【そこに行くのだ】福間健二 #k2fact255
チーズと胡椒、黙っていると大変なことになるイタリア料理のレストランがあって、食べない彼は塩をひとつまみだけ舐めてワインを飲みつづけた。オン・ザ・ラン。名前を思い出せない町の、夜早くからだれも通らなくなる中心部。二人で発明した音階と十字路がよみがえる。(そこに行くのだ1)#k2fact255
2020-04-19 08:27:36いつまでも大きな穴。油断すると吸い込まれて大音量のノイズミュージック。あなたにとって、彼の死は。非常階段を転げ落ちていくマシーン。壊れないのは思い出が濡れているから。指先の魔術。もうひとりのフランシスコからメール。故郷の島に戻って元気にしてるってさ。(そこに行くのだ2)#k2fact255
2020-04-20 09:25:00大きな穴だけがスタイルの変更を迫るのではない。小さな穴もやっかい。不調から立ちなおろうとする双児が別の落ち方をする。道々の不在、だれの罪でもないとするまでの通り方、情報の読み方がむずかしくて苦労して手に入れた「新聞」と同じものをだれかが朝の郵便箱に。(そこに行くのだ3)#k2fact255
2020-04-21 09:40:14あなたのそばにもいるだろう。アリサやアヤのような、ハラハラする子。細くて、意志つよくなさそうだが、当たり前のように恋をして、用意されていたチケットをゴミ箱に。不幸と鳴らない琴のあいだを飛ぶ鳥でわるかったね。ぶつかった帽子の人に言う。痛い、痛い、痛い!(そこに行くのだ4)#k2fact255
2020-04-22 11:16:03縦と横。どちらでも新しさよりも入りやすさの、虚構の踊り場。いいのかってことあるとしても、閉じられた状態のままのはずがない。内輪でいるときは歌う人たち。悪い四月だが、噂を聞かない田園詩人はどうしてるだろう。森、小川、田んぼ。いまでも風が友だちなのかな。(そこに行くのだ5)#k2fact255
2020-04-23 08:48:21風だけではない。自然のかたすみにあるいろんなものがなにか言っていて、ときには耐えがたくなる。聴く人には。見る人には。なにか足を使ってないような立ち方の、自分じゃない体を水面に映す人には。寂寥と孤独が光線につらぬかれ、モノローグがいくつもの声になる。(そこに行くのだ6)#k2fact255
2020-04-24 12:02:39木の葉のそよぎ。光を吸う猫の背中。影を脱ぐ兄弟たち。レモン型の星の、時間を気にするきらめき方。萎れそうなアマリリス。すべてが懐かしい。白い馬が来る。歪んだドアもあいてあなただけにではなく語っている。失った夢のためにもう何も願わないなんてだめだよって。(そこに行くのだ7)#k2fact255
2020-04-25 09:20:51ひとりで生きている。でも、ひとりで生きていない自分もいる。そうだった。漢字で書けば飛ぶ鳥のアスカや未来のミクちゃんの方がよくわかっている。周期的に知らない町に笑顔で舞いおりて、眠り込んでいるあなたを目ざめさせるはずだけど、いまはそれも自粛なのかな。(そこに行くのだ8)#k2fact255
2020-04-26 09:45:05本物のイタリアの田舎の食堂。老人にお昼を安く出している。百歳以上は無料。夕食用のおみやげも。テレビでその様子を見ながら「新聞」の上で何をしているのだ。どこに監視の目があるかわからない都会に閉じ込めれた田園詩人。かんちがいの「正しさ」の暴言に負けるな。(そこに行くのだ9)#k2fact255
2020-04-27 10:44:14人を追いつめる。人がしている。何がおきているのか。だれがわかっているのか。反省しだしたらキリがないこの汚れた星の、この迷路で、あなたに言いたかったこと。もう悩まなくていい。時代遅れの豪傑になった田園詩人はいびきかきながらアリサたちの新花笠踊り見物だ。(そこに行くのだ10)#k2fact255
2020-04-28 09:35:14