JCウイルス(JCV)から見た中国の成り立ちーー黄河文明の担い手と長江文明の担い手は、起源が異なるJCVに感染していた!?

1990年代の中頃、私は縁あって武漢出身の留学生(通称、カクさん)を指導することとなった。彼は「日本で言う関東と関西の違いみたいに、中国北部と南部で気質が違う。南部出身者はずるく、性格が良くない」と言って、中国南部出身の留学生を嫌っていた。カクさんは南部の武漢の出身だが、太平洋戦争の時に、両親は北京から武漢へ移ってきたので、自分は北部の人間だと彼は強弁した。彼が言うように、中国にも北と南で民族的な違いがあるのかを、JCウイルス(JCV)て調べたら面白いと私は思った。なぜなら、日本の例があるからである。まとめ「JCウイルス見た現代日本を…」を参照。https://togetter.com/li/1450392
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ヒトポリオーマウイルスの一つであるJCウイルス(JCV)は、ヒトの腎に寄生し、殖えた仔ウイルスは尿中に排泄される。JCV DNAは健常人の尿から容易に得ることができるので、分子疫学的な研究の格好の材料となる。1990年代の中頃、私たちのグループは、JCV亜型の世界的分布を解明するプロジェクトに取り

2020-04-23 22:59:50
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組むこととなり、その第一歩として中国が対象になった。中国人からの尿収集のため、武漢出身の留学生(カクさん)が中国に派遣されることになった。「中国全体を調べたいから、適当な場所を選んで、採尿してきてくれ。」と言って、私は彼を中国へ送り出した。カクさんは収集した尿検体(通常50検体)を

2020-04-23 22:59:51
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日本へ発送したら、直ぐ次の採尿地へ移るーというやり方で、6箇所(ハルビン、瀋陽、北京、武漢、成都、広州)で尿を収集した。検体数が多かったので大変だったが、尿からのウイルスの抽出とウイルス遺伝子の塩基配列の解析という以降の操作もカクさん一人でやりきった。彼が得たデータが今回の話の

2020-04-23 22:59:52
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中核を占める。ただし、台湾(台北)、西部(西安、蘭州、ウルムチ)、チベット(ラサ)、モンゴル(ウランバートル)のデータは、私たちの別の仲間が尿を収集し、解析したものである(モンゴルは中国と関連が深いので今回一緒に解析した)。また、雲南州のクンミンと内モンゴル自治区のチーフォンと

2020-04-23 22:59:52
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マンチョウリのデータはCuiらの論文より引用した(Cuiは、私たちの唯一つのライバルーアメリカNIHのGL Stonerの仲間のひとり。Stonerは2002年に事故死したが、彼の遺志を継いだ仲間たちが論文を完成させた。)。図1は、検出された各JCV亜型の割合を尿採取地毎に、円グラフで示したものである。この図 pic.twitter.com/N1CbgjvCs3

2020-04-23 22:59:53
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から以下のことがわかった。中国に分布する主要なJCV亜型は4つーCY、SC、B1-a、B1-bであった。CYは北部で多く分布し(64-72%)、SCは南部で多く分布した(54-67%)。CYまたはSCが多く分布する領域の境界は揚子江の北側(北緯31度近辺)にあった。検出率は低かったが(平均、10%)、B1-aは

2020-04-23 22:59:54
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中国のほぼ全ての尿採取地で検出された。B1-bは東部でほとんど検出されなかったが、モンゴル(ウランバートル)、内モンゴル(チーフォン、マンチョウリ)、西部(西安、蘭州、ウルムチ)、チベット(ラサ)では検出された。ウランバートル(67%)、ラサ(50%)、ウルムチ(32%)での検出率は特に

2020-04-23 22:59:55
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高かった。このように中国で検出されたJCV亜型はそれぞれ独特な地理的な分布を示すことがわかった。次に、中国で検出されたJCV亜型がJCVの分子系統樹(図2)において、どのような位置にあるかを見てみよう。JCVの祖先からA型、B型、C型という3つの型が生まれた。A型からはヨーロッパ人が保有する亜型 pic.twitter.com/zP2CuwxrXN

2020-04-23 22:59:56
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(EU-a、EU-b)と東北シベリア人が保有する亜型(EU-c)が生まれた。B型からは最初にアフリカ人が保有する亜型(Af2)が生まれ、次いでオセアニア人が保有する亜型(8A、8B)とアジア人が保有する様々な亜型(CY、MY、SC、B1-a、B1-b…)が生まれた。C型からは中央及び西アフリカ人が保有する亜型(Af1)

2020-04-23 22:59:57
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が生まれた。アフリカで誕生し、その後移動と分化を繰り返したヒト集団に伴って、JCVも移動し、進化したと考えられるー私たちの仮説(図3を参照)。閑話休題。ここからは、中国で検出されたJCV亜型を持つ人々の起源について個別に考察したい。以降の説明の参考に、中国および他のアジア諸国における pic.twitter.com/SXqIH6BUxz

2020-04-23 22:59:58
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JCV亜型分布を表の形で示しておく(表1)。【CYを持つ人々の起源】CYは中国のほぼ全域で検出されるが、特に北部での検出率が高い(図1、表1)。中国周辺に目を向けると、モンゴル(ウランバートル)で少し検出され、韓国と日本では頻繁に検出されるが、他のアジア諸国ではほとんど検出されない。 pic.twitter.com/7MVZhsWsxX

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中国と周辺国との歴史的な関係を考慮すれば、CYを保有するヒト集団は中国北部で誕生し、中国の歴史において中心的な役割を果たしたと考えられる。他方CYを保有するヒト集団は日本や他の周辺国へ進出し、その国の経済的、文化的発展にも貢献したと思われる(例えば、日本に渡来したCYを持つヒト集団は

2020-04-23 23:00:00
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弥生文化の担い手となった。)。ところで、その後の研究で、各地のCY亜型は二つのサブグループ(CY-aとCY-b)に分かれることがわかった。各地におけるCY-aとCY-bの検出比率を図4に示した。中国東北、中国西部、西日本及び沖縄ではCY-aが高率に検出されたが、韓国では逆にCY-bが高率に検出された。CY-a pic.twitter.com/CffsEqxsWM

2020-04-23 23:00:01
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とCY-bの比率が日本と中国との間で類似していることは、CYを日本に運んだ人々(渡来人)―少なくともその大部分は朝鮮半島経由でなく、中国大陸から直接日本へ渡来したことを示唆している。他方、渡来人が朝鮮半島を経由して日本に渡ってきたという証拠―例、BKウイルスIV型サブグループの分布に関する

2020-04-23 23:00:02
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データもあるので、大陸からの直接の渡来と半島経由の渡来の両方が存在したかもしれない。【SCを持つ人々の起源】名前の由来だが、初期の調査において中国南部で頻繁に検出された亜型を、South Chinaの頭文字をとってSCと命名した。しかしその後、中国南部のみならず、東南アジアの大陸部と島嶼部でも

2020-04-23 23:00:03
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頻繁に検出され、わずかだが、日本南部、アフリカ、ハワイでも検出された。そこで、世界各地に分布するSC亜型のJCV株(65株)の関係を示す精密な系統樹を作成した。生の系統樹はわかりにくいので、模式図を示す(図5)。この図から以下のことが明らかになった。祖先SCは7つのサブグループーSC-a~ pic.twitter.com/qkG8iLgNrF

2020-04-23 23:00:04
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SC-f、SC-x―に分岐した。3つのサブグループ―SC-x、SC-a、SC-b―が先ず分岐し、その後別の4つのサブグループ―SC-c~SC-f―が分岐した。SC-xは主にフィリピンの株を含んだ。SC-aとSC-bはわずかの株しか含まないので、これらのサブグループの詳細は不明。三つのサブグループ―SC-c、SC-d、SC-eーは

2020-04-23 23:00:05
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主としてミャンマーの株を含んだ(SC-cはタイの株も含んだ。)。SC-fはミャンマーの株をはじめ、世界中のSC株を含んだ。以上の解析で、他のサブグループと比べて、SC-fが広い地域に分布する傾向が認められた。SC-fの世界的な分布を確認するために、SC亜型に属するほぼ全てのJCV株(275株)に対して

2020-04-23 23:00:06
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簡便法を用いた、SC-fかnon-SC-fかという検討を行った。その結果を地域ごとに円グラフにして世界地図の上に示した(図6)。この図から明らかになったことを以下で述べる。中国全域においてSC-f株が優勢で、non-SC-f株は10%程度検出されるにすぎなかった。ミャンマーとタイではnon-SC-f株が優勢 pic.twitter.com/SbJiiD707Q

2020-04-23 23:00:06
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であったが、例外はミャンマーのピ-ネビーンで、ここではSC-f株が優勢だった。ベトナム、インドネシア、マレーシアではSC-f株が優勢であった。フィリッピンではSC-f株が優勢であったが、non-SC-f株もかなり高い率(28%)で検出された。これは、non-SC-f株のひとつであるSC-xがフィリッピンで頻繁

2020-04-23 23:00:08
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に検出されていることと符合する。アフリカ南部と日本南部ではSC-f株のみが検出された。グアムではSC-f株が優勢であったが、ハワイの1株はnon-SC-f(SC-x)だった。以上の結果から、SC-f株は世界中に広く分布していること、SC-x株を除くnon-SC-f株はミャンマーとタイを含む領域で多発することが

2020-04-23 23:29:56
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

確認された。私たちが提唱しているように、JCVはヒト集団と共に進化すると仮定すると、今回観察されたSC亜型の進化と分布パターンは以下のように説明できる(図7参照)。「ミャンマーとタイを含む東南アジアの一地域(“SC発祥の地”)において、祖先SCを有する祖先ヒト集団はSCのサブグループ(SC-a pic.twitter.com/vWiDccH7mE

2020-04-23 23:29:57
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~SC-f、SC-x)を持つ様々なヒト集団に分かれた。これらのヒト集団の内、SC-fとSC-xを持つ集団のみがSCの発祥の地から脱出し、SC-fを持つ集団は世界へ拡散し、SC-xを持つ集団はフィリピンへ移住した。」【B1-aを持つ人々の起源】B1-aは中国のほぼ全域で検出されたが、検出率は概して低かった(表1)。

2020-04-23 23:29:57
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B1-aが分布する地域は、中国に加えて、フィリピンの島々があるほか、ひと株だがインドネシアからも検出された(表1)。B1-aの分布に関して、次のようなデータがある。私たちは現地の研究者と共同して、台湾とフィリピンの先住民が保有するJCV亜型を調べた。対象となったのは台湾先住民のブヌン族と

2020-04-23 23:29:58
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

フィリピン・ミンダナオ島の先住民、ママンワ族であった。B1-aはこれらの先住民から比較的高い比率で検出された(ブヌン族、58%;ママンワ族、50%)。B1-aに関する証拠は十分ではないが、利用できるデータから「B1-aは中国東南部に起源があり、そこから中国全域と東南アジア島嶼部へ拡散した」と

2020-04-23 23:29:58