へ、ワクチンとして渡されたプラシーボの無効性を知らせに走る ミッチは残された娘のために、恋人だけを招いたプロムパーティーを自宅で開いてやる

2020-04-24 05:24:51
狂猫病 @kyobyobyo2

そこにあるのは、変容した社会生活の中で、人々がどのように自分たちの「大切なもの」を守っていくのか、という在り方だ 傷ついた世界を回復させるのではなく、その変化を受容し、新しい「ルール」の中で生きていく必要性を本作は提示している

2020-04-24 05:32:03
狂猫病 @kyobyobyo2

『コンテイジョン』のエンディングは、感染の発端となった最初の「握手」の場面だ 社会的に褒められた行為でないと知りながらチーヴァーがロジャー父子と交わす「握手」から、このラストの「握手」はどこか対比的に描かれているように見える

2020-04-24 05:44:20
狂猫病 @kyobyobyo2

本作の物語中で暗示的に描かれていたことの一つに「社会の分断」がある 貧富、社会的身分、職業、国籍といった様々な要素で人々は断絶されており、そのことへの不満が、デマの扇動者たるアラン・クラムウィディを称賛し支持することへ繋がっていた

2020-04-24 05:52:37
狂猫病 @kyobyobyo2

本来の「握手」はこうした「分断」を飛び越える行為だ 利害関係に基づく行き過ぎたグローバリズムの象徴としての「握手」ではなく、心からの友愛を示す行為としての「握手」へ 本作のメッセージの一つを、そのように読み取ることも可能だろうか?

2020-04-24 06:03:41