みんな大好きミラージュⅢのこぼれ話 -デルタの系譜と冷戦期の戦闘機に求められた要素ー

松田未来先生のミラージュシリーズに関するこぼれ話と、そこから派生した冷戦期の戦闘機の解説
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

#カッコいい飛行機の画像を見て心を癒す フランスの誇るロングスカートの貴婦人。ダッソー・ミラージュⅢです。三角定規のような主翼が美しい、軽やかに踊るこの子はどういうルーツがあるのでしょう。 pic.twitter.com/Uk6mbvnTzt

2020-04-30 16:27:18
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

その頃の大国の例にもれず、超音速戦闘機を欲していたフランスは、自国開発のウーラガンやミステールでは満足できなくなっていました。 「超音速戦闘機が欲しいのじゃ(マリー・アントワネットのように)pic.twitter.com/60xRWOJsIz

2020-04-30 16:31:40
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

どうしても欲しい戦闘機はレーダー装備が大前提となると、今までの機首に大口の開いた機体ではいけません。ダッソー社は当時最先端の「デルタ翼」で1から設計することになります。まず作ったのはかなり小型のMD.550。後にこれは「ミラージュⅠ」と命名されました。ミラージュ一族の始まりです。 pic.twitter.com/NrGnhn8WnE

2020-04-30 16:37:30
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

Ⅱは設計段階でボツ、Ⅰは飛行性能はよかったのですがいくらなんでも小さすぎた(ミサイルを1発しか積めない…)ので機体規模を大きく実用レベルにしたのが、ミラージュⅢなのです。 pic.twitter.com/3DRnQKRNLv

2020-04-30 16:40:48
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

さて、なぜダッソー社はデルタ翼を選んだのでしょうか?実は純粋なデルタ翼機戦闘機というのはその優美な姿に反して実用例が少ないのです。たいていデルタ翼+水平尾翼の形式になるのですね。最近のはみんなそうです。 pic.twitter.com/8ZZbaLkR1A

2020-04-30 16:45:12
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

デルタ翼は、構造が強固で単純故に軽量化に繋がりやすく、高速時の抵抗も少ないのでエンジン出力の割に速度を出せる、翼面積も後退翼に比べて稼げて搭載量も多くできるなどメリットは多いのですが、逆にデメリットも色々あります。この写真の離着陸時の迎え角の大きさなどはその典型。 pic.twitter.com/Kidto47bLx

2020-04-30 16:48:46
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

水平尾翼のない純デルタ翼は機首を上下に動かすピッチコントロールを主翼でやらなければいけない以上、フラップなどの高揚力装置を付ける場所がありません。なので低速領域では揚力を稼ぐために迎え角を大きくせざるを得ないのです。しかしそれでもデルタ翼に拘る理由がフランスにはありました。 pic.twitter.com/B4EVy6N3DJ

2020-04-30 16:53:41
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

これがその理由であるSNECMA社のアター・エンジンです。エンジン技術で他国より劣るフランスの戦闘機は、国の方針で低出力の自国製エンジンを使わざるを得ないというハンデを常に抱えていました。ちなみにこのアター・エンジンのご先祖はWW2のドイツが実用化したBMW003エンジンです。 pic.twitter.com/JUffnJjR2H

2020-04-30 16:58:28
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

要撃戦闘機として最初の実用量産型となったのがC型です。シラノ対空レーダーとDEFA30mmリヴォルヴァーカノンを装備しています。搭載ミサイルは最初米国製のサイドワインダー9Bでしたが、後に国産のマトラR.550マジックが搭載可能になっています。 pic.twitter.com/CaAMhZhE9b

2020-04-30 17:04:43
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

電波誘導式のマトラR.530も搭載可能ですが、センターパイロンに一発だけ。小柄ゆえのハンデはこういうところに現れます。次の型であるE型では対策が取られることになりました。 pic.twitter.com/4a3ln5uZRn

2020-04-30 17:12:45
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

燃料タンクと電子機器の増設のためにコクピットのすぐ後ろを300ミリ延長したE型は、最も量産されて、そのバリエーションは海外へと輸出されまくった決定版です。 pic.twitter.com/Ktekw1lUpH

2020-04-30 17:16:10
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

ところで、フランスは兵器を色んな国に輸出しまくっちゃうんですが、ミラージュⅢも例外ではありません。というより大ベストセラー機になりました。世界中で20カ国以上が(派生機含めて)採用したのです。 pic.twitter.com/yNeRA6asvz

2020-04-30 17:25:25
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

「夜光雲のサリッサ」の公開が始まりましたので一休み。続きはまた夜にでも。 comic-ryu.jp/_sarissa/

2020-04-30 17:27:23
松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

本家ダッソーの作った戦闘爆撃機型ミラージュ5/50だけでなく、イスラエルでコピーされたネシェル、更にエンジンを米国製のJ79に換装したクフィル、そして南アフリカのチーターなど、ミラージュⅢは色んな国で魔改造されたのです。 pic.twitter.com/KlHau1Bqgb

2020-04-30 23:43:55
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

イスラエルのミラージュの派生型として、日本で妙に有名なのがクフィルC2/C7ですね。あの名作エリア88においてアスラン空軍の主力機だったからです。特徴はインテイクちょっと後ろに生えている「カナード」これはデルタ翼の欠点であった縦のピッチコントロールを司るパーツです。 pic.twitter.com/8NiEaIhzyq

2020-04-30 23:50:24
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

エンジンのパワーアップも相まって、クフィルは旋回性能と搭載量が向上し、イスラエル空軍の一翼を担う機体になりました。そして一部はアメリカに渡り、F-21として海軍のアグレッサー役も務めるのです。 pic.twitter.com/NdU8vQCDaa

2020-04-30 23:53:27
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

ミラージュシリーズは数々の戦争に参戦しています。その中で有名なのは第3次中東戦争フォークランド紛争でしょう。イスラエル空軍のミラージュⅢはアラブ諸国のMiG-21相手に格闘戦と機関砲で勝負し、多数のエースを輩出したのです。 pic.twitter.com/IDo1hVghOo

2020-05-01 00:00:38
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

フォークランド紛争においては、離島上空という不利を抱えながら奮戦しますが、空中戦では英国海軍の空母が連れてきたシーハリアーに劣勢に立たされます。機体性能では上のはずでしたが、不利な条件に加えて、使用するミサイルの性能が大きく勝敗を分けましたpic.twitter.com/tW1BadygQs

2020-05-01 00:04:55
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

ミラージュⅠから始まったフランスのデルタ翼へのこだわりは、一度は離着陸性能を優先したミラージュF1で水平尾翼を選択しますが、ミラージュ2000ではデルタ翼へ先祖返り、更に最新型のラファールではデルタ翼+カナード翼へと進化しています。機体構成が小柄であることは一貫したポリシーなのです。 pic.twitter.com/b1JdYF4NPX

2020-05-01 00:14:33
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松田未来 コミティア147(2/25) 翼駆人アラン第Ⅵ章 @macchiMC72

ロングスカートは伊達ではないというフランス空軍の貴婦人、ミラージュシリーズのお話はこれぐらいで。このシンプルな美しいシルエットが空を飛んでいたことを時々思い出してくださいね(おしまい) pic.twitter.com/JJ1V1UKmvZ

2020-05-01 00:18:22
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ウチューじん・ささき @uchujin17

ミラージュが搭載したマトラR530電波誘導ミサイルは信頼性も精度も悪く、そもそもシラノ・レーダーの精度が悪くてレーダー測距照準器の表示まで狂って機関砲の命中率まで悪影響を及ぼしたので、イスラエルのミラージュは1965年頃にレーダー連動を切って距離設定スイッチを増設したと言われています。 twitter.com/macchiMC72/sta…

2020-05-01 00:51:42
ウチューじん・ささき @uchujin17

1950年代は核兵器の使用が深刻で現実的な脅威として認識されていた時代でもあり、この頃に企画された超音速戦闘機の多くは核爆撃機を可能な限り遠距離で捕捉し確実に撃墜する「爆撃機絶対殺すマン」の性格を持っていました。マトラR530も大型鈍重な戦略核爆撃機を標的に想定したミサイルでした。

2020-05-01 00:55:56
ウチューじん・ささき @uchujin17

ミラージュIIIも「爆撃機絶対殺すマン」の性格を持っており、SEPR84 ロケットエンジンを付けて2万メートルの高高度へ急上昇しマッハ1.8で弾道飛行して迎撃地点へ急行する能力を持っていました。この「ズーム上昇迎撃」ミッションでは、パイロットは宇宙服にも似た全身気密服を着用します。

2020-05-01 01:00:49
ウチューじん・ささき @uchujin17

しかし有毒かつ爆発性の液体ロケット燃料の取り扱いには細心の注意が必要で、パイロットは減圧症に備えて数時間かけて純酸素を呼吸し体内の窒素を追い出しておかねばならず、「ズーム上昇迎撃」がいつでも出撃できるようスタンバイするのには非常なコストとリスクが伴いました。

2020-05-01 01:06:03
ウチューじん・ささき @uchujin17

幸いにして核爆撃機による先制攻撃は実現しないまま、やがて長距離核ミサイルが実現すると「爆撃機絶対殺すマン」の優先順位は下げられ、補助ロケットや気密服を使う超高高度での高マッハ性能は要求されなくなりました。

2020-05-01 01:11:46