国公法81条の3の解釈と“検察庁法改正案問題” ~続・大屋雄裕教授(takehiroohya)の話

@takehiroohya氏のツイートを収録。内容はタイトルの通り、https://togetter.com/li/1512152の続編。 引き続き言及された法律の条文も適宜引用しています。
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まとめ “検察庁法改正案”についての大屋雄裕教授(takehiroohya)の話 5/10以降の@takehiroohya氏周辺のツイートを収録。言及された法律(案)の条文も適宜引用しています。 モトケン氏他とのバトルのくだりは、記事を分けた方がすっきりしそうな気もしますがとりあえず一緒に収録。 6250 pv 9
Takehiro OHYA @takehiroohya

ではこれの続き。いやこの件も取材受けててですね、そちらが出る前に勝手に他所で喋るのもと思って少し遠慮していました。 twitter.com/takehiroohya/s…

2020-05-17 23:01:57
Takehiro OHYA @takehiroohya

それ以上についてはあとで書きますが、まあご期待の結論にはならないですよ(いろいろな意味で)。

2020-05-12 10:32:43
Takehiro OHYA @takehiroohya

再確認―「確実に言えるのは、国公法81条の3(定年による退職の特例)が検察官に適用されるのであれば法的根拠はありその要件を満たしているかどうかの実質的な判断になる適用されないのなら退官しているのが正しく不当に在籍していることになる、というところまでです。

2020-05-17 23:01:57
Takehiro OHYA @takehiroohya

①ではまず法文の解釈から。法律家であれば誰も否定しないことから確認していくと、まず検察官は一般職国家公務員であって国家公務員法が適用される(国公2条3項反対解釈)。しかしその特別法として検察庁法があり、特別法が一般法に優先されるので、そちらに定めがあるものは検察庁法が優先される。

2020-05-17 23:01:58
  • 国家公務員法 - e-Gov法令検索

    第二条
    国家公務員の職は、これを一般職と特別職とに分つ。
    ○2 一般職は、特別職に属する職以外の国家公務員の一切の職を包含する。
    ○3 特別職は、次に掲げる職員の職とする。
    一 内閣総理大臣
    二 国務大臣
    三 人事官及び検査官
    四 内閣法制局長官
    五 内閣官房副長官
    (6号以下略)

国家公務員法2条3項は、特別職にある国家公務員を具体的に列挙している条項です。
各号の詳細はリンク先で確認していただくとして、検察官は同項で挙げられていません。そこでこの条文の反対解釈として「検察官は特別職国家公務員ではない」ということになり、同条2項の規定により「検察官は一般職国家公務員である」と導かれます。

Takehiro OHYA @takehiroohya

②いま、国公81条の2は一般公務員の定年を60歳と定め、その日の属する年度末で退職すると規定しているのに対し、検庁22条は一般検察官について「年齢63年に達したときに退官」と定めている。これは明らかに同一事項に関して矛盾する規定なので、後者が適用される(検庁32条の2はその確認規定)。

2020-05-17 23:01:58
  • 国家公務員法 - e-Gov法令検索

    (定年による退職)
    第八十一条の二
     職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
    ○2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。
    (各号略)
    (3項略)

  • 検察庁法 - e-Gov法令検索

    第二十二条
     検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。
    第三十二条の二
     この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。

  • 国家公務員法 - e-Gov法令検索

    附則第十三条
     一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。)

Takehiro OHYA @takehiroohya

③他方、特別法に定めのないものについては一般法がそのまま適用される。たとえば国公82条以下に定める懲戒処分は検察官も対象になる。検察官法に独自の懲戒手続は規定されておらず、検庁25条は検察官が懲戒処分を受けることを予定していることからも、このことは理解できよう。

2020-05-17 23:01:58
  • 国家公務員法 - e-Gov法令検索

    (懲戒の場合)
    第八十二条
     職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
    (各号略)
    (2項略)

  • 検察庁法 - e-Gov法令検索

    第二十五条
     検察官は、前三条の場合を除いては、その意思に反して、その官を失い、職務を停止され、又は俸給を減額されることはない。但し、懲戒処分による場合は、この限りでない。

Takehiro OHYA @takehiroohya

④ところで国公81条の3は「任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において」いわゆる定年延長を命じることができると規定している。これをどう解釈するかが問題とされていることになろう。

2020-05-17 23:01:58
  • 国家公務員法 - e-Gov法令検索

    (定年による退職の特例)
    第八十一条の三
     任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
    (2項略)

Takehiro OHYA @takehiroohya

否定説は、検察官は国公81条の2ではなく検庁22条に基づいて退職するので、「前条第1項の規定により退職すべきこととなる場合」に該当しないと考える。そもそも検庁22条が(国公81条の2と異なり)「定年」という言葉を使っていないという指摘もあろう。

2020-05-17 23:01:59

※再掲

  • 国家公務員法 - e-Gov法令検索

    (定年による退職)
    第八十一条の二
     職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
    ○2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。
    (各号略)
    (3項略)

  • 検察庁法 - e-Gov法令検索

    第二十二条
     検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

Takehiro OHYA @takehiroohya

肯定説は、検察官も国公81条の2が「職員は(……)定年に達したときは(……)退職する」という規定に基づいて退職するのであり、検庁22条はその年齢と退職日に関する特例(「法律に別段の定めのある場合」)を置いたものにすぎないと解する。そもそも検庁22条は定年規定でしょどう見ても、と。

2020-05-17 23:01:59
Takehiro OHYA @takehiroohya

⑦どちらが正しいか、の前にどうやって決めることができるか。両説は前提となる法文の有無を争っているわけではないので、これは解釈に関する対立である。それに決着を付ける最終手段は、裁判しかない。特に最高裁が一定の解釈を支持した場合、覆されるまではそれが正しいと言うことになる。

2020-05-17 23:01:59
Takehiro OHYA @takehiroohya

⑧しかしこの問題に裁判で決着を付けることは、おそらくできない。被害者がいなければ損害の回復を求める争いはできないし、そのような場合に法秩序への適合性を争う裁判(客観訴訟)をするためにはそれを認める特別の法規定が必要(いわゆる定数是正訴訟はその例)。この件ではどちらも無理そう。

2020-05-17 23:02:00
Takehiro OHYA @takehiroohya

正確に言うと訴えるのは勝手だけど、裁判所に法的判断を下してもらう(形式的に無理という「却下」でなく実質的にダメという「棄却」まではいく)ためのスキームが、私には思い付かない。いろいろ訴えたがる弁護士さんたちもまだできてないから、やっぱり無理なんじゃないか。

2020-05-17 23:02:00
Takehiro OHYA @takehiroohya

というわけで争いがある、法的な決着は付かないが制度的な答え。 すっきりしないでしょ? すっきりしないんだよ。で、すっきりしない人たちに叩かれるから問題の構造がわかってる利口な人は喋らないんですよ。喋るのは、すっきりしないはずのものをすっきり見せることをご商売にしてる人たち。

2020-05-17 23:02:00
Takehiro OHYA @takehiroohya

⑪ただ、それぞれの有利な点は学問的に挙げることができる。まず否定説は、国公・検庁両法の関係を単純に理解することができる。過去の内閣法制局解釈にも合致している。ただし内閣法制局はあくまで行政機関でその解釈も行政庁の標準になるにすぎない。訴訟のような解釈の確定力はない。

2020-05-17 23:02:00
Takehiro OHYA @takehiroohya

⑫かなり以前にblogで書いたが、著作権の期限が切れるのはいつかという争点に関する政府解釈が裁判所に否定されたケースもある。また、権威があるとしても変更もあり得るし一般論としては新しい方が強い、のは裁判所の判例変更と同様と考えられる。

2020-05-17 23:02:01
Takehiro OHYA @takehiroohya

⑬では肯定説。あたらしい内閣法制局解釈に支持されている。検庁22条はどう見ても定年規定なので、定年に関する国公法の規定が適用されても不思議でない。そもそも国公法の想定するトラブルが検察庁には起きないという想定に無理があるので、それに対処する制度は適用された方がいい。

2020-05-17 23:02:01

Takehiro OHYA @takehiroohya

⑭それで私自身はどう思うか。まず特定事例を想定しない制度設計の次元で言えば、定年延長制度は万が一のトラブルに備えるものなので、あった方がいい。トラブルを想定しなければ起きないはずというダチョウ主義はいい加減にした方がいい。これは今回の改正案への評価と共通。

2020-05-17 23:02:01
Takehiro OHYA @takehiroohya

⑮加えて、検察庁法の規定ぶりにあまり固有の意味を読み込まない方がいいとも思っている。同法を読むと、スタイルが古く特殊なことがわかる。まず第1条から目的や定義規定を置くのが戦後の基本的なスタイルなのに対し、いきなり組織規定が来ている。各条に見出しもついていない。

2020-05-17 23:02:01
Takehiro OHYA @takehiroohya

⑯あとこれは、もちろん私も古い法令をそれほど注意して読んできたわけではないが異様だと思ったのは、附則の条文番号が本体と連続で振ってある。普通はあらたに附則1条・2条……となるのだが、本体が32条の2まで、附則が33条から制定時42条まで。他では見たことないなあという印象。

2020-05-17 23:02:02