『底本に幻影で積み立てられた青藍を用いた感想二首』

秘封倶楽部について。銀雲櫛櫛。
SS
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@kawagopo

■『底本に幻影で積み立てられた青藍を用いた感想二首』■ 作:皮

2020-05-09 21:11:31
@kawagopo

待ち合わせ場所へ帽子を首までかぶってやって来た宇佐見蓮子を見て、私は驚きもせず挨拶を渡したはずである。およそ彼女に似つかわしくない奇行のため頭の中が疑問でいっぱいになっており、待ち合わせに使った街路樹の静かな緑色くらいしか記憶に残っていないのだ。 1

2020-05-09 21:11:45
@kawagopo

しばらくしてもう一度呼びかけてみても私をメリーと呼んでくる少女の声は毛ほども聞こえず、そういえば彼女の頭が収まるには黒い帽子は少しばかり小さすぎると得心した。おそらく口がどこかへ行ってしまったのだろう。 2

2020-05-09 21:14:12
@kawagopo

なんとか原因を探ろうと並んで歩く蓮子を下から覗き込んでみたが、そこにびっしりと結界の裂け目が滴るように揺れているのを見てすぐに視線を切った。すれ違う人の興味を浴びるのは恥ずかしく、私は何度も蓮子に声をかけてみたが彼女は立ち止まって振り返る仕草をするだけだった。 3

2020-05-09 21:17:44
@kawagopo

今日は酩酊をしに出かけているのにそんなのでどうやって酒をあおるのだ、と声に出したのは集合から十分は経っており、このまま店に蓮子は入るつもりだろうと確信したときだ。前を向いたまま彼女は止まり、心なしか足をもつれさせるようにして私へ向き、前を向き、来た道を戻りはじめた。 4

2020-05-09 21:21:26
@kawagopo

数歩だけ追いかけ、実にくだらない時間を過ごししていると考えてしまった私は彼女の背を見送ってからその日は一人で過ごした。 5

2020-05-09 21:25:15
@kawagopo

それから会うたびに蓮子は帽子に飲まれる割合を変えていった。或るときは肘まで。次の日は腿まで。その次の日は頭の代わりに生えている思い出したくもない内蔵の上へ帽子を乗せてきた。ぬらついた光沢と蠕動のあれが蓮子の頭だというのは皮肉にしても度を超えており、いっそ笑おうかと呻いたものだ。6

2020-05-09 21:27:37
@kawagopo

手首まで帽子を被っていたときは、彼女の指先が地面に平行するような形になって歩くものだからニワトリの雛がちょこちょこ歩くさまを思い出してしまい、常に私は微笑んだ。 7

2020-05-09 21:31:35
@kawagopo

足首から先だけが出ている日も歩幅が短くせわしないために私の母性を刺激してやまなかったし、膝の半分ほどを隠すような帽子のかぶり方をした時の不安定な歩行は、コケティッシュへ対する思索を通して私にいくつかの理屈を発明させた。 8

2020-05-09 21:34:49
@kawagopo

自室の壁際に机をひとつ置いているのだが、朝になって目を覚ますとそこへ生首が一つ置いてあった。私の瞳が動きを止めているあいだ、その首が宇佐見蓮子のものであり、少しの出血もなく銀の皿だか盆のようなものへ鎮座しているのを見てとった。 9

2020-05-09 21:36:07
@kawagopo

寝起きであったためか正気を失って興奮してくるのも緩やかであり、蓮子の首を観察し、手で探ったりするあいだ私としてはずいぶん冷静であったと思う。首は呼吸しておらず、冷たいといえば冷たいが部屋の気温を考えるとこんなものだろうという程度だった。 10

2020-05-09 21:38:44
@kawagopo

腐臭も体臭もなく、生物の出す匂いがわずかに鼻をくすぐるのみで、閉じたまぶたを指で開くと生きているかのように潤んではいた。首の断面を眺めてみると、骨と肉がモザイク細工のように陳列されており、目を細めた先で血管の中にしたたる結界の裂け目を確認すると私は首を安置した。 11

2020-05-09 21:42:07
@kawagopo

そのころになって興奮は恐怖へと移り変わりはじめたので、私はそそくさと準備をして予定のない外出へと繰り出していった。どうしたものかと歩き回り、あらゆる街路樹へ黒色の帽子が掛けられているのを見て恐怖が落ち着いた私は家へ帰り、夕方の薄暗い光の中でふたたび蓮子の首と向き合ってみた。 12

2020-05-09 21:43:33
@kawagopo

少なくとも知っている人間の首ではあるまいと結論づけた私はもう一度つぶさに首を調べ、しかし目新しく気づいたことといえば首を据える銀板に透かされた細工造形の見事さであり、二枚貝から吐き出される蜃気楼の寄せては返す波のような曲線を目でたどった。 13

2020-05-09 21:48:26
@kawagopo

髪のあたりへ鼻を近づけて息を吸い込むと、どうにも植物的な漂いかたをする匂いだった。気になった私は両指を使って黒髪を一本だけ選び取るとそれを唇で挟み犬歯で伐った。夜が窓から入り込んでくる部屋の中でずっと、その線を私は指でもてあそんでいた。 14

2020-05-09 21:50:15
@kawagopo

やがて髪と夜の色が一致してなにも見えなくなったころ、背後の闇で身じろきによる肌と肌がこすれる幽かな音。振り向いた先に裸の足。私は驚きもせず挨拶を渡したはずである。 15

2020-05-09 21:55:16
@kawagopo

■『底本に幻影で積み立てられた青藍を用いた感想二首』■                          Fin

2020-05-09 21:55:58
@kawagopo

数時間で書いたがプロット用意しないとこうなるんだなぁというのが自覚できました twitter.com/kawagopo/statu…

2020-05-09 22:27:24

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