剣と魔法の世界にある学園都市でロリが大冒険するやつ3(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

「きれー!宝石じゃないのこれ!」 「違うでしょ。宝石ならこんなとこに…でもきれい…」 別の一角にど小さな雲母や翡翠、薔薇水晶の結晶がばらばらとばらまかれている。校舎の軒の目立たないところに黒い蝙蝠が逆さに下がり、鉱物標本になりそうな見事な黄銅鉱の欠片をがじがじと齧っていた。

2020-04-25 20:01:37
帽子男 @alkali_acid

「キャー!!」 「何々どうしたの」 「お、おばけ…おばけ…博物室の蜥蜴の剥製が動いたって!じ、骨格標本も…」 「うっそお…」

2020-04-25 20:03:07
帽子男 @alkali_acid

「ねえねえ聞いた?大きな黒い狼が廊下の隅に座ってこっちを見てたって!」 「ひとりでいると食べられるって…」 「やだ…」

2020-04-25 20:04:07
帽子男 @alkali_acid

ウィスティエはだらだらと脂汗をかきながら、呼吸困難に陥りそうになりつつ、できる限りすべての問題から遠ざかり、空いてそうな場所へ逃げ込んだ。 周囲の棚にぎっしり綴本が並んでいる。 図書室だった。 とりあえず深呼吸する。 「なんで…」 一番起きてほしくないことがすべて起きるのだろうか。

2020-04-25 20:06:31
帽子男 @alkali_acid

「ニャーン」 ひどくか細い鳴き声が聞こえる。はっとなって視線を上げると、棚の上の方の空いている段に暗がりに半ば溶け込むようにして、 猫はいます。 よろしくお願いします。

2020-04-25 20:07:53
帽子男 @alkali_acid

「き、来ちゃだめって…」 「ヴナ」 しかつめらしく黒猫は答えると、破れ耳をぷるっと震わせ、ちぎれ尻尾でたしたしとそばに陳列してある「古代民族の狩猟」という本を叩いた。特に理由もなく。 「もぉ…」

2020-04-25 20:10:18
帽子男 @alkali_acid

できるだけ小声で叱ると、少女の四つ足の相棒カミツキは音もなく床におりて、ふんふんと鼻を大きく鳴らしてから、また首をぶるっと振ってすたすたと奥にある鍵のかかった扉の方へ向かう。図書準備室と標示がある。

2020-04-25 20:12:54
帽子男 @alkali_acid

「ナ」 カミツキは跳躍して錠前に食らいつくと、少し錆びているとはいえしっかりした金具をあっさりと引きちぎった。 「ちょっ」 「カリ…カリ…ペッ…ヴゥゥ」 肉球でとんとんと扉を叩く。 「え…」

2020-04-25 20:14:36
帽子男 @alkali_acid

気が進まなかったが、中へ入りたがる猫、というものに逆らうのはどうしてか難しくウィスティエはそっと扉を開けた。奥は暗い。 「ニャム。ニャム」 よく解らない鳴き声とともにするりと獣は奥へ入る。 「…えう…」

2020-04-25 20:16:12
帽子男 @alkali_acid

暗い膚に尖り耳の少女も仕方なくついていく。 後ろ手に扉を閉めるとますます暗くなる。 「怖…」 しかし薄闇の中で二つの目が炯々と輝く。 「わっ」 「ナウウ…」 「うん…」

2020-04-25 20:17:21
帽子男 @alkali_acid

隠れ家を確保してくれたらしい。 「でも鍵…直さないと…チノホシならできるかな」 左右非対称の翼を持つ蝙蝠を思い出す。どういう訳かしかけの類をあの羽で器用にばらしたり組み立てたりできるのだ。 「うん…明かりないと…困る」 あとで持ち込もう。とりあえずはうずくまる。

2020-04-25 20:19:50
帽子男 @alkali_acid

「はあ…」 これからずっとここで過ごすのかと思うとウィスティエは何となく気が重かった。学問の都は、超常の遺物を確保、収容、防護する財団も簡単には干渉できず、財団に付け狙われている少女としては絶好の住処。なのだが、どうも落ち着かない。

2020-04-25 20:21:45
帽子男 @alkali_acid

「なんか…どこも…大変…」 大変でない場所などないようだった。 「でも…これで…いいのかな」 耳当てを抑えながら独りごちる。

2020-04-25 20:23:28
帽子男 @alkali_acid

渡瀬の街に暮らしていた際の恩師の知り合いで、今いる学問の都は古典の府の教授であるリンディーレの計らいで、住む家をもらい、学校へも通わせてもらっている。 大変な幸運のはずだった。 さすらいの民に養われて育った暗い膚のみなしごとしては。

2020-04-25 20:26:29
帽子男 @alkali_acid

「わかんない…」 目を開いていてもろくに何も見えないが、瞼を閉じる。 リンディーレ教授の言葉が蘇る。 ウィスティエと同じ尖り耳に暗い膚の一族と、彼等が暮らしていた土地のこと。 地上から消え去った影の国。 そこを支配していた八人の黒の乗り手。 その力の源だった九つの魔法の指輪。

2020-04-25 20:30:19
帽子男 @alkali_acid

指輪は影の国の秘密を解き明かす鍵。 ひょっとしたらウィスティエの仲間かもしれない人々、闇妖精が暮らしていたという国への。 「…こわ…」 とりあえず近寄らないでおこうと思った。

2020-04-25 20:31:44
帽子男 @alkali_acid

ほかのことを考える。 仲良くなった猫と鳥と犬と蝙蝠。 皆首に細鎖につないだ指輪を吊るしている。 「こわ…」 何かまたよくない話になりそうだったのでやめる。

2020-04-25 20:34:33
帽子男 @alkali_acid

さらに別の何かに思いをはせる。 妖精の騎士。尖り耳に白い肌、満月のように輝くかんばせをした乙女。 すぐに殺すとか死なせるとか言う。 でも不思議と嫌いになれない。 ウィスティエは暗がりの中で小さな指を開いたり閉じたりする。 「ダリューテさん…」 「ヴナ…」 猫が妙に湿った鳴き方をする。

2020-04-25 20:37:34
帽子男 @alkali_acid

「カミツキとダリューテさん…似てる」 「ノーウ!」 不満げな返事。 「なんか…つんとしてて…すぐ、でれって…なる」

2020-04-25 20:38:56
帽子男 @alkali_acid

ごろごろと図書準備室の床を何かが転がる気配。 「ヴヴヴウ…」 黒猫は面白くなさそうだ。 「あ…あの…カミツキは…ダリューテさんが…すごく…好き?」 「ヴ…」

2020-04-25 20:40:33
帽子男 @alkali_acid

「ごめ…」 「ヴウウウ…フシャッ」 カミツキがくしゃみをしたらしい。 「ほこりっぽい…かも」 「ヴナ」

2020-04-25 20:41:35
帽子男 @alkali_acid

何となくこの話題はあまり怖くないので、悪いと思ってもつい続けてしまう。 「あの…ダリューテさん…カミツキ…ほかも…ちょっと似てる…」 もう黒猫は鳴かない。ただじっとしているようだ。 「…喧嘩…喧嘩するの…なんていうか…喧嘩じゃないと…えっと…えっと…喧嘩しか…できない?」

2020-04-25 20:44:00
帽子男 @alkali_acid

やっとうまく言葉がまとまる。 返事はないがなんとなく聞いているようではあった。 「あの…でも喧嘩…迷惑だから…ほかの方法…が…いいと思う」 かりかりと音がする。相棒は爪とぎをはじめたのだ。 「ほ、本はだめ!棚も!」

2020-04-25 20:46:56
帽子男 @alkali_acid

音が止まり、気配が近づいてくる。怒ったのだろうか。 「カミツキ」 「ヴナ」 黒猫は少女の爪先をそっと肉球で踏んで存在を伝えてから、そばを抜けて準備室の扉に爪をかけ少しだけ開いて外をうかがう。 「ヴヴ…」

2020-04-25 20:48:29
帽子男 @alkali_acid

足音が二組聴こえる。ようやく図書室に利用者が来たらしい。 「今日は中等部じゅうすごい騒ぎ」 「好都合さ」 衣擦れの音。

2020-04-25 20:49:37
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