第2次世界大戦における「アメリカ裏口参戦論」に対する一考察

まあ誰もが一度は通る陰謀論(と言うか責任転嫁)ですよね、で、真珠湾に旧式戦艦を(日本に沈めさせるために)集め、真珠湾奇襲攻撃を誘ったというふうに続く。だが冷静に考えると、「それ、漸減要撃作戦をバトルドクトリンとする日本海軍にはハードル高過ぎね?」というごく普通の答えにたどり着く。そして「日本海軍の中に協力者がいないと無理だよね~、山本五十六あたりが最有力候補かな?」とまで考えて、陰謀論に過ぎない事に気づくんですよ。それを資料から、極真面目に取り組んだ人が居ちゃったりします(←褒めてますよ本気で)。以下参照。
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HIROKI HONJO @sdkfz01

趣味は社会科学と酒。猫好き。 自動車メーカーの窓際社員。 「戦う飛行船」(共著 イカロス出版 2022年)、「ツェッペリン飛行船団の英国本土戦略爆撃」(2020年) 論文:「三代広重が描いたフランス蒸気軍艦『ブルターニュ』」(「浮世絵芸術」187号) NHK BS 「ヒンデンブルク号の悲劇」(2021年)スタジオ出演

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【太平洋戦争前夜の米国世論調査】 真珠湾攻撃以前の米国民は、本当に厭戦論に取り憑かれていたのでしょうか? 「反戦世論に直面したルーズベルト政権は、日本を締め上げて戦争に追い込み、『裏口から』参戦した」 巷間に流布されるこの言説について、以下の観点から私は疑問を抱いています。 pic.twitter.com/xGztcwuctk

2020-05-01 20:55:06
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1.ドックプランから勝利計画に至るまでの米国の戦争戦略が徹頭徹尾対独戦に重点を置いているのに比して、対日戦は非常に曖昧な位置づけと内容しか与えられていない。

2020-05-01 20:55:28
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2.日本に「最初の一発」を撃たせたところで、ドイツが宣戦してくる保証はどこにもない。

2020-05-01 20:55:50
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3. 1940年から1941年にかけて米国の世論が参戦に傾いていった事実を等閑視している。

2020-05-01 20:56:17
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今回は上記の3.について見ていきましょう。 主なソースは以下です。ギャラップ調査の結果を分かりやすくグラフにしています。 exhibitions.ushmm.org/americans-and-…

2020-05-01 20:56:55
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まずはWW2開戦直後の1939年9月。「数か月以内に英仏に敗北の兆しが見えた場合、米国はドイツに宣戦すべきか?」という問いに対して、YESが42%、NOが48%。 参戦派はやや劣勢ですが、まあ拮抗していると言えましょう。 pic.twitter.com/X3rIVEWbx1

2020-05-01 20:57:39
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続いてドイツが低地諸国とフランスを席巻しつつあった1940年5月。対独宣戦に賛成は7%、反対は93%。「国民の9割が参戦に反対」という言説の論拠の一つがこのデータです。 ドイツが予想以上に強力なことを見て取り、及び腰になったように感じられます。 pic.twitter.com/x47psv6nhe

2020-05-01 20:58:16
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しかし、英国がバトルオブブリテンに勝ち抜いた1940年11月の調査で、数字は大きく動きます。「戦争に巻き込まれるリスクを冒しても英国を援助すべきか?或いは、飽くまで局外に立つべきか?」という問いに対し、前者に賛成は60%、後者は40%。 世論とはかくも移ろいやすいものなのですね。 pic.twitter.com/PVw9n7oPsO

2020-05-01 20:59:25
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翌41年3月、米国はレンドリース法を成立させ、それまで中立法によって一定の制約を受けていた英国への大規模な軍事援助に乗り出します。この年、米国は15億ドルの軍事物資を英国に供与(前年の2.5倍)し、経済は軍需生産へと転換されて行きました。 pic.twitter.com/RXvdOOgJfG

2020-05-01 21:00:14
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それに先立つ1940年9月には選抜徴兵法が制定。41年の軍事費は前年の3倍以上に急伸し、62億ドルに達するなど、米国は急速に戦時体制に突入します。 pic.twitter.com/Fvldfbbie5

2020-05-01 21:00:53
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1941年5月、ドイツはソ連へ侵攻。戦術的には華々しい勝利を続けますが、大局的には前途に暗雲が垂れこめます。まさにその頃(7月)にも同じ調査(参戦リスクを冒しての英国援助or局外中立)が行われていますが、この時は前者が62%、後者が33%。参戦容認派は反対派の倍に上ったのです。 pic.twitter.com/SQ52tyxyyi

2020-05-01 21:01:38
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同年9月、ルーズベルトの意を受けた米陸軍は第二次大戦に対する合衆国の基本方針となる「勝利計画」を策定。これはドイツを主敵と認定し、1943年7月1日をもって本格的な反攻に転ずるとしたもので、この時までに880万人の兵力を動員する予定でした。(実際の戦局もほぼこの通りに推移します) pic.twitter.com/85ps18Uq12

2020-05-01 21:02:18
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そして1941年11月の調査結果。「局外に立つべきか?或いはドイツを打倒すべきか?」という質問に対して、前者に賛成は28%、後者は68%。パールハーバー直前の米国世論は、はっきりと対独宣戦に傾いていたのです。 pic.twitter.com/7dudm0bcjI

2020-05-01 21:03:08
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もちろん、これには理由があります。41年の9月には、限定的とはいえ、米国はドイツと交戦状態に入っていました。同国は英国救援のため、アイスランドを保障占領。ここを経由して大量の軍事物資が続々とブリテン島へ送り込まれます。 pic.twitter.com/3uBJDaznEy

2020-05-01 21:03:56
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同月、米国は大西洋上でドイツ艦を発見しだい発砲すると宣言。ドイツはこれを看過せず、10月31日、船団を護衛していた米駆逐艦「ルーベン・ジェームズ」がUボート(U552)に撃沈されます。乗員159名中、115名が死亡しました。 これは第二次大戦に於ける米軍初の軍艦の喪失となりました。 pic.twitter.com/wqPA8I4tCQ

2020-05-01 21:04:48
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過ぐる9月11日、ドイツ海軍司令官レーダーと潜水艦隊司令官のデーニッツはヒトラーへ対米宣戦を進言しています。やがて対ソ戦の進捗が思わしくなくなると、ドイツ海軍は米国からの物資輸送の阻止を決断します。 「ルーベン・ジェームズ」の撃沈は決して偶発的な出来事ではありません。 pic.twitter.com/qcillqb9Gw

2020-05-01 21:05:37
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今や米国の世論は憤激し、事実上参戦を受容するに至ったのでした。 pic.twitter.com/Xf26qQsL7G

2020-05-01 21:06:22
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HIROKI HONJO @sdkfz01

私は、コーデル・ハルを中心とする米国中枢の一部が、ある段階から対日戦を明確に意識して行動したことを否定しません。 しかし、「米国が対独参戦のために、日本を『裏口』として利用した」という言説は、事実に即して考えれば、相当に疑わしいものであると言えましょう。 pic.twitter.com/WlcXPvKEmU

2020-05-01 21:07:18
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HIROKI HONJO @sdkfz01

なお、以下の別ソースによれば、41年9月のギャラップ調査で既に「戦争回避か、ドイツを打倒すべきか?」という問いに対して、前者に賛成は30%、後者は70%という結果が出ています。 ibiblio.org/pha/Gallup/Gal… pic.twitter.com/6Ct5jwX6v7

2020-05-01 21:08:35
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HIROKI HONJO @sdkfz01

従って、「対独参戦のために日本を締め上げる」などというアクロバティック、かつ不確実な方法をワシントンが採る蓋然性はありません。 普通にドイツを追い込めば良いわけですし、事実その通りになっていたのです。 pic.twitter.com/sWbwJLsoZT

2020-05-01 21:09:47
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HIROKI HONJO @sdkfz01

参考まで、対日戦に関する調査も付け加えておきます。↓

2020-05-01 21:10:53
HIROKI HONJO @sdkfz01

41年2月:日本との戦争の危険を冒してでも蘭印とシンガポールを守るべきか YES:39%、NO:46% 41年10月:日本と戦争の危険を冒してでも、その強大化を阻止すべきか YES:64%、NO:25% 41年11月:合衆国は近い将来日本との戦争に突き進むか? YES:52%、NO:27% pic.twitter.com/ZIGDnX3Yw3

2020-05-01 21:12:11
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HIROKI HONJO @sdkfz01

41年の年央あたりから対日感情が一層悪化したことが見て取れます。 これは明らかに日米関係のポイント・オブ・ノーリターンとされる南仏印進駐が影響しており、日本のオウンゴールとしか言いようがありません。 これだけを見ても、「米国の陰謀」論が如何に根拠薄弱かが分かります。 pic.twitter.com/zTc1Y2VpQu

2020-05-01 21:13:24
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HIROKI HONJO @sdkfz01

≪今回のまとめ≫ 香ばしい人「米国民の9割が参戦に反対!」 →それは1940年半ばの話で、一年で世論は大きく変わります。 香ばしい人「よって、ハルノートで裏口から…」 →その時点で米独は既に交戦状態で、正規の戦争への移行は時間の問題です。 pic.twitter.com/gRe4NckRd7

2020-05-01 21:15:10
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