蝙蝠【@koumoli】の #ふぁぼの数だけ行ったことがあるように架空の町の魅力を紹介する まとめ最終回

さよなら空想街。 1〜100はこちら https://togetter.com/li/982813 101~200はこちら https://togetter.com/li/1195477
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いつもの錯乱~最終回~

旅の始まりは美しくなくちゃ
201.風の花畑
202.色の国
203.消えゆく国
204.言葉の村
205.緑の国
206.母の国
207.沈黙の国
208.空中タクシー
209.恵みの子

蝙蝠 @koumoli

広大な花畑を誇るこの地域では、春の終わりに吹く山颪を「花舞台」と呼んで何よりも大事にしてきた。 花に嵐なんて言葉があるが、ここを訪れた後には少し使い辛くなるかもしれない。 たった一陣の風で花びらが蒼穹を覆い、万華鏡の様に移ろう景色など、美しい以外の形容詞が浮かびようもないのだから。

2019-11-12 01:41:42
蝙蝠 @koumoli

ドレスコードの厳しい国は時折あるが、色にだけ注目する国は珍しい。しかも気分重視となると尚更だ。 白だと「元気」、黄は「ご機嫌斜め」のように細かくルールが定められており、考え無しに差し色などすれば顰蹙買い放題と化してしまうのだが、ひと目で虫の居所が分かるというのは存外便利であった。

2019-11-12 02:18:02
蝙蝠 @koumoli

この国で死者の姿が見える事は何も特別な事ではなかった。彼らは止まったはずの命で、至極当然のように生活を続けているのだ。 けれど、死者と暮らせるのはその人を覚えている間だけ。生者は薄れていく爪の形や足の大きさに別れを告げながら、最後まで消えない何かを大切に抱いていた。

2019-11-13 00:24:54
蝙蝠 @koumoli

この村では結婚相手に言葉を捧げる風習があった。捧げた言葉は二度と口にしないという誓いだ。てっきり愛してるとか好きだとかが人気なのかと思ったが、青年は「まさか!」と言って笑った。 「捧げるのは『醜い』や『不味い』など失礼な単語 です。だって大切な言葉は何度だって伝えたいでしょう」と。

2019-11-13 00:44:56
蝙蝠 @koumoli

豊かな自然を謳う国を訪れた時、私は汽車を間違えたのだと思った。申し訳程度の細い街路樹と、粗末な花壇。けれど住民は数十年前のデータを取り上げては、自国を褒めそやしていた。 「いつか影が長く伸びる事さえ懐かしく思う日が来るわ」 夜も眩い街の片隅で出会った彼女は、そう言って小さく笑った。

2019-11-13 18:17:59
蝙蝠 @koumoli

どうか愛しいと思わないでください。全てを擲って国を守る女王の事を。 見るもおぞましい姿になる代わりに、強大な力を得た母の事を。 他者からの敵意を力に変える呪いをかけた彼女が、敵味方問わず厭われたとして。 それでも守りたかった王子が無事成長するその日まで、どうか彼女を蔑んでください。

2019-11-14 23:56:32
蝙蝠 @koumoli

少しばかり歩くだけで、無言のまま過ごしている人達が多い事に気付くだろう。 気になって何をしてるのか問うてみると、学生らが「沈黙を共有してる」のだと教えてくれた。数分間黙って世界を見つめ、その後に音や匂い、見たものや感じた事を共有するのが、この国で最高のコミュニケーションらしい。

2019-11-16 08:30:41
蝙蝠 @koumoli

「空中タクシーに乗った」と言うと、すかさず子供たちがやって来るだろう。だってこの国一番の名物なのだから! 渋滞知らずで空を飛ぶタクシーに運以外の出会い方は無いが、だからこそ奇跡的で楽しいのだろう。運転手は料金の代わりに面白い話を聞きたがり、私は束の間の千夜一夜を体験した。

2019-11-16 08:39:11
蝙蝠 @koumoli

ある村では飢饉が到来すると、神の子と呼ばれる存在が生まれる事があった。光る髪と目を持つその子唯一人を贄に捧げるだけで、木々や花、獣に至るまでが蘇るという。 両親は「我が子は選ばれた子。光栄なこと」と互いを納得させるように言い合い、「どうして?」という言葉を必死に噛み殺していた。

2019-11-16 08:55:25

目には見えねど
210.崇拝の国
211.葬送の原
212.妖精の冬
213.祈りの石室
214.憧れの人
215.顔の無い国
216.時計隠しの町
217.別れの旋律
218.感情の町
219.ジレンマの国

蝙蝠 @koumoli

日替わりで何かを崇拝する国だった。「今日は猫を讃えよ」「明日は落葉を崇めよ」と、ジョークの様な感覚で遊ぶ彼らを楽しそうだと思ったが、ふと崇拝の対象が特定の人間に変わったらどうなるのだろうと考え、少しばかり背筋が冷えた。

2019-11-21 23:16:54
蝙蝠 @koumoli

人喰人外が出るという荒原で倒れた私は、朧気な意識の中で彼らの鳴き声を聞いた。 「私を食うのか?」 そう答えを望まぬ問いを投げると、優しい目をした人外はそっと大地の果てへ消えていった。 だから謝れないのだ。君たちはただ見知らぬ生き物の死を悼んでいただけなんだ、と今更理解したところで。

2019-11-21 23:29:49
蝙蝠 @koumoli

春を前にすると、この町ではえらく大きな雪片が降る事があった。 通常よりも水を含んで重い塊だ。うっかり直撃した私はそこそこの痛みに悶えるなどしたのだが、妖精の雪合戦にお招きされてるという独特の言い回しが可愛らしくて笑ってしまった。

2019-11-21 23:41:47
蝙蝠 @koumoli

じっとりと湿度の高い石室に、その絵は飾られていた。数百年前の物とは思えない精緻な図で、たとえ異教徒の見物客でも畏敬の念を抱かずにはいられまい。 多分それは技巧だけではない。この湿度で絵が保たれるなど、絶え間なく訪れる信者が石室の空気を循環させてきた歴史の証明に他ならないからだ。

2019-11-22 00:17:30
蝙蝠 @koumoli

お孫さんとお散歩ですか? そう何の気無しに老人に声をかけると、「兄です」と言って突然泣き崩れた。 なんでも遠い昔に死んだお兄さんのクローンを作り出し、共に暮らしているのだという。優秀な兄にコンプレックスを抱き続けてきた彼は、「今度こそ愛せると思っていた」と己の心を詰って泣いた。

2019-11-22 01:02:10
蝙蝠 @koumoli

二本の足に二本の手、肌は柔らかで暖かく、綺麗な服装をした彼女らは、ただ顔だけが無かった。 首はあるのだ。髪も、それに輪郭だって。けれど顔と認識する部分だけが、真っ暗な穴と化している。 君も『顔』を人間の定義としてるのかい? そう冗談めかして問われたが、終ぞ答えることは出来なかった。

2019-12-07 00:17:58
蝙蝠 @koumoli

客に時間を見せぬことがマナーとされる街では、知恵とセンスを駆使して時計を隠していた。 たとえば絵画の時計塔に本物の針が仕込まれていたり、何気ない置物が日時計の役割を果たしていたりと、種類さえ千差万別だ。 おかげでマナー違反とは知りながら、隠れ時計を探すのを全力で楽しんでしまった。

2019-12-07 00:27:11
蝙蝠 @koumoli

「別れだ!」と酔っ払いが声を上げると、少しの間ツィターの音色が響いた。 聞いてみれば人々の別れの余韻にメロディを乗せる演奏家らしい。 「じゃあ、二度と此処に訪れる機会が無いかもしれない私に一曲」 そう依頼すると、彼は離れ難くなる程たっぷりの時間をかけて、優しい曲を弾いてくれた。

2019-12-07 14:36:21
蝙蝠 @koumoli

言語化できない感情に自分だけの名前をつける町では、心を共有できない事が至極当たり前だった。 「全く伝えられないわけじゃないのよ。辞書みたいに説明を並べたてればわかるかもしれない。でも自分の中でだけ大切にしたい感情が、一つくらいあっても素敵でしょ?」と、女性は語ってくれた。

2019-12-08 01:25:25
蝙蝠 @koumoli

しっとりとした彼らの身体を喩えるならバルーンの質感とよく似ていた。柔らかく外傷に弱い性質が、余計にそう思わせていたのかもしれない。 ファンシーな見た目の種族であったが、彼らは「誰かと触れ合いたい」と言って深く嘆いていた。 命を超えた憧れは、間もなく理性を飛び越えてしまうのだろう。

2019-12-08 23:22:31

向き合うのは怖いもの
220.水中紅葉
221.喪失の国
222.詩集の国
223.寿命カレンダー
224.光の小瓶
225.置き去りの国
226.前世の国
227.寝言の街
228.夢の亡骸
229.人名の村

蝙蝠 @koumoli

水の中でだけ育つ木を見学しに湖へ訪れると、既に大勢の観光客で賑わっていた。 カメラを調整しながら順番を待ち、いよいよ正面に立った時、私は嘘臭いほど滑らかに息を呑んでしまった。 何故って、無数の金色の葉が水中を駆け巡り、揺れる水面が視界全てを煌めかせるなど、感動以外の何が出来ようか。

2019-12-08 23:49:17
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